※写真はイメージです(写真/Adobe Stock) いよいよ始まったゴールデンウィーク。楽しみではあるものの、移動時の交通渋滞が思わぬトラブルや修羅場を生むことも少なくない。坂口優子さん(仮名)が語るのは、帰り道で子どもがトイレの限界を迎えた際の出来事だ。
◆行きは順調だった。問題は帰り道……
ゴールデンウィークの真っ只中、坂口さんは夫と娘の3人で車に乗り、日帰りのおでかけを楽しんだ。行きはそれほど混雑していなかった。しかし帰り道、高速に乗ってすぐに電光掲示板が「事故渋滞25キロ」を告げた。「嫌な予感がしたのを覚えています」と坂口さんは振り返る。
最初はゆっくりと前進していたが、途中からほとんど止まったままになった。前の車との車間が詰まったまま、ブレーキとアクセルを踏み替えるだけの状態が延々と続く。気づけば、30分以上まともに進んでいなかった。
◆娘が小さな声で「トイレ行きたい」
娘は静かにしていた。だが、だんだん落ち着かなくなり、「ねえ、あとどれくらいで着くの?」と繰り返し聞いてくるようになった。坂口さんは「まだかかりそうだよ」と答えながら、内心では焦りを感じていたという。
そしてしばらくして、娘が小さな声で「トイレ行きたい」と言った。
「私は『まだ大丈夫だよね?』と軽く聞き返したのですが、『うん……』と曖昧な返事でした。ここで一気に空気が変わりました」
ナビで確認した次のサービスエリアまでの距離は、なんと10キロ以上。しかも渋滞のど真ん中である。夫婦の間に、言葉にならない焦りが広がった。夫が「これ無理じゃない?」と小声で言う。坂口さんも同じことを考えていた。それでも「大丈夫だよ、もう少しで動くはずだから」と答えるしかなかった。
◆「もう少し」という言葉が虚しく響く
渋滞は動かなかった。娘は我慢しているが、体をもぞもぞさせ始め、「あとどれくらい?」と聞く回数がさらに増えていった。そのたびに「もう少し、もう少し」と返す自分の声が、どんどん空虚に聞こえてくる感覚があったと坂口さんは語る。
前の車のブレーキランプだけが、ぼんやりと赤く光っていた。
やがて娘は黙り込み、シートの上で体を小さく丸めるような姿勢になった。「その様子を見て、もう限界が近いと直感的にわかりました」と坂口さんは言う。
◆ついに限界「もうむりかも」
「非常駐車帯とかないの?」と強めの口調で聞くが、ナビにも表示はなく、路肩もほとんどない区間だった。どこにも逃げ場がない状況の中で、焦りだけが積み重なっていく。
そして、ついに娘が「もうむりかも」と言った。顔を見ると、今にも泣きそうだった。
坂口さんは覚悟を決めた。
夫には、少しだけ車列が動いたタイミングを見計らい、ハザードランプを出して路肩に寄せられるスペースを見つけ、そこに車を止めてもらった。
「完全に安全とは言えない場所でしたが、もうそれ以外の選択肢はありませんでした」と坂口さんは言う。
急いで“対応”し、なんとか乗り切った……。
(※)高速道路上での路肩停止や車外での用足しは、後続車との接触など重大事故を招きかねません。路肩は本来、故障や事故など緊急時のためのスペースです。トイレはSA・PAなどで済ませるように心がけてください。
車に戻ってからは、しばらく誰も話さなかった。ただ静かに前を見ていた。あの沈黙には、安堵と疲弊と、少しの気まずさが混ざり合っていたのかもしれない。
「それ以来、長距離移動のときは、必ず早めに休憩を取るようになりました」
ゴールデンウィークの交通渋滞は、ほぼ避けられない。そのなかで子どもがトイレの限界を迎えたとき、親は「もう少し」という言葉の無力さを思い知ることになる。あのゴールデンウィークの帰り道は、坂口さんにとって忘れられない思い出になった。
<構成/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo