
高輪ゲートウェイ駅前に開業した複合商業施設「高輪ゲートウェイシティ」。東京都心で広大な再開発が行われるのは珍しく、大きな注目を集めている。
2026年3月28日には、ルミネが手掛ける過去最大規模の商業施設「ニュウマン高輪」の最後に残されていたエリア「MIMURE」(以下、ミムレ)と、建築家・隈研吾氏が外装デザインを手掛けた文化施設「MoN Takanawa」(以下、モン高輪)がオープンした。これにより、高輪ゲートウェイシティの主要な商業施設が出そろったことになる。
ミムレには高級飲食店が集まっており、神戸牛を使った超高級牛丼御膳を提供する店舗や、約300席を備えたフードコートなどが入居する。
一方のモン高輪は、フロア全体に畳を敷き詰めた空間を設けるなど、少し風変わりな文化施設となっている。
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高級飲食店を集めたミムレと、あえて余白を設けたモン高輪。この2つの施設は、高輪ゲートウェイシティの今後を占う存在でもある。
今回は、ミムレとモン高輪の特徴を紹介しながら、高輪ゲートウェイシティが今後どのように発展していくのかを考察したい。
●高輪ゲートウェイシティ、どんな施設?
ミムレとモン高輪を紹介する前に、まずは高輪ゲートウェイシティがどのように開発されてきたのかを振り返っておきたい。
高輪ゲートウェイシティは、4つの街区で構成されている。駅前広場の正面には、「THE LINKPILLAR(リンクピラー) 1 NORTH/SOUTH」のツインタワーが建つ。その隣の田町駅側には、「THE LINKPILLAR 2」がある。各ビルにはオフィスも入居している。
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さらに田町駅寄りには、建築家・隈研吾氏が外装デザインを手掛けた中層棟のモン高輪がある。最も田町駅側にあるのは、住宅棟「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE(高輪ゲートウェイシティ・レジデンス)」だ。
2025年9月12日には、ツインタワー内にルミネが手掛ける過去最大規模の商業施設であるニュウマン高輪が先行オープンした。
ニュウマン高輪の高層階にあるレストラン街「ルフトバウム」には、高価格帯の店舗が集まる。物販では、化粧品・香水の分野でエルメス、プラダ、シャネルといった高級ブランドが並ぶ。一方ファッションでは、ニューバランス、無印良品、リカバリーウエア「BAKUNE(バクネ)」がヒット中の「TENTIAL(テンシャル)」なども出店している。スーパーでは明治屋と成城石井が入居。全体として、通常のルミネよりも高級志向の店舗が目立つ構成だ。
さらに、外資系高級ホテル「JWマリオット・ホテル東京」も開業。高輪ゲートウェイシティ・レジデンスには約850戸の高級賃貸住宅がある。
こうして見ると、高輪ゲートウェイシティは単なる駅前商業施設ではなく、オフィス、ホテル、住宅、商業、文化施設が一体となった、“六本木ヒルズの延長線上”にあるような複合商業施設と言える。
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●高級路線を打ち出す「ミムレ」
そんな高輪ゲートウェイシティのニュウマン高輪にオープンしたのが、ミムレである。その特徴は、高価格帯の飲食店が集まっている点だ。
象徴的なのが、ミムレ3階のレストランフロアに出店した高級牛丼店「牛丼 ききや」(以下、ききや)である。
同店には、全周50メートルという大理石の巨大なバーカウンターが設けられている。60席を備えた店内では、360度どこからでも調理風景を見ることができるという。提供するのは、A5ランクの黒毛和牛を使った“極上の牛丼”だ。濃厚なたまりしょうゆを使った割下で仕上げ、羽釜で炊き上げた白米とともに提供する。
価格は、牛丼に季節野菜の揚げ浸し、国産大豆の冷奴、漬物、赤だしが付いた御膳で、常陸牛が2700円、山形牛が3200円、神戸牛が4950円。お酒や牛皿などのつまみも用意されている。
日本のソウルフードともいえる牛丼を、あえて高級食材と空間演出で再構成し、新たな食体験へと昇華させようとしている店だ。
●超高級牛丼のロールモデルは……
この超高級牛丼と似た成功事例がある。大阪・関西万博で販売されていた、1杯3850円の「究極の神戸牛すき焼きえきそば」と「究極の神戸牛すき焼きめし」だ。
手掛けたのは、JR姫路駅の名物「えきそば」や「あなごめし」などの駅弁で知られる、まねき食品である。同社は、ワンコインで食べられる庶民的なえきそばを、高級食材でアップデートした。
その狙いは、近年存在感が薄れつつある駅弁を、日本の食文化として世界にアピールし、持続可能な事業へと育てていくことにあった。
この取り組みは、メディアやSNSでは「立ち食いそばでその値段は高すぎる」と批判されることもあった。しかし、その話題性によって知名度は一気に上がり、「一度試してみたい」という人が殺到。初日だけで約300杯を売り上げるヒット商品となったのである。
ききやは、この高級化の文脈を参考に、庶民的な牛丼を新たな食体験へと引き上げたセレブ牛丼店だ。
このほかにも、ミムレ3階のレストランフロアには、鎌倉のそばの名店が出店した「鎌倉 松原庵 高輪」、築地玉寿司の上位業態「鮨 上ル」などが並ぶ。全体的に、特別な日に少し奮発して訪れるような店が集まっているのが特徴だ。
●約300席の高級フードコートも
ミムレの2階にも、特徴的な飲食空間がある。12の専門店が集まる「OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪(オガワコーヒーラボラトリー高輪)」だ。
店名だけを見るとコーヒーショップのように思えるが、実際には約4000平方メートルのワンフロアを使った、巨大な高級フードコートである。ゆったりと過ごせる席も多く、席数はおよそ300席に上る。
ここで楽しめるのは、コーヒーだけではない。スイーツ、炭火料理、ピザ、ワイン、クラフトビールなど、食事からアルコールまで幅広くそろう。さらに、食に関連する書店や食材販売のスペースも設けている。
このフードコートは、「小川珈琲」が掲げるフェアトレードや、環境や生産者に配慮した消費のあり方を重視する考え方をベースにしている。また、製造工程をオープンにしながら、食の本質に触れる体験を提供しているのも特徴だ。
単なるフードコートではなく、食の背景まで含めて味わってもらうための場所と言えるだろう(ちなみに、100円台のお茶なども販売されているので、安価に過ごすことも不可能ではない)。
●広々とした空間が特徴の「モン高輪」
人工の小山ようにも見えるモン高輪は、一棟まるごとイベントスペースにしたような、これまでになかったタイプの建物だ。街の文化創造・発信拠点として位置付けられている。
総合プロデューサーは、大阪・関西万博で食をテーマにしたパビリオンを手掛けた小山薫堂氏。館内には、1階、3階、6階にカフェのような飲食店がある程度で、ミュージアムショップを除けば物販はほとんどない。
展覧会が行われる5階の施設を目指す人も多いが、筆者がモン高輪の最大の特徴だと考えているのは、4階の「Tatami」(以下、タタミ)だ。
タタミは、ワンフロアに約100畳の畳が敷かれた空間である。靴を脱いでくつろぐことができ、赤ちゃんがハイハイしても良いという。イベントスペースでもあり、和楽器の演奏など、使い方はアイデア次第だ。
商業施設は、どうしても売り上げを上げることを前提に設計される。そのため、これまでの商業空間は、買う、食べる、移動するなど効率を重視しすぎていた面がある。店舗を極力詰め込むケースも多い。
タタミは、そうした空間づくりだけでは息苦しくなってきたことにディベロッパー自身が気付き、あえて「何もしなくても良い場所」を商業施設の中に組み込んだことを象徴するような空間である。
また、モン高輪の屋上は緑化され、神社や見晴らしの良い花見テラス、6階には足湯テラスや月見テラスもある。「何もしなくても良い場所」を、館内だけでなく屋上にも用意している点が非常に興味深い。
●「広域品川圏」の中核として、定着できるか
高輪ゲートウェイシティは、JR東日本が「広域品川圏」と呼ぶ、浜松町駅、田町駅、高輪ゲートウェイ駅、品川駅、大井町駅までのエリアを一体の街として捉える構想の中核に位置付けられている。
広域品川圏の開発の背景にあるのは、今後開業予定のリニア中央新幹線や、羽田空港へのアクセスの良さだ。JR東日本は、この一帯を職住近接の新たな都市圏に育てようとしている。
東京では、三菱地所が丸の内、三井不動産が日本橋、森ビルが港区のヒルズシリーズ、東急が渋谷といったように、ディベロッパー各社が主導する大掛かりな再開発の街づくりが進んでいる。そこに、遅ればせながらJR東日本も参入した格好だ。
ただ、広域品川圏構想がいかに壮大でも、その中核となる高輪ゲートウェイシティに人が集まらなければ、絵に描いた餅になってしまう。高級店をそろえ、文化というコンセプトで集客するだけでは、継続的なにぎわいを生み出すのは難しい。
神戸牛を使った高級牛丼御膳や、無料でくつろげる畳のフロアなど、開業直後は物珍しさで集客できる。しかし、本当に問われるのは1年後、2年後だろう。
ミムレが、日常的に人が訪れる場所になれるのか。モン高輪のような余白のある空間が、都市の新しい居場所として機能するのか。広域品川圏の中核としての成否は、施設の豪華さではなく、いかに人が通い続ける理由を作れるかにかかっている。
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(長浜淳之介)
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