
「この企業、コンサルタントなんて職種はないですよね?」
私が採用を支援している企業の会議室で、手元の経歴書を見て問いかけると、人事担当者は「えっ、そうなんですか?」と目を見開いた。
最近、書類選考の場でこうした「あまりにできすぎた、どこかいびつな経歴書」に遭遇することが増えている。
生成AIを使えば、誰でも瞬時に論理的で華やかな経歴書を作成できる。しかし、AIは時として、「現実には存在しないもの」を平気ででっち上げる。ハルシネーションと呼ばれる、もっともらしい“AIのうそ”である。
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冒頭のケースで違和感を抱いた理由は明確だ。応募者がコンサルタントを経験したとする企業には、「法人営業」と「広告制作」の職種しか存在しないはずだからである。
書類を読み進めると、「改善提案」や「課題抽出」といったコンサルタントらしき言葉が並ぶ一方で、「広告制作」という文言も混在していた。
ここで違和感の理由が明確になった。この候補者は、広告制作に伴う「取材」を行っていただけだ。その事実をAIに読み込ませて書類を作成した結果、AIが「ヒアリングや提案を行う仕事なら、コンサルタントである」と、勝手に“誤読”したのである。
こうしたAIのうそが、さまざまな採用現場で見られるようになってきた。
私たちは、それをどう見破るべきなのか。今回は、AI時代の採用に潜むリスクと、選考のあり方を探っていきたい。
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●AIがはびこる採用現場
現在の採用現場では、新卒・中途を問わず、求職者が生成AIを用いて履歴書や職務経歴書を作成することは普通になりつつある。
主要な求人プラットフォームにはAI執筆アシスト機能が標準搭載され、候補者は自らの経歴を断片的に入力するだけで、AIが文章を作り上げる。
このような「AI経歴書」には、AIのうそが含まれたものも多い。
AIは、入力された情報に穴があれば、過去の膨大な学習データから「その文脈において最も確率的に正しいと思われる回答」を推測し、勝手に埋める。前述のコンサルタントへの書き換えのケースは、その典型例だ。
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受け手である企業側には、「人事のリテラシー格差」が起きている。AI特有の癖を熟知している担当者は、わずかな違和感からAIのうそを見抜く。一方で、それに気付かず「文章がきれいだから優秀だ」と考えてしまう担当者もいる。
AIのうそに気付けずに採用してしまうと、入社後のミスマッチによる早期離職や、現場の混乱など、企業経営に直結する甚大なリスクとなる可能性がある。
●AI経歴書の「3つのうそ」
AI経歴書に共通して現れるうそは、以下の3つだ。
1.職種・役職の「アップグレード」
読み込んだ業務内容からAIが推測し、その企業に実在しない職種を生成する。特に「コンサルタント」や「ディレクター」といった、定義の広い言葉には要注意だ。
2.実績の「確率」の誇張
AIは「説得力を高めて」と指示されると、過去の学習データから大きく見せるための数字を勝手に割り振る。仮に本人の実績が100%であっても、読み込ませた文章でAIが「200%と書いても自然だ」と判断すれば、200%という数字に書き変えることがある。
3.専門用語の「論理的矛盾」
AIは概念として矛盾する単語を、単に「響きが良いから」という理由で並べがちだ。例えば、「アジャイル開発をウォーターフォール的に進めた(改善を重ねながら進める開発を、最初に正解を決めて進めた)」などはその一例である。
●AI経歴書の見極めポイント
こうした「うその経歴」に対し、人事に求められるのは、主に以下の3つのアプローチだ。
1.「きれいだが、具体性がない」AI独特の言い回し
AIが生成した文章には、「〜を最大化させ」「多岐にわたる」といった、汎用的な言葉が並ぶ傾向がある。論理的だが、独自の苦労や工夫など、具体的な内容が見えてこないことが多い。
「きれいだが、具体性がない文章」は、AI生成を疑うべきだろう。
2.「現場巻き込み型」選考の徹底
専門性の高い経歴の場合、具体的な数字の記載は現場に直接聞くのが有効だ。「この分野で、この期間にこれだけの実績を出すのは可能か。この数字の評価はこう書くのが普通か」という、専門職ならではの「違和感」は、AIのうそを見抜くためには有効だ。
3.「What」ではなく「How」を問う深掘り
AIは「何をしたか(What)」をデコレーションするのは得意だが、「どのように動いたか(How)」は苦手だ。具体性のない記載は疑った方が良い。
共通するポイントは、応募書類を「選考するための書類」だけではなく、「面接で具体的な質問をするのに必要な、仮説立てをするための書類」と定義することだ。AIが作った経歴書だった場合、面接で本人に記載内容の“具体例”や“記載した根拠”を直接聞くと、回答できないことがある。これがAI経歴書に対抗する手段である。
●AIに使われているか、使いこなしているか
書類で見極めるべきは、AI使用の是非ではない。その応募者が「AIという武器をどう扱っているか」という、応募者自身の姿勢である。
AIが出力した文章をろくにチェックせずにそのまま提出する人材は、実務でもAIの誤情報をうのみにする「AIに使われる側」の人間だ。AIに全て任せて思考を放棄し、そこには当事者意識も責任もない。
AIを使いこなす人材は、AIを構造化のパートナーとして賢く利用する。AIの限界を理解し、AIが作り上げた文章に自らの泥臭い実体験や、オリジナリティを肉付けする。
「AIに使われている人かどうか」という視点を持ち、目の前の書類に、候補者自身の意志と責任が介在しているかどうかを見極めるのが重要だ。
採用側がきれいすぎる言葉に惑わされ、AIのうそを見抜けなければ、それは企業側もまたAIに使われる側に陥っていることになる。AIに使われているのか、AIを使いこなしているのか。応募者の本質を見抜く専攻プロセスが、人事に求められている。
著者プロフィール:村上 ゆかり
コラムニスト。1児の母。リクルートにて人材業界で法人営業、面接、面談フォロー実績数百件を経験。人事役員などと伴走しさまざまな人事課題に向き合う。広告業界にて5000人集客イベント企画&事務局経験、福祉業界では人事管理職として新卒及び中途採用を1人で設計から実務まで担当し年間約120人採用を達成。国会議員秘書約4年半を経験後、フリーで活動を始め、執筆のほか企業の人事採用コンサルタントなどを手掛ける。アンガーマネジメント講師。
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