石油問題も一件落着じゃない!? 開放されても元どおりにはならないホルムズ海峡の「新常態」

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2026年06月27日 07:20  週プレNEWS

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開放に向かうホルムズ海峡


開放に向かうホルムズ海峡


イラン戦争の戦闘終結合意により、ホルムズ海峡は再び開放される――。そう聞くと、中東における危機が収束し、世界の石油物流も元どおりになるように思える。しかし、実際にはそう簡単な話じゃない!?

【写真】イラン国内で行なわれた政府主催の集会

*  *  *

【折れないイランに譲歩するアメリカ】

2月28日のアメリカとイスラエルによる攻撃をきっかけに始まったイラン戦争。イランが対抗措置として、世界有数の石油輸送路であるホルムズ海峡を封鎖したことで、世界の原油物流は一気に滞った。

しかし、ここにきて米トランプ政権とイランは歩み寄りを見せている。6月14日には戦闘終結で合意したと発表され、19日に正式署名。中東危機は一気に収束へと向かっているように見える。

では、なぜここにきて合意ムードが生まれたのか。国際政治アナリストの菅原出(いずる)氏は、その理由を「トランプ大統領にもう戦争をする気がないから」だと説明する。

「アメリカは開戦当初、イランの軍事施設や核関連施設などを攻撃しました。しかし、それでもイランは屈服しなかった。そこでアメリカは、発電所などの民生施設まで攻撃すると示唆した。そうすればイランは要求をのむとみていたんだと思います。

でも、イランは折れなかった。むしろ、アメリカが民生施設まで攻撃するなら、イラン側もアラブ諸国のエネルギー施設や海水淡水化施設を攻撃すると脅し返した。

そのため、トランプ政権は『攻撃するぞ』と脅すものの延期することを繰り返してきました。何度も『やるぞ』と言っておきながら、やらないところを見ると、トランプ自身もう戦争する気がないんだと思います」


ホルムズ海峡は、世界に3つしかない「海上輸送上の迂回路がない海峡」のひとつ


中間選挙を11月に控えるトランプにとって、これ以上の戦争継続は軍事的にも政治的にも負担が大きい。だからこそ、"アメリカの勝利"に見える形でさっさとディールをまとめたいのだ。

だが、イランはなかなかのまない。そのためアメリカは、当初掲げていた要求をかなり後退させたという。まず大きいのが、核問題を巡る要求の変化だ。

「当初、アメリカはイランに、高濃縮ウランをロシアなどの他国へ搬出しろと求めていました。でも今は、国連査察団の監視の下、イラン国内で濃縮度を薄めることを認めるところまで譲り始めている。

トランプは『イランに核兵器を持たせない』ことを成果にしようとしているようですが、イランはもともと核兵器を持たないと繰り返し表明していますから、イランが最初から受け入れられる条件を、成果として見せようとしているだけなんです」

また、凍結資金の扱いも焦点だ。

「イランは、アメリカの経済制裁で凍結された資金へのアクセスを求めてきました。報道では、人道支援物資の購入に限って、カタールなどにある凍結資金の一部を使えるようにする案が出ています。

名目はなんであれ、イランにとっては資金にアクセスできることが大きい。アメリカはこれまでにないほど譲歩し始めているのです」


G7前に会談したトランプ米大統領とマクロン仏大統領。トランプ氏はこの場で、イランとの合意は署名済みで、ホルムズ海峡は全面開放されるとの見通しを示した


ただ、戦争当事国はアメリカとイランだけではない。イスラエルが米イランの歩み寄りを壊す可能性はないのか。

「イスラエルのネタニヤフ政権としては、イランに対して強硬姿勢を続けたいでしょう。ただ、イラン本体との戦闘を継続するには、アメリカの後ろ盾が必要です。そのアメリカが戦争を続けたくない以上、イスラエル単独でイランとの戦闘を続けるのは軍事的に厳しいと思います。

一方で、イスラエルは南レバノンでの行動の自由は手放さない。ヒズボラの拠点があれば攻撃するし、そこをバッファーゾーン(緩衝地帯)として考えている。ですから、米イランが合意に向かっても、レバノンを巡る火種は残り続けます」

【ホルムズ海峡開放=元どおりではない】

こうして取りまとめられつつある戦闘終結合意。両国は、署名後60日間で包括的な和平協定に向けた協議を行なう予定だ。

こう見ると、中東危機はひとまず収束し、ホルムズ海峡の通航も再開され、石油物流も元どおりになるように思えるが、そう単純ではない。

「トランプは、ホルムズ海峡の『開放』を巡ってもかなりイランに譲歩しているように見えます」

これまでホルムズ海峡は、イランに通航料を払って通る場所ではなかった。ところが開戦後、イラン側は船舶から「航行サービス料」を徴収するようになった。イランは「通航料ではない」と説明しているが、実質的には通航料に近く、海峡の開放後もこの仕組みを続ける構えだ。

「こうしたイラン側の行動に対しても、アメリカは『通航料は取っていないのだから開放だ』と主張し、この仕組みを暗に認めるかもしれない。

イランは、トランプのほうが折れて、イランに有利な形に譲歩するのを待っていればいいんです。これは我慢比べですが、イランはこの程度では崩れない。逆にトランプは中間選挙もあるし、エネルギー価格の問題もあるので、譲歩するほかないのです」

つまり、ホルムズ海峡が開放されても、以前のように、誰もが自由に、無料で、安全に通れる状態へ戻るわけではない。中東の石油物流も、戦争前と同じにはならないのだ。

「戦前の船舶通航量の半分くらいまで戻れば御の字だと思います。つまり、石油問題が一件落着するわけではありません。日本を含め、今後は世界がホルムズ依存を下げる方向に動くと思います」


イラン国内で行なわれた政府主催の集会。イラン政府は、ホルムズ海峡で船舶から徴収しているのは通航料ではなく航行サービス料だと説明している


だが、ホルムズ海峡は、単に「迂回(うかい)すればいい」海峡ではない。地政学を専門とする奥山真司(まさし)氏は、その特殊性をこう説明する。

「世界の海運には重要なチョークポイントがいくつもあります。ジブラルタル海峡やパナマ運河などは、封鎖されれば大きな影響が出る。ただ、それでも大きく迂回すれば反対側に出ることはできます。

しかし、それすらできない海峡が世界に3つあります。トルコ領内の海峡、デンマーク東側の海峡、そしてホルムズ海峡です。これらは海峡の反対側が陸で閉ざされている。つまり、押さえられれば海上交通そのものが止まる」

だからこそ、ホルムズ海峡の封鎖を招く攻撃は極めて危険だった。

「アメリカは短期決着を狙っていましたが、イランは折れなかった。しかも、まさかイランがホルムズ海峡封鎖というカードを切るとは思っていなかった。

トランプは強大な軍事力を持っていますが、それを政治的な成果につなげる能力がない。今の状況は、ベトナム戦争で当時の米ジョンソン政権が北ベトナム爆撃に踏み切る前の膠着(こうちゃく)に似ています」

【"海峡国家"が力を持つ時代?】

封鎖解除で終わりではない。ホルムズ海峡は、イランのカードとして残り続ける。中東危機は収束へ向かっているように見えても、米イランの膠着状態が、これからの石油物流の"新常態(ニューノーマル)"になろうとしている。

その影響は、日本にも及ぶ。日本政府は7月分の原油輸入について、全量をホルムズ海峡を経由しない形で確保できる見通しだと発表した。

しかし、日本がホルムズ海峡におけるリスクから逃れられると考えるのは危険だ。なぜなら、7月分の原油輸入の約半分を、ホルムズ海峡を介さないとはいえ中東から輸入するからだ。

「この原油輸入の中にはUAEからの原油も含まれているのではないかと思います。UAEのフジャイラ港は、地理的にはホルムズ海峡の外にありますから。

ただ、フジャイラ港はイランの脅威圏外ではありません。ホルムズ海峡を通らなくても、フジャイラ沖やオマーン沖での積み替え、タンカーの航行、船舶保険料の問題は残ります。つまり、ルート上はホルムズ海峡を避けられても、イラン問題から自由になるわけではないのです」


中東情勢の悪化後、ホルムズ海峡を通過し5月25日に日本に到着した出光興産の原油タンカー。戦闘終結に合意しても、日本に原油が安定的に供給されるとは限らない


さらに菅原氏は、今回のホルムズ海峡問題が別の海峡にも波及する可能性を指摘する。

「海峡を力で押さえている国や勢力が、今回のイランの例を見て、『通航料ではなく航行サービス料ならいいのか』と考え始めるかもしれない。

それを国際社会が認めるのか。それとも、力で海峡をコントロールする動きを止められるのか。そこが問われることになります。止められなければ、それこそが新常態になるかもしれません」

ホルムズ海峡の封鎖は、単なる一時的な中東危機ではない。海峡を誰が、どのような方法で支配するのか。そのルール自体が揺らぎ始めているのだ。

取材・文/小峯隆生 写真/共同通信社

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