
企業経営に対する株主の監視姿勢が厳しくなっています。医療機器メーカーのフクダ電子が、株主である米ファンドのカナメ・キャピタルから指摘を受けました。会長の経費使用が不透明で会社を私物化しているとして、第三者委員会の設置を求められたのです。
これを受けてフクダ電子は、委員会を設置し調査報告を公表。約1億5000万円に及ぶ不適切経費使用を認めた上で、会長による不適切利用全額の一括弁済と、役員報酬の60%を6カ月間自主返納しました。
カナメ・キャピタルは、この対応について「調査不十分」として再調査を求めました。そして、フクダ電子の会長は6月16日付で辞任したのです。
ペンタブレットの製造などを手掛けるワコムも、株主総会を前に英ファンドのアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)から、社長と取締役1人の解任を求める株主提案を受けています。その提案理由の一つは、一部事業の失速と株価の低迷です。さらにオフィス内に社長の娘のダンス練習・動画収録スペースを設けていることも社員のモチベーションを著しく低下させていると指摘を受けました。こちらも経営者による組織の私物化が問題視されているのです。またAVIは、社外取締役が社長を務める会社の買収についても、利益相反の疑義を申し立てています。
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両社のような上場企業の経営者による組織私物化的な不祥事の多くは、経営者が自社を「自分のもの」と思っていることに起因しています。特にオーナー系企業ではその意識が強い傾向です。実質的に社長が取締役人事も含めた全ての権限を握って、取締役たちも社長の発言や行動、指示・命令は絶対である、という意識が抜けきっていないケースが散見されます。特にフクダ電子のケースは、これに該当するのではないかと推測されます。
非オーナー系企業でも、トップが長期政権となっている、自社の発展に目覚ましい実績を残してきた場合には注意が必要です。オーナー系と同じようにその存在感や発言力が強くなり、トップの暴走や私物化が起こりやすくなるからです。もちろんそういった背景の有無にかかわらず、社長個人の資質の問題から私物化などの行為に走るケースも見られます。非オーナー系であるワコムについて詳細な背景までは分かりませんが、上記に類する何らかの理由により、トップの経営姿勢にゆるみがあったことは間違いありません。
●会社のモラルに関する法律・指針はあるものの……
上場企業の社長がプライベートな出費を経費計上したり、会社の施設を私的利用したりというのは、昭和の時代には暗黙的に許されたことなのかもしれません。しかし、今の時代では完全にアウトです。
企業経営はグローバルスタンダード化が進んでいます。2006年には、国際基準に照らした企業の在り方を定めた会社法が施行されました。取締役会や取締役の義務・役割について旧来の日本的企業経営から脱却した考え方が明文化され、現在のわが国における会社経営の根拠法となっているのです。
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会社法の定めるところでは、取締役は善管注意義務を負い(会社法第330条)、取締役会の構成員として相互に監視義務を負っています。すなわち、社長であっても一取締役であることに変わりはなく、コンプライアンス違反やモラルに反する行為がないか常に監視する義務があるのです。
取締役など(監査役等を含む)が他の取締役などの違反行為を発見または疑義を持った場合には、取締役の業務執行を監督する役割を持つ取締役会(会社法362条)へのすみやかな報告を経て、迅速かつ適切な対応をする義務もあります。この点に照らせば上記2社は、取締役たちが義務を怠っていただけでなく、取締役会も機能不全だったといえるでしょう。
社内昇格の取締役が、代表取締役である社長に意見を言いにくい環境にあるのであれば、組織のピラミッド的なしがらみのない社外取締役にガバナンス保持の期待感が高まります。
わが国においては、2015年にコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が定められました。それによって上場企業は社外取締役を2人以上選任することが求められています。社外取締役の一義的役割はズバリ、企業経営を「外の目」で監督することにあります。とはいえ、制定から10年を経て制度としては定着した感が強くあるものの、果たしてそれが十分な機能を果たしているのか。上記2社のような不祥事を見るに疑問を抱きます。
●「社外取締役」が機能するために必要なポイントは?
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社外取締役が十分に機能するか否かは、人選が重要です。当該企業と取引関係がないことは当然ですが、取引はなくとも経営者の旧知の“お友だち”であったり、先輩後輩など実質的な上下関係が存在するような人選でもいけません。「言うべきときに、言うべきことを伝える」社外取締役たり得ないからです。経済的、精神的独立性は不可欠なのです。
また安易に社会的地位の高い人物や著名人をお飾り的に社外取締役に据えるのも、問題があります。不正会計疑惑に揺れるニデックでも、社外取締役に企業経営には明るくない大学教授や元官僚幹部ばかりを登用していたことが、発覚を遅らせた一因として批判されています。
一方で、引き受ける側の社外取締役にも、それなりの自覚と覚悟が求められます。「社外」取締役であろうとも、社内事情に精通することが必要です。社外取締役は決して、閑職や名誉職のつもりで受けてはならないわけです。
となれば、いくつもの社外取締役を同時に受けるのは難しくなるはずで、3社以上もの社外取締役を兼務するのが果たして正しい選択であるのか、考えさせられるところです。また自身が現役で上場企業経営者であるならば、他社の社外取締役を兼務して十分に任務を果たせるのか、いささか疑問符が付くところでもあります。
この点に関連して、上場企業のトップと上場4社の社外取締役を兼務するKADOKAWAの夏野剛社長に対して、株主である香港のファンド、オアシス・マネジメントが解任を求める株主提案をしています。
主な理由は業績の低迷ではありますが、夏野氏が兼務する役職の多さを重大な要素として問題提起しています。基本的に社外取締役を務める人には、夏野氏に限らずたいていの場合本業があり、それとの兼務で他社企業経営の一端を担うわけです。前述のような社外取締役の役割に対して本気で取り組むならば、複数の社外取締役兼務は好ましい状況とはいいがたいのではないでしょうか。
●社外取締役に求められる「もう一つの姿勢」は?
もう一つ、社外取締役に求められる姿勢があります。トップに対してモノいえる態度であり、必要を感じた折にはトップ解任の発議も辞さない覚悟です。これは、社内で昇格した取締役には難しい部分で、社外取締役であるからこその役割といえます。
「外の目」として、世間一般の常識に照らして「おかしいと思うことを指摘する」という心構えが、社外取締役には必要です。そのためには、社内とのコンタクトを密にして情報を十分にとりつつ、トップとは一定の距離を保つ姿勢も重要です。
昨今の動きとして、金融庁が今夏をめどにコーポレートガバナンス・コードの改訂を予定しています。取締役会の役割として、ガバナンス強化だけでなく企業の成長戦略の実現を強く求める方針を固めているようです。社内取締役が企業の成長戦略を積極的に議論し描くことは当然のこととして、今や多くの上場企業で過半を占める社外取締役にも、その進行を監視しつつ「外」の目でフォローアップする役割が期待されることになるでしょう。
フクダ電子とワコムにおける株主からの問題提起しかり、昨今では上場企業に対して以前とは比較にならないほど、アクティビストをはじめ株主の目が光っています。企業運営を相互監視する取締役、さらには外部の立場で経営を監督する社外取締役の職責は、飛躍的に重くなっているといえます。取締役、社外取締役に馴れ合いが許された時代はとうに過ぎました。新たな自覚と覚悟を持って責務を遂行することが求められているのです。
著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。
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