
開戦後にトランプ大統領と会談した高市首相。石油危機より日米関係を優先したと評価されている
ホルムズ海峡が封鎖されれば、原油の9割が途絶える。そんな危機が目の前に迫っているのにもかかわらず、日本は今回のイラン戦争で声を上げていない。
理由は単純。エネルギーでは中東に、安全保障では米国に依存しているからだ。イラン攻撃を巡る分断の中で露呈した、戦後日本が抱え続けてきた"構造的な弱点"。
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【日本の石油輸入の中東依存度が高いワケ】
アメリカとイスラエルがイランへの大規模な奇襲攻撃を開始してから1ヵ月余り。イランによる報復攻撃は湾岸諸国にも広がり、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となる中、原油輸入の約95%を中東の湾岸諸国に依存する日本は深刻なエネルギー危機に直面している。
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ホルムズ海峡が封鎖されるという事態は、私を含む日本の石油資源関係者の多くが想定していなかったはずです」
そう語るのはエネルギー政策に詳しい経済産業研究所(RIETI)コンサルティングフェローの藤和彦氏だ。
「日本は1970年代にも中東戦争を契機に、OPEC(石油輸出国機構)が原油価格を大幅に引き上げた『オイルショック』を経験しています。ただし当時は、供給不安と価格高騰が日本経済を直撃したものの、物理的な原油の枯渇は起きませんでした。
しかし、今回は違います。このまま長期にわたってホルムズ海峡を日本のタンカーが通れなければ、その間、輸入原油の9割が途絶えてしまう。戦後の日本が初めて直面する、文字どおり未曽有の危機なのです」
それにしても、なぜ日本はこれほどまでに中東依存が高いのか。
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1971年、サウジアラビアのファイサル国王が来日し昭和天皇と会見。日本の中東依存はこの頃には90%だった
藤氏によれば、日本は高度経済成長に合わせて、1960年頃から中東からの輸入を増やし、67年の時点で中東依存度は91.2%に上っていた。しかし、70年代のオイルショックを受けて、輸入先が偏っていることを反省し、東南アジアや中国、メキシコなどからの調達を増やした。その結果、80年代後半には中東依存度が67%まで低下した。
「ところが、その後、中国や東南アジアが急激な経済発展を遂げると、自国内での石油消費が増加したことで各国の輸出余力が低下しました。
また、日本国内の石油精製施設の多くが中東産の原油に適した仕様だったため、『既存の設備を活用できる』という現場の声が輸入先分散よりも優先されたこともあって、次第に現在のような中東依存状態へと逆戻りしてしまったのです」
その結果、日本の中東依存度は再び上昇し、現在では約95%に達しているのだ。
【影響大なのに静かな日本と韓国】
こうした日本の極端な中東依存は、今回のイラン攻撃に対する日本の立ち位置をより難しいものにしている。国際政治学者で上智大学教授の前嶋和弘氏はこう語る。
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「今回のイラン攻撃が国際法違反であるという認識は、アメリカとイスラエルを除く多くの国々で共有されています。
しかし、日米首脳会談での『世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ』という高市首相の言葉が象徴するように、日本は日米関係を優先し、国際法を巡る議論には踏み込まない姿勢を取り続けています。
国際法の議論から距離を置くことは、ウクライナ問題や台湾問題で日本が一貫して強調してきた『国際法による秩序』や『実力による現状変更は許さない』という主張の根拠を揺るがしかねません」
それでも現政権は"対米関係最優先の一本足打法"を続けている。その結果、未曽有のエネルギー危機を招きかねないイラン攻撃を仕掛けたアメリカに対して、強く言えない構図が生まれている。
「安全保障でアメリカへの依存度が高い日本は、イラン攻撃についても『法的評価は差し控える』『事実関係を精査中』と明言を避けています。
一方で、原油輸入では中東依存が極めて高く、その影響を直接受けざるをえないため、事態の早期収束を望むしかない。
この二重の依存構造は、アメリカと同盟関係にある隣国の韓国とも共通しています」
韓国の原油輸入に占める中東依存度は約70%と、日本に次いで高いが、両国とも、強く主張しづらい立場にある。
2019年の上海協力機構首脳会議で中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領と並ぶイランのロウハニ大統領(当時)。中東の混乱は中露の影響力拡大を後押しする側面もある
主要国の中でこれに続くのがインドと中国で、共に約50%前後だ。インドは国名を挙げずに自制と停戦を呼びかけるにとどめた一方、中国はアメリカの行動を国際法違反だと明確に批判している。
「アメリカが国際法を無視すればするほど、皮肉にも中国の立場が強まる可能性があります。中国は台湾やウイグル問題を内政問題と位置づけているため、他国を攻撃するアメリカを批判しやすい構造にある。その結果、国際社会における中国の相対的な評価が押し上げられる可能性もある。今回のイラン攻撃で最も利益を得るのは、中国かもしれないのです」
【グラデーションがある欧州各国の姿勢】
一方で、原油の中東依存度が5〜10%と低い欧州は、アメリカとイスラエルの軍事行動に対して距離を取る姿勢を強めている。欧州政治が専門の国際政治学者で筑波大学教授の東野篤子氏はこう語る。
「今回のイラン戦争に対する欧州各国の共通姿勢は、『この戦争に関わらないようにする』という点にあります。
背景には、2003年のイラク戦争に中途半端に関与したことへのトラウマがあります。アメリカの大義なき戦争に巻き込まれることは二度と繰り返したくないという認識が、程度の差こそあれ欧州全体で共有されているのです。
さらに、欧州にとっては中東のイラン問題よりも、より身近なウクライナ問題のほうが切実という点もあります。これは、アメリカの軍事行動に協力しない"口実"にもなります。
また、ロシアによるウクライナ侵攻を『深刻な国際法違反』と批判してきた欧州にとって、国際法を無視したアメリカとイスラエルのイラン攻撃を肯定することは、自らがよりどころとしてきた国際秩序を否定することにもなりかねません。
そのため、欧州各国は温度差こそあれ、国際法上の問題を指摘しつつ、この戦争への関与を避ける姿勢を取っているのです」
アメリカと最も近い同盟国であるイギリスですら、一定程度こうした欧州の姿勢を共有しており、フランスやドイツも同様だ。
「また、高市首相と同じく"初の女性首相"として注目され、米トランプ政権との親密さをたびたびアピールしていたイタリアのメローニ首相も、今回の攻撃を『国際法の範囲外』と明言しており、この問題への言及を避け続けた日本の対応とは対照的です。
もちろん、メローニ首相が高市首相のように訪米を間近に控えていたら、あれほどハッキリとアメリカの国際法違反について明言できていたかはわかりませんが」
中でも最も強くアメリカを批判しているのがスペインだ。
「スペインのサンチェス首相は、イラン攻撃を『違法であるだけでなく、非人道的でもある』と批判し、国内の米軍基地の使用を拒否した上に、攻撃に関与する航空機の領空通過も認めていません。
米軍基地の使用を巡っては各国の対応はさまざまです。
ドイツは駐留協定の範囲内に限定して対応しつつも、(憲法に当たる)基本法に基づき軍事関与には明確な制約を設けています。また、国連やNATOの要請のない軍事行動には参加できないとして拒否したように、明確な根拠と共に自国の立場を示している点は重要です。
日米関係を優先し、立場を曖昧にしたまま様子見を続けている日本との大きな違いだと言えるでしょう」
では、日本に残された選択肢は何か。東野氏は「欧州との連携だけで情勢を動かせるとは限らない。だからこそ日本としても、日米関係との整合性を損なわない形で、ホルムズ海峡の航行の安定確保に向けた独自の外交的働きかけを行なう余地を真剣に検討すべきだ」と指摘する。
イラン側は「敵対国やその同盟国に対してのみ封鎖している」としており、交渉次第では日本も対象外となる可能性がある。同盟分断という思惑はあるものの、資源の枯渇という危機を前に、日本は避けてきた判断を迫られている。
取材・文/川喜田 研 写真/時事通信社 ホワイトハウス
