
「もう、どうしたらいいんでしょうか……何を言ってもハラスメントと言われそうで、指導できないんです」
ある機械メーカーの営業課長(40代)から、こんな相談を受けた。部下の育成に真剣に向き合おうとするたびに、ハラスメントになることを恐れて言葉を飲み込んでしまう。結果として当たり障りのない指導しかできず、部下の成長機会を奪ってしまっている。それがホワイトハラスメントだと気付いたときには、すでに部下の転職意向が高まっていたというのだ。
ホワイトハラスメントとは、上司や先輩が部下に対し、残業の禁止や責任ある仕事を避けるなど過剰な配慮や優しさを示すことで、部下の成長機会やキャリア形成の場を奪ってしまう現象だ。
マイナビの調査によれば、ホワイトハラスメントを経験した人の71.4%が1年以内に転職を検討しているという。善意の配慮が、人材流出の原因になっているのだ。
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そこで今回は、ホワイトハラスメントに陥らないための、部下育成のアプローチについて解説する。若手社員の指導に悩んでいる管理職の方は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
●優しくすべきか、厳しくすべきか?
私は20年以上も「マネジャー研修」に関わってきているが、昨今の上司は明らかに迷っている。「優しくすべきか、それとも厳しくすべきか」という問い掛けばかりしている。
「優しくしたら、成長しません」
「厳しくしたら、パワハラと言われます」
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「どんなバランスでやったらいいのでしょうか?」
しかしこれは、そもそも「問いの立て方」が間違っている。
どちらの方向に振れても問題が起きるのは、「何のために指導しているのか」という目的がずれているからだ。
指導の目的は、ただ一つだ。部下が目標を達成できるようにすること。それだけである。目標を達成することで組織に貢献できるし、そのプロセスにおいて成長するのだ。
●山頂への登山ルートが見えれば、人は自ら動く
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部下育成を「山登り」に例えてみよう。そうすると、分かりやすいはずだ。
上司の役割は、山の“山頂”まで部下を連れていくことと考える。山頂とは、組織が設定した目標のことだ。
「山頂に向かって登ろう」という合意ができない部下は、まずいない。自分の目標として納得できれば、人は自ら動こうとする。主体的に動かない問題は、限られている。
「どう登ればいいか分からない」
「最も効率のいいルートはどこか?」
「もしも迷子になったらどうする?」
ルートが見えていないから、一歩を踏み出せない。「大丈夫」「君ならできる」と言われても、万が一のことを考えると躊躇(ちゅうちょ)する。だから、動けなくなる。これが「主体性が欠けた部下」の正体だ。
だとすれば、上司がやるべきことは明確だろう。
山頂への登山ルートを一緒に設計し、ルートの途中にある経由地(中間目標)を示し、経由地ごとに進捗を確認することだ。「もっと主体性を持て」「とりあえず動いて」と叱咤(しった)するのではなく、「次の経由地はここだ。そこまでどう進むか、一緒に考えよう」と向き合うこと。それが、本来の指導の姿である。
この山登りの例えで言えば、ホワイトハラスメントとは「山頂まで行かなくてもいい」と言ってしまう上司の姿勢だ。
「きつかったら無理しなくていい」
「途中で下山してもいいから」
「私が代わりに登ってあげようか?」
と言い続けることは「優しさ」とは言えない。部下が山頂にたどり着く機会を奪っているのだ。
●正しい手順を教えることが、部下育成の基本
「どの山に登ればいいか分からない」
「あの山の、どこまでたどり着けばいいのか分からない」
「そもそも、どうやって登ったらいいか分からない」
こんな分からないことだらけの中なのに、それでも
「自分なりに考えて登って」
「失敗してもいいから」
と言われ続けて、山中に放り出されたのが、現在の40〜50代の管理職だ。筆者(56歳)もまさにそうである。「どうすればいいですか?」と上司に質問しようものなら、
「自分で考えろ」
「お前の頭はどこに付いてるんだ」
と叱られた。だから、理不尽な“ダメ出し”をされながら、山中をさまよい、自分なりのルートを見つけてきた。そのような経験しかないから、部下にも
「他人に頼らず、自分の力で登れ」
と言いたくなる。しかし「タイパ」を重視する若者に、そんな言い分は通用しない。それどころか「単に教え方を知らないだけ」「部下指導を放棄している」と見られてしまう。
では具体的にどうしたらいいのか? 正しい目標達成の手順をしっかり教えよう。私が推奨しているのは、以下の7ステップだ。
1. 目標を正しく設定する
山登りでいえば、どこが山頂なのか。どこにたどり着けばいいのかをピンポイントで決めることだ。具体的で、達成したかどうかが明確に判断できる目標でなければならない。「コミュニケーション力を高めろ」「論理思考を身に付けろ」では、ゴールイメージがわかない。
2, 中間目標(経由地)を設定する
どこがゴールなのか? どの地点が山頂なのか? それがハッキリしたら、どこを経由すれば目的に効率よくたどり着くのか。その経由地を一緒に考える。マラソンでもそうだ。ゴールする場所は知っていても、どこを経由すればいいか分からないのなら、どの方向へ走っていったらいいか分からない。
3. 課題を設定する
中間目標を決めたら、中間目標と現状の間にある「ギャップ(溝)」を明らかにしよう。そしてそのギャップを埋めるために、何が障害になっているかを特定する。「装備が足りない」「スキルが不足している」このような課題を先に決めておくことで、正しい行動計画を立てることができる。
4. 課題ごとに行動目標を決める
課題が分かったら、ここからは一気に進むだろう。山登りを始める前に、足腰を鍛えておく、装備を買いそろえておく、入念にルートの確認をする。このような具体的な行動を決めるのだ。
5. 計画を立てる
行動目標が決まったら、いつ、何を、どの順番でやるかの計画(アクションプラン)を作る。目標を決めてすぐ計画を作ろうとする人は多い。しかし、それは山頂を見つけてすぐに山へ登ろうとする姿勢だ。(2)〜(4)の手順を飛ばすと”遭難”する可能性が高いので、気をつけよう。
6. スケジュールに落とし込む
実のところ計画を立ててからが大事だ。計画をスケジュールに落とし込むことで「計画倒れ」の確率が各段に落ちる。「何日の何時から何時までにやるか」を手帳やカレンダーに記入して初めて、行動が動き出す。
7. タスクを効率よく処理する
スケジュールに落とし込めたとしても、スケジュール通りに動けるとは限らない。目先のやるべき作業(タスク)を効率よく処理できないと、「頑張っているんですが、達成できない」という状態に陥る。タスク処理のやり方まで上司は教えてあげよう。
この7つの手順を、上司と部下と一緒に準備する。そうすることで、「何をすればいいか分からない」という状態は必ず解消されるだろう。ルートが明確になれば、人は自ら動ける。動けば手応え(小さな達成体験)が生まれる。手応えさえあれば、モチベーションは自然と上がっていくものだ。
●1on1やモチベーション管理は「手段」に過ぎない
よく「1on1を導入すれば部下との関係が改善する」と言われる。もちろん、定期的な対話は重要だ。しかし、1on1そのものが目的になってしまうと、何も変わらない。「最近どう?」「何か困ってる?」という会話を繰り返しても、登山ルートが見えない部下には何の助けにもならない。
「何をめざしたらいいか、それをハッキリ教えてくれないのに、『最近どう?』と言われても……」
これが最近の若者の本音なのだ。
1on1の場でやるべきことは、「調子はどう?」「何か心配事ある?」という問い掛けではない。「今どの経由地にいるのか」「次の経由地まで何が必要か」「どこでつまづいているか」を確認し、ルートを微調整することだ。これができれば、1on1は本当に意味のある時間になる。
●ホワイトハラスメントは「手順の欠如」から生まれる
ホワイトハラスメントが起きるのは、上司が「優しすぎる」からではない。正しい手順を知らず、あるいは教えないまま、部下を「なんとなく見守る」だけになっているからだ。
山頂への登山ルートを設計せず、経由地も示さず、ただ「無理しなくていい」「分からないことがあったら、言って」と言い続ける。こんな姿勢が部下の成長機会を奪い、ホワイトハラスメントになるのだ。
逆に言えば、正しい手順を一緒に作り、経由地ごとに確認し、「次はここだ」と示し続ける上司は、部下もついてくるだろう。厳しさとか優しさとかは、関係がない。手順が共通言語になれば、「なぜこれをやるのか」が明確になるからだ。ハラスメントの多くは、手順がないから感情的になるのだ。
ホワイトハラスメントを恐れる必要はない。正しい手順で部下と向き合えば、ハラスメントの入り込む余地はない。山頂を目指すルートが見えている部下は、もう「指示待ち」ではなくなるのだ。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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