
2025年1月に、VAIOがノジマグループの傘下に入ってから、1年半が経過しようとしている。ソニーから独立してから10年間にわたり、企業再生ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)の下で体質を強化。法人向けビジネスにかじを切り、成長戦略の地盤を確立したVAIOが、ノジマグループ傘下で新たな挑戦を開始している。
2025年12月には、ソニー出身の糸岡健氏が社長に就任した。ソニー出身社長は、初代の関取高行氏以来約10年ぶりで、2人目となる。糸岡社長体制の下で、VAIOはどんな成長戦略を描くのか。インタビューの前編では、ノジマグループ傘下でのVAIOの新たな取り組みと、糸岡社長の決意を聞いた。
●品質重視の裏で失われた「スピード」 ノジマ流のノウハウで挑む再成長
―― 2025年1月にVAIOがノジマグループ傘下に入ってから、変わったこととは何ですか。また、変わらないことは何でしょうか。
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糸岡 VAIOは10年間にわたり、ファンドの傘下で再建を続けてきた経緯があり、その間は、積極的な投資を行える状況にはありませんでした。しかし、ノジマグループに入り、投資すべきところには投資を行い、VAIOが良くなると判断したことには優先的に投資する方向へと変化しています。
例えば、長野県安曇野市の本社工場の強化もその1つです。基板実装ラインは、ソニー時代から引き継いだものを使用し、ラインの数を絞りながら、新たな設備を少しずつ導入してきました。これによってラインあたりの生産性を高めてきたのですが、今後の成長戦略を考えると、これまでの投資の仕方では間に合いません。ここにも積極的に投資をしていくことになります。
また、ノジマグループ傘下に入ったときによく言われたのが、「VAIOはBtoCに力を注ぐのか」ということでした。しかし、VAIOにとって、国内法人事業は中核であり、売上高の約9割を占めます。VAIOの基本姿勢は、法人事業の基盤を引き続き強化することであり、この方針は変わりません。
VAIOが法人事業をさらに成長させるためには、これまでの技術部門での人材採用だけでなく、法人営業部門における若手社員の採用や育成が重要です。その点でも、ノジマグループのノウハウを活用したいと思っています。ノジマグループは社員の育成を大切にしている会社であり、それが急成長を支えているのは周知の通りです。
このノウハウをVAIOの中に取り込み、体制強化を進めています。新卒採用も、これまではエンジニアが中心だったのですが、今後は営業でも新卒を採用していくことに決めました。
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―― 社員教育については、ソニー時代からの仕組みを継承していたという認識でしたが。
糸岡 VAIO独自のマニュアルはありますし、研修制度もあります。しかし、本人が学習したいという意思をベースにしたものでした。若手社員を採用し、育てて評価していくという点で、ノジマグループの仕組みを利用することで、法人事業を中心としたより強固な成長の基盤を整えることができると考えています。
―― 糸岡社長は社長就任時点で、VAIOの課題として、スピードの欠如を挙げていました。どんなところにスピードの欠如を感じていましたか。
糸岡 ソニー時代のVAIOは、個人向けを中心にビジネスをしていました。VAIOとして独立したことをきっかけに、ほぼゼロだった法人向けPC市場に参入し、それがVAIOの再成長を支えてきました。同時に開発手法を変え、品質管理に対する考え方も変えました。
法人のお客さまに、4年〜5年は安心して使ってもらうためのモノ作りを徹底してきたわけです。その成果もあり、ここ数年で、VAIOは長年使っても壊れないという実績が、しっかりと積み上がり、VAIOに対する信頼感が醸成できたといえます。
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しかし、その一方で世界最薄や最軽量に挑んだ製品を、いち早く市場に投入し、お客さまに「WOW!」と言っていただくようなスピード感を持ったVAIOのモノ作りは影を潜めました。これは、品質重視にかじを切ったことの裏返しともいえます。
世界初の競争に安易には飛びつかず、じっくりと腰を据えたモノ作りにシフトしたことは、法人向けPCを軸にビジネスを推進するという観点では、成功したと思っていますが、安定や安心に重心を置き過ぎ、結果として「遅い」という状況が生まれてしまったことは反省点でもあります。しかも、ノジマグループの中に入ってみると、さらに経営の遅さを感じる部分が出てきました。
ノジマの野島廣司社長は、経営で重視する要素として「スピード」「ユニーク」「クオリティー」を掲げています。VAIOは、クオリティーをきっちりと維持しながら、今まで以上に事業をスピードアップすることで、より強くなれると思っています。これは、設計や開発だけの話でなく、製造や営業、オペレーションも同様です。
しかし、スピードを上げるということは、過去のスピード重視のVAIOに戻るということではありません。VAIOが持っているポテンシャルを生かすことで、いいものをもっと早く出せる。そこに新たなチャレンジがあります。そして、「スピード」と「ユニーク」は相性がいいと思っていますから、スピードが上がればユニークなものも生み出せる。VAIOならではの「スピード」「ユニーク」「クオリティー」に対する回答をしっかりと出していきます。
―― これは、「尖った」VAIOが、再び市場に投入されるということでしょうか。VAIOの日となる8月10日には、「世界初」となるPCを投入することを、ノジマの野島廣司社長が明らかにしました。
糸岡 現時点では、それを直接的に言える段階にはありません。今はVAIO自らを変えていくことが大切であり、変革をしないと、その先はありません。
―― 「尖った」製品の投入にもう少し時間がかかるということは、VAIOは、まだ「リハビリ中」ですか?(笑)
糸岡 リハビリは、大ケガをした後に行うものですからね(笑)。確かに、10年前は大ケガだったかもしれませんが、今はそこからは抜け出しています。
先ほど触れたように、VAIOは法人向けPCの領域に軸足をシフトしたことで、設計や生産、品質管理の仕方を変え、VAIOのロゴを見て安心のブランドであるという印象がようやく定着してきました。
しかし、その一方でVAIOのロゴに対して、「何かやってくれる」「いつかは『WOW!』を見せてくれる」という期待感が残っていることも感じます。これは、VAIOだけの特別なことだと認識しています。今はいろいろな伏線を張っているところですから、その回収をどうするのかを楽しみにしていてください。
●数字よりも「プロセス」を評価 ノジマ傘下で変わったVAIOの評価軸
―― 経営戦略の観点から変化はありますか。
糸岡 ノジマグループには、数字を追わないという文化があります。これまでのVAIOはファンド傘下の中で数字を設定し、それを追うことが求められていましたから、そこからは大きな転換となります。
重視するのは、行動/アイデア/プロセスの改善です。そこで、社員一人一人の評価をしていくことになります。その取り組みの結果として、ついてくるのが数字です。この文化がVAIOの中にも浸透してきました。
VAIOは、ベンチャースピリットを持ち続けることが強さにつながる企業です。それを忘れたときに業績が悪化する。ソニーがモノ作り企業としてのスピリットを発揮してきた経験は、今のVAIOの中にも生き続けています。これを活性化させ、新たなモノ作りの世界を作っていきたいと思っています。
私は社長に就任して以降、社員には「日本のモノ作りを元気にしたい。その一翼を担う存在にならなくてはいけない」と話をしています。
―― 2025年12月の社長就任直後に、安曇野本社で開催した説明会において、糸岡社長はソニーグループ本社に展示してあるソニーの設立趣意書の写真を持ち出し、「VAIO独立時の思いは、ソニーのモノ作りのDNAをVAIOが引き継ぐということだった」と述べ、その姿勢を改めて明確に示したのが印象的でした。VAIOでも、「自由闊達なる理想工場の建設」を目標に掲げましたね。
糸岡 VAIOは、ソニーから独立した際に、工場をそのまま継承し、その工場を本社にしました。また、法人向けPC事業を開始するのに合わせて、お客さまやパートナーに対して、この工場を公開することにしました。
それまでは、ほとんどやってこなかったことではあったのですが、予想外だったのはモノ作りの現場を見ていただくと、「これはいいね、すごいね」と言っていただくことが多く、「現場の力」が、みなさんに伝わることに手応えを感じたのです。
また、現場での質問などを通じて、お客さまの関心がモノ作りのどこにあるのかということも直接知ることができました。お客さまに育てられて、現在の本社工場の形ができあがったともいえます。
一方で、日本全体を見ると、こういったモノ作りの現場の強さというものが、大切にされていないことも感じます。私たちは、モノ作りの現場をもっと強くしていきたい。これがVAIOの差別化につながっていくと考えています。
中小企業を含めて、日本のモノ作りの現場には多くの匠の技が息づいています。人材不足や後継者不足によって、これが継承されないという課題もありますが、モノ作りの現場さえあれば、AIによって継承することができますし、より強いモノ作りにつなげることができると考えています。メーカーが、日本にモノ作りの現場を持っていることは、これからのAI時代において大きな強みになります。それをVAIOが証明していきたいと思っています。
―― ソニーが設立趣意書の中で示した「理想工場」の姿と、VAIOが目指す「理想工場」の姿はどこが違いますか?
糸岡 現場で意見をぶつけ合いながら、いいモノを作り上げるという在り方は、一緒だと思います。ただ、時代に即した「理想工場」の姿があり、そこに違いがあります。今はAIをいかに取り込むかが重要なテーマですし、かつての働き方とも違います。
「理想工場」の実現は容易なものではないと思っています。しかし、VAIOならではの新しい「理想工場」を目指すというメッセージは、社内に向けて、しばらく発信していこうと思っています。これは、ソニーの文化の中で育ってきた社員が多いVAIO社内には伝わりやすく、理解されやすいメッセージだと思っています。
―― ソニー出身の社長は、VAIOが独立したときの関取高行氏以来、2人目です。現在、ソニー出身者が社長に就くことで何が起きますか。
糸岡 理想工場の話やVAIOが持つモノ作りやDNAの話を、しっかりと語れるという点では、ソニー出身の私が社長に就くことによって起こる変化の1つだと思っています。VAIOはモノ作りの企業であるということを徹底するという点でも、私が適しているのかもしれませんね。
―― 確かに、理想工場の話やDNAの話など、ソニー時代から大切にしている姿勢や考え方などを多く発信しているように感じます。こうしたメッセージはあえて発信しているのですか。
糸岡 いや、それは自然と出ていることです。ノスタルジーに浸っているのではないかという批判があるかもしれませんが(笑)、前を向くためのポジティブなメッセージだと受け取ってもらえるといいですね。
●最大の失敗は「数字を追い過ぎたこと」 VAIOは絶対に無くさない
―― 糸岡社長のこれまでの経験は、VAIOの経営にどう生きますか。
糸岡 私はソニー時代に、VAIOの最初の立ち上げから関わっています。VAIOに対する「愛」は人一倍強いですし、多くの人にVAIOを愛してもらいたいと思っています。精神的な部分でのリーディングという点では、この経験値を生かせるはずです。
もう1つは、VAIOの事業に携わる中で、さまざまな業務を経験している点です。事業を開始するところから携わり、生産管理や経営管理を担当した後に、2000年から2004年までは、欧州でVAIOビジネスを一から立ち上げるために海外赴任しました。また、帰国後はサービスビジネスに関わり、2010年からは、安曇野に全ての機能を集結したのに合わせて、設計部門に異動し、プロダクトマネージャーとして新たな体制でのモノ作りにも携わりました。
VAIOでは一から立ち上げたり、新たなことに挑戦し、それを形にしたりということを何度も経験してきました。今、VAIOは、新たな形に生まれ変わろうとしているわけですから、その経験はVAIOの経営にも生きると考えています。
―― あえてお伺いしますが、ソニー時代の失敗は今のVAIOにどう生かされていますか。
糸岡 当時のVAIOはなぜ失敗したのか――最大の理由を挙げるとすれば、それは数字を追い過ぎたからです。当時は、グローバルでビジネスをしており、世界のプレーヤーたちと戦うために、数で対抗する必要がありました。
一時的にはうまくいきましたが、過度に数字を追い過ぎたことで、経営が立ち行かなくなってきた。そこにリーマンショックが重なったわけです。これも見方を変えれば、外的要因によって簡単に転んでしまう内部体質の弱さがあり、厳しい言い方をすれば数字を積み重ねていたものの、それは本当の実力値ではなかったといえます。
これは大きな教訓であり、二度と同じ間違いをしてはいけません。このとき、VAIOは無くなってしまう可能性があったわけです。社員が不幸になるだけでなく、VAIOファンであるお客さまにもご迷惑をおかけすることになる。VAIO側の都合で「もう事業をやめます」という事態になってしまったら、お客さまに対してあまりにも無責任です。そんなことはできません。
企業は社会に貢献し、人々を幸せへとつなげる役割を果たさなくてはならないと思っています。企業が数字を追求することに走ってしまったり、短期的な成長にこだわったりすると、こうした本質を忘れてしまうことになりがちです。その点は最も注意していきます。
VAIOのブランドは絶対に無くしませんし、将来は、お客さまが思っている以上の感動や驚きを提供し、「やっぱり、VAIOはいいよね」と言ってもらえるようにしていきます。
※近日公開予定の後編に続く。
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