【F1】ホンダは救済策「ADUO」で復活できるか 浅木泰昭が抱く懸念「ガタガタの状態が続くかも......」

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2026年06月27日 07:01  webスポルティーバ

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元ホンダ・浅木泰昭 連載
「F1解説・アサキの視点」第13回 前編

 第5戦カナダGP終了後、今年から導入された新システムである「ADUO」(追加開発アップグレードの機会)の初の評価が行なわれた。

 その結果、もっとも優れたエンジンに評価されたのは開幕から連勝を重ねていたメルセデスではなく、フォードと組んで今シーズン初めて自社製のパワーユニット(PU)を投入して戦うことになったレッドブルだった。

 国際自動車連盟(FIA)がPUのエンジン性能を測定し、一番優れたエンジンよりも性能が2%以上劣っているメーカーに対しては、その性能差に応じてより多くの開発予算とテストの時間が与えられ、追加のアップデートが認められることになっている。

 メルセデスは基準エンジンとなるレッドブルに対して性能が2〜4%下回るグループ、フェラーリ、ホンダ、アウディは性能の差が4%以上のグループに入ることになったようだ。

 フェラーリは第8戦オーストリアGP(6月28日決勝)でさっそくアップグレードしたPUを投入するというが、はたしてADUOによって勢力図に変化はあるのか。そして、ホンダの復活はあるのか。元ホンダ技術者でF1解説者の浅木泰昭氏に話を聞いた。

【ホンダは危機的な状況にある】

 第1回目のADUOでは、レッドブルがもっとも優れている内燃機関(エンジン)に認定されました。チャンピオンシップをリードするメルセデスはレッドブルよりも性能が2〜4%下回っていると判断され、追加の開発が許可されることになったようです。

 ADUOの評価基準は最大馬力ではなく、FIAが各PUのデータをもとにエンジンの性能指数を弾き出し、独自の手法で格付けを行なっていると言われています。どういう計算式で性能指数を出し、実際にどういう結果だったのかが明らかにされていませんので、外部の人間にはまったくわかりません。

 レッドブルが基準のエンジンになったのは意外でしたが、メルセデスは当然、何かたくらんでいるはず。彼らはレギュレーションを徹底的に調べて、自分が有利になるように仕組むことを当然の業務ととらえており、それがわからない人間は負けても仕方がないと考えています。ホンダもそういう部署を設ける必要があるのかもしれません。

 ADUOに関しては、F1では本来ないほうがいいと思いますし、頻繁に使用されるべきものではない、というのが私の考えです。

 あまりにも他メーカーのPUとの性能差があって、株主や投資家などから批判されて撤退論がささやかれるようなメーカーが出てきた場合は、F1につなぎとめるために追加で開発する機会を与えるのは仕方がないと思います。ADUOによって、ようやくレースの形になる。そういう使い方だったら、すべてのメーカーが納得すると思います。

 ADUOでは基準となるベストエンジンに対して、性能差が「2%未満」、「2〜4%」、「4〜6%」「6〜8%」「8〜10%」「10%以上」にグループ分けされていますが、4%以上の遅れをとっているフェラーリ、アウディ、ホンダの3メーカーがどこのグループに分類されたのかは明らかにされていません。

 でもFIAが当初は、性能が劣ったメーカーに対する優遇措置の枠を「8〜10%」だったところを急きょ、「10%以上」まで拡大したのは、ホンダが危機的な状況にあると判断したからだと思います。

 当初予定していた8%以上の予算と開発時間を与えなければ、今シーズン中にまともにレースできるところまでリカバリーできないだろうし、最悪は撤退の可能性もある......とFIAは判断した可能性は高い。それをホンダもあえて否定せずに、もらえるものはもらおうと思っているのかもしれません。

【やっちゃいけないことをやった】

 ホンダのPUは開幕当初、異常振動に大きな注目が集まっていましたが、振動問題が落ち着いてPUのパフォーマンスを見ていると、内燃機関のパワーが明らかに出ていない。具体的な数字はわかりませんが、数十馬力は遅れをとっていると思います。

 おそらくアストンマーティンに搭載される現行のエンジンでも高速燃焼は起きているとは思いますが、十分なレベルに達していないというのが私の予測です。

 レギュレーション変更によって今年から内燃機関の圧縮比が従来の18:1から16:1に引き下げられましたが、私が開発リーダーを務めていた頃のエンジンで単純に圧縮比を下げただけだったら、そこまで馬力は落ちないはずです。

 高速燃焼は速い燃焼を実現させることでパワーと燃費を向上させる、という新たな燃焼方式です。詳細は言えませんが、私が開発責任者だった時代には、もっと低い圧縮比でも高速燃焼は起きており、そこからだんだんと馬力を上げていきました。

 新しいホンダのエンジンが圧縮比を引き下げた影響以上に馬力が落ちているということは、高速燃焼が起きにくいような素材変更などをやったのだと思います。私の時代も高速燃焼がまったく起きてなかった以前のPU(2018年以前)は、メルセデスに比べると馬力が1割くらい負けていました。おそらく、その時と同じような状況になっているのかもしれません。

 メルセデスとフォードと提携して自社製のPUを開発するレッドブルの2チームはルールのグレーゾーンをついて、マシン走行時に実質的な圧縮比を高める方法を見つけたと言われています。でも、少なくともフェラーリはルールの抜け穴をつくようなことはしていないとされています。

 そのフェラーリに比べて、ホンダのエンジンがパワーで大きく劣っているのは明らかにおかしい。ホンダはやっちゃいけないことをやってしまったのだと想像できます。メルセデスと同等以上のことをやろうとして技術的なチャレンジをしたのですが、結果としてうまくいかなかったというのが私の推測です。

 では、なぜそんなことやってしまったかと言えば、メルセデスが何かをやって馬力を上げることに成功したという情報が入ってきたのではないかと思っています。そこで慌ててしまって、開幕のテストに間に合うかどうかわからないタイミングでPUの設計を全面的に変更することを決断してしまった。

 これがうまくいったら一気に追いつけるだろうという淡い期待のもとで突っ走ったけれども、結果的にうまくいかなかった。その現実を開幕前のテストで突きつけられ、しかし、もう戻る場所が時間的にも予算的にもなかった、というのが私の想像です。

【アップデートのポイントは選択と集中】

 ADUOで追加の予算とテスト時間が与えられ、今シーズンは2回のアップデートができます。それはホンダにとって挽回のチャンスですが、ADUOでライバルに一気に追いつけるかといえば、そんな甘い世界ではないと思います。

 ADUOで改良できる範囲はかなりありますが、バジェットキャップや時間的な制約もありますし、できることは限られています。否応なくアップデートの箇所を選択し、「選択と集中」をせざるをえません。そこは技術的センスがより重要になると思います。

 結局、現行のバジェットキャップのレギュレーションでは、「選択と集中」をセンスよく実行できるかが問われていますので、ADUOでもやること自体は大きく変わらないと思います。

 私が懸念しているのは、前述したようにADUOで改良できる部分は広範囲にわたりますので、「できることは何でもやる」という中途半端な"発散開発"になってしまう可能性もあることです。これまでどおりのセンスで開発を続けたら、ガタガタの状態が続くかもしれません。

後編につづく

<プロフィール>
浅木泰昭 あさき・やすあき/1958年、広島県生まれ。1981年に本田技術研究所に入社し、第2期ホンダF1、初代オデッセイ、アコード、N-BOXなどの開発に携わる。2017年から第4期ホンダF1に復帰し、2021年までパワーユニット開発の陣頭指揮を執る。第4期活動の最終年となった2021年シーズン、ホンダは30年ぶりのタイトルを獲得。2023年春、ホンダを定年退職。現在はF1コメンテーターとして活躍。初の著書『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』(集英社インターナショナル)が好評発売中。

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