
7年前のあの日も、レッドブルリンクは暑かった。
「エンジン11、ポジション5」(※)
さらにその数周後には「ポジション7」へ。ホンダがとっておきのモードでエンジンパワーを絞り出し、マックス・フェルスタッペンが勝利を収めた。
ここから、ホンダF1第4期の躍進は始まった。
※ステアリングにあるエンジンダイヤルを「11」に合わせ、割り当てボタンで「5」のモードに切り替えろというチームからのセッティング指示。エンジン寿命を削るハイパワー設定への変更によって、ホンダは13年ぶりとなる歴史的な復活勝利を飾った。
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今年のヨーロッパは激しい熱波に襲われ、レッドブルリンクも例に漏れず、連日30度超えの猛暑が続いている。人にも、マシンにも、パワーユニットにも厳しいコンディションだ。
極端な暑さというイレギュラーな条件は、アストンマーティン・ホンダにとって少しは追い風になるかもしれない。いや、正確に言えば、普通のレースでは勝ち目はないが、波乱が起こるような過酷な条件なら何かが期待できるかもしれない──という淡い期待でしかない。
それでも、標高が高く空気が薄い場所で、ホンダが伝統的に強さを誇ってきたことは確かだ。標高700メートルのレッドブルリンクで初勝利を収めた2019年も、メキシコやブラジルといった高地で高いパフォーマンスを発揮している。
その要因となったターボチャージャー(TC)の特性は、2026年型でも変わっていないと折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア(GM)は語る。
「TC技術自体は同じですし、コンセプトも似たようなところにあります。エンジニアも同じです。なので(標高の高いところでの)優位性がまだあることは願っていますけど、まず実走で確認してみなければならないと思います」
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【最も苦手とするサーキットのひとつ】
ただし、TCの優位性が生み出していたMGU-H(熱エネルギー回生システム)からの発電量のアドバンテージは、2026年規定では消滅してしまった。
「去年まではTC性能が(MGU-Hからの)ハーベスト(収穫)量に直結していましたが、今年はそれがないので、TC性能が与える影響は小さくなっているかもしれません。そういう意味で去年までとは挙動が違っているのは確かですが、まずはこの標高でTCがどのように機能するのか、しっかりと見極めていきたいと思っています」
MGU-Hがないことで、ターボラグも起きやすくなる。MGU-HのモーターでTCを回してラグを回避していた従来とは違い、ドライバーのスロットル開度以上にICE(エンジン)を回してMGU-K(運動エネルギー回生システム)で制動をかけて発電するパーシャル(部分開放)発電を、ターボラグ解消にも利用することになる。
それがまさに、かねてからホンダが苦戦している「ドライバビリティ」の部分だ。標高700メートルのレッドブルリンクでは、さらにいつもとは違うチューニングが求められる。
「TCが想定どおりに動かなければ、ICEも想定どおりに機能しない。そうするとドライバビリティの問題が出てきてしまいますので、そこが一番重要だと考えています。この標高をシミュレーションしたテストはダイナモ上で進めてきましたが、まずは実走でTCやICEがどのような挙動を示すかを確認することが、このフリー走行のメインポイントになります」
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コーナーごとに、ドライバーたちのスロットルの踏み方に合わせてチューニングをしていかなければならない。フリー走行でどこまで煮詰めていけるかが勝負だ。
1周65秒程度の短いレッドブルリンクだが、全開率は70パーセント前後と高く、パワーユニットに厳しいサーキットだ。
その一方で、ラップ後半には200km/hオーバーの高速コーナーが4つ連続し、高い空力性能が求められる。おそらく、今のアストンマーティン・ホンダにとっては最も苦手とするサーキット特性のひとつだろう。
【文句を言ったりすることは簡単】
ドライバーたちは当然、11チームの中で最下位に沈むと思っているし、チームもそれを覚悟している。
アストンマーティンは開幕戦以降、アップデートの投入をストップして"夏頃"投入予定の大型アップデートパッケージの開発に集中している。必要なのはコンマ1秒の積み重ねではなく、1秒・2秒単位の躍進だからだ。
その完成までは耐えるしかない。今のうちに学べること、改善できることを黙々と進めるしかない。
ライバルたちがアップデートを投入し、停滞どころか後退を強いられているアストンマーティンの現状を見て、アップデートをしない戦略判断への批判も出始めた。
だが、それに惑わされないことが大切だと、チーフトラックサイドオフィサー(CTO)のマイク・クラックは語る。
「やると決めたら、そこにコミットすること。80パーセントではなく100パーセント、コミットすることが大切だ。我々はその決断を下した。難しかったとしても、そこにコミットしなければならない。
ネガティブな態度になったり、集中力を失ったり、文句を言ったりすることは簡単だ。ここ数戦の報道を見れば、多くの専門家が我々の戦略を批判しているのは目に入る。だが、我々はそれに惑わされることなく、自分たちのチームリーダーが指し示した筋道を進んでいくしかない」
今は目の前の小さなゲインを捨ててでも、夏の大きなゲインを取る。彼らの戦略が正しかったのか間違っていたのかを判断できるのは、その大型アップデートが投入された時だ。
ホンダも同様に夏に向けて大型アップデートの開発を進めており、すでに大枠は見えてきているという。
「我々のパワーが出ていないのは理解していますので、ある程度の大きなステップが必要だと理解しています。その大きなステップを果たすには、やらなければならない課題が多々ある。その作業をすべてこなすと夏くらいまではかかってしまう。
だから、アップデートを早く投入することよりも、夏頃をターゲットに据えて、それらの課題をクリアすることに集中しています。きちんとクリアできれば、ある程度のステップを踏めると思っています」(折原GM)
【第4期はあの勝利まで4年もかかった】
車体側も、入賞争いに加わることができるだけの飛躍は想定している。
「中団グループの争いは極めてタイトだが、我々はその集団に加わるために埋めなければならない大きなギャップがある。早くそこに加わり、その集団のトップに立ちたいと思っている。
どのマシンにもそれぞれ違った特性があり、サーキットによってレースごと、有利・不利が変わってくる。信頼性の争いもある。しかし、モナコGPが我々にとって今シーズン最後のポイント獲得になることはないと自信を持っているよ」(クラックCTO)
希望が目の前になくとも、遠くない未来にあるから、耐えられる。目の前の結果に一喜一憂することなく、彼らが見据えている少し先の未来へと目を向ける。
第4期があの勝利まで4年もかかったことを思えば、今のアストンマーティン・ホンダにはもっと近い場所に光が見えている。
