
KDDIが6月17日、第42期定時株主総会を開催した。今回は、KDDIの子会社であるビッグローブと、その子会社のジー・プランで起きた架空循環取引の詳細が2026年3月末に発表されてから最初の株主総会ということもあり、本件の言及が目立った。
議長を務めた代表取締役社長 CEOの松田浩路氏は、本件について改めて謝罪すると共に、再発防止については仕組みの整備と、グループ会社との相互信頼の関係作りが必要であると言及。仕組みの面では、「グループ会社において不正ができない、あるいは不正を早期に探知できる状態にするために、各子会社を対象に、購買・経理のルールや運用状況を総点検した。現在、この取り組みの中で抽出した課題について改善を着実に進めている」と話す。
グループ会社との関係性については「コミュニケーションの質と量を高める取り組みを階層別に実施している。私自身も国内の子会社や海外の子会社を訪問し、経営トップや現場サイドとの意見交換を通じて対話の大切さを改めて認識している」とした。「KDDI本体では、事案の教訓の伝承と風化防止を徹底し、グループ会社では自律的な不正抑止力の醸成を進めることで、強固で実効性のあるグループガバナンスを構築していく」(同氏)
業績についは、第42期は「つなぐチカラ」の進化を追求する「KDDI VISION 2030」の実現に向け、中期経営戦略を推進してきたことを改めて共有した。通信事業では、松田氏が社長就任後、先手必勝で通信品質を磨き上げてきたことを強調した。また、AI時代に価値を創出するために、AIに代替されにくいユーザーとのリアル接点、全国に展開するインフラ、事業を担う人材という3要素を磨き上げて差異化していくことが「勝ち筋」だと松田氏は訴えた。
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ここでは、不適切取引や通信事業を中心に、株主から挙がった質問と経営陣の回答についてまとめる。
●不適切取引の原因や責任を問う声が多数 企業理念の“パロディー”で皮肉も
―― (中期経営戦略で掲げた)3年間で1兆円規模というM&A計画は、当社にとって非常に大きな投資だ。その上で、近年発生した不適切取引事案のアナログなミスにはがっかりしている。委託先の不正について、7年間も情報が入らないような状態は非常に心配だった。デジタル社会とはいえ、人間関係のコミュニケーションが重要である。上下の意思疎通を迅速にする方向性も含め、M&Aにおける見解をうかがいたい。
―― 松田氏 不適切事案の発生につき、重ねて深くおわび申し上げる。経営陣が先頭に立ち、再発防止策の徹底とグループガバナンスの強化に取り組む。1兆円規模の成長投資における規律に関する指摘と受け止めている。シナジーを伴わない規模拡大への懸念は、株主と同じ課題意識を持っている。これまでの教訓を生かし、投資に対する信頼と能力を再構築する。
具体的には、真の意味でのシナジーや競争優位性に着目し、戦略的合理性と投資効率に基づく規律ある投資を実行する。企業文化との適合性も重視する。この考え方に基づき、既存投資先の保有比率見直しや売却も実践している。また、株主との対話の重要性も真摯(しんし)に受け止めている。対話を通じて相談しやすい雰囲気を作り、自律的な抑止力を働かせる。グループ会社や事業部門に対してこれを徹底し、再発防止に努める。
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―― 架空循環取引の結果、KDDIグループ外部に合計329億円の資金が流出した。この金額は冒頭の社長や事前の説明から意図的に外されていたのではないか。この外部流出額の回収見込みと、懲戒免職となった実行者2人に対する損害賠償請求の進捗(しんちょく)状況を伺いたい。
松田氏 329億円の金額が資料に明記されていなかった点をおわびする。意図的ではなく、今回の業績数値には既にこの損失を織り込んでおり、その結果としての実力値をご説明したためである。流出資金の回収については、民事・刑事の両面で進めている。取引に関与した代理店21社のうち、いくつかの取引先に対しては既に損害賠償請求訴訟を提起している。実行者2人に対しても同様に訴訟提起などの手続きを進めており、株主の利益を損なわないよう、法人・個人とも徹底的に責任を追及し、回収を図る。
―― 第4号議案について、今回のような不正取引があった直後のタイミングで、なぜ役員の報酬を上げるような改定議案を出すのか理解できない。社長や取締役の見解を伺いたい。
取締役執行役員専務CFOの最勝寺早苗氏 第4号議案は、役員報酬全体のうち「業績連動型株式報酬制度」の継続および改定を求めるものである。本制度は2015年に導入されたもので、報酬を業績や株主価値と連動させ、中長期的な企業価値向上への貢献意識を高めることを目的としている。
今回の改定は、新中期経営戦略の期間に合わせ、インセンティブ効果を強めるために株式の交付時期を「退任時」から「在任中」に変更するものである。報酬額や株式数の上限は、発行済み株式全体から見れば極めて限定的な水準である。
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役員報酬全体については、毎年ベンチマーク企業を対象としたサーベイを実施して水準を検証しており、中期計画に合わせて3年に1度改定している。
松田氏 今回の新中期経営戦略を発表するにあたり、事業成長とクオリティー向上を掲げ、指標としてROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)を役員報酬制度に組み込んでいる。
―― 今回の不適切取引事案に関し、調査報告書ではグループ会社へのガバナンス不足や業務の属人化が指摘されている。しかし、当社は2015年頃にも子会社のDMXで不適切会計事案を起こし、事実上破綻させている。当時の報告書でも全く同様に、ガバナンス不足やDMX CEOへの業務属人化、商流への認識不足が指摘されていた。当時、さまざまな対策を講じたはずなのに、なぜ再び酷似した問題が発生したのか。特に在任期間の長い高橋会長は、当時を振り返りどのような反省があるのか伺いたい。
最勝寺氏 DMXの事案の際には、外部調査委員会の提言に基づく再発防止策を全て実行し、一定の成果を上げていた。しかし、当時は「海外子会社での事案」という認識が強く、国内子会社において一気通貫した管理体制を実現するという意識が、ビッグローブの親元部門およびコーポレート部門において働きにくかった側面があると反省している。今後は、グループ会社に派遣するCFOなどの役員の役割を明確にし、親会社部門との密なコミュニケーション体制を築く。
代表取締役会長 高橋誠氏 DMXの件は社長就任前の事案であったが、社長就任後に「3線管理」を徹底してきた。その後、グループ会社が非常に増加したため、社外取締役からの提言もあり、「KDDIフィロソフィ」の中から「倫理観」をピックアップして全社へ浸透させる活動を行っていた矢先に今回の事案が発生し、大変申し訳なく思っている。初心に立ち返り、グループガバナンスの強化に真摯に向き合っていく。
―― 循環取引問題について一言申し上げるために出席した。説明資料にある「企業集団が対処すべき課題」やブランドビジョンに対し、苦言を呈する意味でパロディーを作成した。「KDDIグループは、一部従業員が不正に物心両面の幸福を追求し、株主の信頼を裏切る損失を発生させ、親・子・孫会社のコミュニケーション不足と社会の脆弱(ぜいじゃく)さを世間に露呈した」
社長の言うブランドメッセージにおいて、重要なのはジャーニーではなく「倫理観」だ。フィロソフィという言葉ではなく「倫理」として捉えるべきだ。KDDI VISION 2030にある「つなぐチカラ」を進化させる前に、まずは倫理に基づき、不正のないコミュニケーションが取れる会社を作っていただきたい。
松田氏 貴重なご意見として厳粛に受け止める。株主に多大なご迷惑とご心配をおかけしたことを改めておわび申し上げる。ご指摘の通り、「倫理の醸成」は最重要課題であり、取締役会でも議論を重ねていた矢先の事案だった。全社に強固な倫理観を植え付けるとともに、不正を未然に防ぎ、風通しのいい雰囲気作りを社長自らが先頭に立って実行していく。
―― 今回の不祥事や再発防止策について、社外取締役の視点からどのように見えていたのか。
社外取締役・独立役員 淡輪敏氏 KDDIは企業経営の根幹であるKDDIフィロソフィが全社に浸透しており、人間としての正しい倫理観に基づいた実践を重んじる素晴らしい組織風土を持っていると常々感じていた。それだけに、今回の不祥事を未然に防げなかったこと、より早い段階で察知できなかったことについては、社外取締役としても非常に反省している。
外部の特別調査委員会の報告でも、組織的・意図的な不正は見られず、KDDIの組織風土そのものに起因する問題ではないことは確認されている。再発防止策の策定も進んでいる。社外取締役の役割としては、リスク管理をシビアに監視することは当然としつつ、今回の件でKDDIの強みである「新しい事業へ果敢に挑戦する姿勢」が萎縮してしまわないよう、持続可能な成長に向けて適切にサポートしていくことが重要であると考えている。
●通信品質は「速度」だけでなく「応答性」も重要 電波再編への要望も
―― 通信事業について、今後のAI時代を迎えるにあたり大容量化や高速通信、低遅延がより重要になると考える。これまでに基地局のMMU(Massive MIMO Unit)や2.3GHz帯の導入を進めてきたと思うが、今後データセンターや基地局などの通信ネットワークをどのように強化していくのか。他社は「AI-RAN」や「IOWN構想」などを打ち出しているが、KDDIとしての次世代ネットワーク構想を伺いたい。
CTO コア技術統括本部長 吉村和幸氏 AIの発展に伴い、より高速・低遅延で信頼性の高いネットワークが要求される。これに対し、当社は「デジタルツイン」を支える「デジタルベルト構想」を提唱している。従来のデータセンターとネットワークをAPN(オールフォトニクスネットワーク)でつなぎ、超低遅延なネットワークを構築する。
基地局においては、既存のSub6帯2波の有効活用に加え、新たにミリ波の展開を進める。ミリ波は遮蔽(しゃへい)物に弱い特性があるが、京セラと共同開発した中継機を活用することでエリア展開を可能にした。2026年度から駅前やスタジアムなどトラフィックの多い場所へ導入していく。
松田氏 モバイルの歴史は「通話の維持」から「データ通信の速度」へと価値が変遷してきた。AI時代には速度だけでなく「応答性(レスポンス)」が重要になる。こうした点も踏まえて、ネットワーク全体の作りを見直していく。ビジョンを掲げるだけでなく、着実に実行していく。
―― 総務省に対し、電波オークションを提案して地上波放送の電波を一部通信用に分けてもらうよう陳情できないか。テレビの地方局や特定の電波が1つ減っても問題はないと考える。
渉外・コミュニケーション統括本部 渉外・広報本部長 内山芳洋氏 放送と通信ではシステムで使用する電波の周波数帯が異なるため、単純にそのまま通信用に転用できるわけではない。しかし現在、総務省において5Gの先にある「6G」に向け、電波の有効利用や周波数政策の検討が進められている。そこでは放送と通信の両面から議論がなされている。
電波はETCやその他の無線システムなど、さまざまな用途で総合的に管理されている。通信事業者としては、今後増大するトラフィックに対応するため、どのような周波数帯を活用すべきか議論を重ねている。今後、電波オークション等が導入された際にも、経済合理性を踏まえ適切に対処していく。
―― 過疎地域などのリアルな場所において、最低限の通信機能をどのように維持していくのか。固定回線を持つ人が減少する中で通信設備を維持する方法として、モバイル無線、携帯電話、あるいは衛星通信のStarlinkなどがあると思うが、10年後、20年後を見据えた当社の考えを伺いたい。
吉村氏 過疎地域における通信確保は極めて重要な課題である。従来は行政の支援を受けながら基地局を設置してきたが、経済合理性の観点から維持が厳しい地域が増えている。対策として、固定回線を引くことが困難なエリアのバックホール回線にStarlinkを採用している。一例として、光回線の敷設が困難な乗鞍岳の山頂などのエリア化にStarlinkを活用している。
もう1つの対策として、米Space Xと提携し、衛星とスマートフォンの直接通信の導入を進めている。今後、通信容量の拡大を図ることで、地上の基地局がない過疎地域や災害時でも通信を確保していく。
●auの「フォロワー」少ない問題への提案 金融詐欺の被害はどう防ぐ?
―― ローソンとのシナジー効果について伺いたい。KDDIはXのフォロワー数が約68万(au公式)で他社に比べ劣っている。デジタル広告が主流となる中、この遅れは問題だ。一方で、提携したローソンのXフォロワー数は約980万と非常に多く、強力な発信力を持っている。KDDIの技術でローソンの店舗を改善するだけでなく、ローソンの広報リソースを活用してau・KDDIの企業価値向上を図るべきではないか。
取締役執行役員 佐々木正見氏 ローソンは非常に大きな顧客接点を持っている。SNSのフォロワーだけでなく、全国1万4000の店舗が顧客の身近にあることは強みである。近年、コンビニはリテールメディアとして自ら情報を発信する社会インフラとしての価値も高まっている。これまではローソンのビジネス拡大に重点を置き、技術提供やPontaパスによる送客を行ってきたが、指摘の通り、ローソンのアセットを活用して通信事業を拡大することは大きな課題だ。
最近では、ローソン店舗で「povo」のデータトッピング(ギガチャージ)の販売やスマホアクセサリーの取り扱いを開始した。ギガチャージの販売は前年比9倍に成長しており、コンビニの持つパワーを実感している。今後も通信顧客とローソンを結び付けるシナジー創出を検討していく。ローソン側とも緊密に対話し、ノウハウを学びたい。
―― 金融事業、特に「auじぶん銀行」の位置付けについて伺いたい。さまざまなサービスが提供されており自身も利用しているが、この分野における今後の戦略や株主還元の想定について見解を求める。
佐々木氏 金融事業は通信に次ぐ重要な柱の1つである。通信の成長戦略として、クレジットカード、じぶん銀行、au PAYなどの決済・金融サービスを複合的に相互利用させ、au、UQ mobile、povoの顧客基盤を強固にすることを目指している。
じぶん銀行の成長戦略としては、預金獲得に加え、強みである住宅ローン以外の魅力的な金融商品を拡充し、預金・貸出双方の拡大を図る。さらに次世代金融として、従来のWeb2領域に加え、コインチェックとの連携をはじめとするWeb3(暗号資産など)への取り組みを進め、融合を図る。これにより先行優位性を確保する。
また、傘下の「auフィナンシャルホールディングス」について、東証プライム市場への上場準備を開始した。これにより機動的な資本政策と成長投資の最大化を推進する。上場後もKDDIは筆頭株主として連携を継続し、企業価値向上を目指す。2008年から先駆けて取り組んできた通信と金融の組み合わせであり、経済圏競争を勝ち抜くため再度ネジを巻き直して成長を目指す。
―― 特殊詐欺やフィッシング詐欺、警察を名乗る詐欺、副業詐欺などが多発し、年間1400億円もの被害が出るなど大きな社会問題となっている。その中でauじぶん銀行の口座が詐欺業者に悪用されているとの話も聞く。口座凍結や被害者救済・補償など、どのような対策を講じているのか。
佐々木氏 通信および金融を営む企業として、詐欺被害の問題は重要な経営課題であると認識している。通信面においては、詐欺に遭わないための防衛策として、Pontaパス会員向けに、迷惑電話・迷惑メッセージのブロック機能を無償提供している。非会員に対しても、固定電話を含め総務省の要請に基づき6カ月間無料で同機能を提供している。
また、手口の高度化に対応するため、お客さまセンターにおける本人確認を従来の生年月日や暗証番号だけでなく、生体認証や回線認証を組み合わせた2段階認証などの最新技術を導入して防御している。
auじぶん銀行でも同様の認証仕組みを導入しているが、実際に口座が不正利用された事例があるのは事実だ。警察等と連携して事案に対処するとともに、不正利用が発覚した口座の迅速な凍結および被害に遭われたお客さまへの補償について個別かつ厳格に対応している。今後もセキュリティ配慮とサービス強化を多面的に進める。
●M&Aは「孫会社」まで精緻に評価 フィジカルAIは新たな産業基盤に
―― 過去のM&Aの成果について伺いたい。先日の決算発表で、松田社長からグループ会社の再編・売却を検討しているとの話があったと記憶しているが、これに同意する。
高橋前社長や田中前々社長の時代に、通信以外の数多くの会社をM&Aしてきた。ソラコムは成果が公表されているが、他の会社、例えばJ:COMや、今回問題となったビッグローブ、また個人的に納得がいかないmenuなどは、買収額に見合った成果やシナジーを生んでいるのか。
取締役執行役員常務 勝木朋彦氏 新中期経営戦略において、経営資源の効率的な配分を行うため「キャピタルアロケーションポリシー」を策定した。子会社における不適切事案を踏まえ、投資に対する当社の信頼と能力を再構築する。
個別の投資先については、事後評価を定期的に実施しているが、今回の新中期計画では、子会社だけでなくその下の「孫会社」まで含めて精緻に評価を行う。評価するだけでなく、その結果に基づいて出資比率の見直しや売却などのポートフォリオ再構築を実践していく。個別企業の方針への言及は差し控えるが、受託者責任を果たすべく株主利益の最大化に努める。
―― ロボティクスとAIについて質問する。ローソンでの品出しロボットなどの取り組みは素晴らしい。労働人口減少による人手不足が進む中、これらを単発の「点」の事例で終わらせず、「面」へ広げていくための今後の予定を伺いたい。
勝木氏 「フィジカルAI」と呼ばれるロボティクス領域において、配送、警備、清掃、インフラ点検などのフロントライン業務でロボットの活用が広がっている。当社のドローン事業も好調であり、インフラ点検のユースケースが増えている。労働力不足に対応するフィジカルAIは新たな産業基盤となる可能性があり、注力していく。新本社のある高輪ゲートウェイエリアでもロボット配送の実験を行っている。
また、地方の交通空白地帯という社会問題に対し、自動運転の取り組みを強化している。2030年に全国1万台の自動運転を事業化するという国土交通省の計画に参画し、先行実施地域として選定された全国13地域のうち9地域に当社が参画することが決定している。これらの社会実装に向け、ローソンやELYZA(イライザ)などのグループアセットを最大限に活用していく。
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