『孤独のグルメ』原作者が40年通った老舗居酒屋の“差し入れ焼きそば”に絶句したワケ…「今、これより嬉しい差し入れがあるだろうか」/久住昌之

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2026年06月22日 09:00  日刊SPA!

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マスターの差し入れ焼きそば弁当
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「闇太郎の焼きそば弁当」。果たして、お味はいかに?

◆孤独のファイナル弁当 vol.36「マスターの差し入れ焼きそば弁当」

 先日仕事場の近くで小さな個展をやったのだが、そこに吉祥寺の老舗居酒屋「闇太郎」のマスターが見に来てくれた。

 そして「これ、差し入れ」と言ってお弁当のようなものをくれた。お客さんがたくさん来ていたので少ししか話せず、それを開く暇もなかった。

 その日の展示が終わり、いただき物を整理して、最後に弁当の包みを開いたら、焼きそばだったので「わっ」と声が出た。

 これは闇太郎の焼きそばだ。

 今、これより嬉しい差し入れがあるだろうか。

 闇太郎は、今年54周年を迎えたところで、惜しまれつつ店を閉じるのだ。

 ボクは20代の半ばに初めて行ったから、通算40年ぐらい通っている。

 初めて行った時は友達に連れていってもらった。まずは店名にビビった。真っ赤な大提灯に「闇太郎」とぶっとく書いてある。

 なんだかわからないけど、怖い。闇って……。

 格子にすりガラスの引き戸で、店内が全く見えない。でもその曇ったガラス越しに人がちょっと動くのがわかる。

「こーれは一人じゃ絶対入れねえな!」

 とボクは見て笑った。で、友達に続いて入ると、L字カウンターだけの小さな店で、鉢巻きをして作務衣を着た中年の主人が、

 落ち着いた声で、

「いらっしゃい」

 と言った。怖くはなく、ビールを飲んでおでんを食べた。

 それから7〜8年行かなくて、吉祥寺に仕事場を持ってから、通うようになった。

 40代ごろの一番忙しい時は、毎晩のように深夜1時か2時に行った。そこで一人メモ帳を出してスケジュールの確認と立て直しをして、マスターとちょっと話して酒を飲む時が、一日で一番ホッとした。

 小腹が空いていれば通年あるおでんを食べた。たらこを炙ったのや、イカの刺し身、鯵の塩焼きをよく頼んだな。

 そして夕飯を食べ損なっていたら、焼きそばを食べた。早い時間に何人かで来た時は、飲んだ締めにみんなで分け合うこともあった。誰もがおいしいと言った。

 マスターが目の前の鉄板で作る。それが作られる過程を見ているのも楽しい。具は豚肉とキャベツともやし。味付けにはソースも醤油も入っている。

 他にも鉄板で焼く料理はいくつかあった。ボクは「豆腐焼き」が好きだったな。

 だけど闇太郎も40周年を超えると、営業時間が徐々に短くなった。昔は客がいれば夜中の3時4時までやっていた。

 マスターもできるだけ長く店を存続するため、無理せずそうしたのだ。鉄板料理もなくなった。それでも通った。

 そんなわけで、ボクが闇太郎の焼きそばを食べるのは10年ぶりくらいなのだ。食べて感動。舌が覚えている。闇太郎での記憶が溢れてくる。

 マスター85歳。本当にお疲れさまでした。

―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi

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