
【写真】佐藤拓也×星希成奏の撮り下ろし&『ヤニすう』場面カット集(24枚)
■サラリーマンのおじさんとスーパーの店員さんが生む、もどかしい距離感
――原作に初めて触れたとき、どのような印象を受けましたか?
佐藤:これまでいろいろな作品を読ませていただいたり、出演させていただいたりしてきましたが、サラリーマンのおじさんとスーパーの店員さんという関係性で、こんなにも可愛らしくて、見ているこちらがヤキモキしてしまう物語が描けるんだ、という衝撃がありました。
だからこそ、この独特の空気感をアニメでどう表現するのだろうというところには、すごくドキドキしていました。でも実際に作り始めてみると、今はもう「早く皆さんに見てもらいたい」という気持ちしかありません。完全に、ただの原作ファンですね(笑)。
星希:本当に一言でまとめるのが難しい作品だなと思いました。大人ならではの距離感や恋愛感があって、恋愛をしているようで、でもはっきりと恋愛をしているわけでもない。その曖昧さや、踏み込みきれないもどかしさに、すごく心を掴まれました。
見ている側としては「もう一歩いってほしい」と思う瞬間もあるんですけど、その一歩を簡単には踏み出さないところが、この作品らしさでもあって。そういうドキドキ感が、すごく刺さる作品だなと感じました。
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佐藤:そうなんです。ここまで自分の年齢に近い役は、実はあまり演じた経験がなくて。佐々木さんは45、6歳で、僕自身は42歳。いざ「おじさんを演じよう」と思った時に、世間がイメージする“おじさん”と、実際にその年代にいる自分との間に、意外なギャップを感じました。
声優という仕事は、年齢を重ねても10代、20代の役を演じる機会が多いんです。だから改めて「おじさんって、どう演じるんだろう」と考えた時に、これまで自分が培ってきた武器があまり使えない感覚がありました。
そこで手がかりになったのが、作品の中で描かれている佐々木さんの暮らしや、現場でいただくディレクション。そして何より、隣で星希さん演じる山田/田山さんと会話を重ねていくことでした。そのやり取りの中で、佐々木という人物を一つひとつ作り上げていく作業は、難しくもあり、同時にとても楽しくもありました。今では、皆さんのおかげでかなり馴染んできた感覚があります。
佐々木さんは、何気ない会話の中で、本人が意図しないまま少し“いいこと”を言ってしまう人なんです。ただ、それがいわゆる決め台詞になってはいけない。彼の真心から自然にこぼれた言葉であることが、すごく大事だと思っていました。
実際、収録では「今の言い方だとかっこよく聞こえすぎてしまう」というディレクションをいただくことも多かったんです。でも、かっこいいって何だろう、と考える一方で、原作を読んでいると「いや、佐々木さんのそれは確かにかっこいいんだよな」と思う瞬間もあって(笑)。
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――山田/田山は、原作を読んでいると「なぜ佐々木は気づかないのだろう?」と思う場面もありました。ただ、星希さんのお芝居を聞いていると、「これは気づかないかもしれない」と納得させられる絶妙なバランスがありました。
星希:ありがとうございます。やっぱり、気づきそうで気づかない、その絶妙な距離感があるからこそ、佐々木さんと山田/田山のドギマギ感が生まれていると思うんです。
山田と田山は、少しでもバランスがずれると同一人物だとバレてしまう。でも、逆にずれすぎてしまうと、キャラクターとしてのリアルな温度感から離れてしまう。この作品は、そういう日常の空気や感情の機微をとても大事にしているので、その塩梅を崩さないように、すごく意識しながら演じていました。
少し自分の話になってしまうのですが、私自身もわりとオンとオフの差が大きいタイプなんです。普段“山田”のような状態で接している友人の前で、ふと“田山”っぽい部分を出すと、「体調悪いの?」「元気ないの?」と言われることが結構あって。日常生活の中でも、どこか常に“山田でいなきゃ”と思っているところがあるんです。
だから、作中で田山が「山田と同一人物だとバレたら嫌われてしまうんじゃないか」と葛藤する場面は、すごく自分に近い感情として受け止められました。演じやすいというより、自分の中にある感覚と自然に並べながら向き合えた役だったなと思います。
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――佐々木と山田/田山の会話は、何気ない言葉のやり取りの中で少しずつ距離が縮まっていくところが印象的です。実際に掛け合う中で、相手のお芝居に引き出されたり、支えられたりした部分はありましたか?
佐藤:この作品のやり取りは、佐々木さんが田山さんの言葉を受けてリアクションする場面がすごく大きいんです。実際のスタジオでも、星希さんのお芝居に引っ張ってもらっている感覚がありました。それが本当にありがたくて。
自分ひとりでは気づけなかったかもしれない、「佐々木さんって、こういう人なのかもしれない」という部分を、星希さんとの掛け合いの中で気づかせてもらっているんです。だからもう、本当に星希さんさまさまです。
お芝居を聞いていても、「あ、本人だな」と思ってしまう瞬間が結構あるんですよ。山田/田山としてそこにいてくれるからこそ、こちらも佐々木として自然に反応できる。日々、お世話になっています(笑)。
星希:いえいえ、本当に私のほうこそです。私が山田/田山をどのように持っていっても、佐藤さんが演じる佐々木さんというブレない軸が、必ずそこにいてくださるんです。
自分の中で「こういう言い方でいいのかな」「こういう方向で合っているのかな」と考えて持っていったものも、しっかり受け止めて、その流れに乗せてくださる。しかも、それを言葉で説明するのではなく、お芝居の中の空気で自然に導いてくださるんです。
だから、すごくのびのび演じることができました。最初は、そうそうたる皆さんの中で収録させていただく緊張感も大きくて、「どうしよう」と思う瞬間もあったのですが、佐藤さんが背中を押してくださったり、支えてくださったり、時には引っ張ってくださったりして。本当に大きく支えていただきました。
――互いのキャラクターについて、「ここが好き」「ここが放っておけない」と感じる部分は?
星希:佐々木さんは、本当にいい人すぎるんです。誰かに何かを頼まれた時も、無理をして引き受けているというより、自分の良心で「俺はまだいけるな」と受け止めてしまう人なんですよね。しかも、自分の中の許容量がすごく広い人だからこそ、その優しさに付け込んでくる人がいないか心配になります。「この人になら甘えても大丈夫」と思われすぎないといいな、という気持ちはあります。
佐藤:山田さんも田山さんも、根っこの部分がものすごく優しい人なんです。何かを「してあげよう」とするというより、「このほうが私はいいと思う」という正直さから動いている人だと思うんですよね。だからこそ、すごく優しい人だなと感じます。一方で、彼女自身がものすごく頑張り屋でもあるので、その頑張りが行き過ぎてしまう瞬間もある気がしていて。だから、心と体には気を付けてほしいなと思います。
――そんな二人の関係性を一言で表すとしたら、どんな言葉になりますか?
佐藤:「深呼吸できる相手」なんじゃないですかね。友達でもなく、同僚でもなく、恋人でもない。でも、だからこそお互いに心の内を話せる関係なのだと思います。大人になると、そんなに正直に生きていけないことのほうが多いじゃないですか。気を遣ったり、言葉を飲み込んだりする場面もたくさんある。
そんな中で、あの二人は心根の部分で触れ合っているからこそ、お互いの居場所や人生を守れているような気がするんです。ああいうふうに息を吸える場所があることは、すごく貴重なことなんじゃないかなと思います。
星希:私は「縁」かなと思います。縁がないと出会わない二人だなって。「必然」と言うのもちょっと違う気がしますし、「偶然」という言葉だけでは、少し軽くなってしまう気もするんです。偶然を超えた何かがあって出会った二人という感じがするので、やっぱり「縁」という言葉が一番しっくりきます。
■佐藤拓也&星希成奏が重ねる『ヤニすう』と日常
――お二人自身が日常の中で「ここにいると一息つける」「こういう時間っていいな」と思う瞬間は?
佐藤:僕は、夜のベランダにいる時間が好きなんです。タバコは吸わないのですが、夜の街の音が好きで。車の音だったり、街を歩いている人たちの話し声だったり、そういう音がどこか落ち着くんですよね。
昼間とは違って、夜のほうが空気が澄んでいるような気もしますし。寝なきゃなと思いながらも、何かを見るわけでも、深く考えるわけでもなく、ただベランダで夜の街の音を聞いている。その時間が、自分にとってはすごく心地いいんです。
星希:私は、ベッドでゴロゴロしている時です(笑)。ロフトベッドなので、一度上がってしまうとなかなか降りられないんです。だからこそ、そこはもう「しっかり休む場所」と決めて、寝転がってゴロゴロしている時間がすごく好きです。
あとは、親友と一緒に過ごしている時ですね。特別に何かを話し続けるわけではなくて、隣同士でそれぞれ黙々と好きなことをしているような時間があって。でも、お互いに何か嬉しいことがあった時だけ「おお!」みたいに反応し合えるんです。
そういう、気を使わなくても同じ空間にいられる関係だからこそ生まれる時間って、すごく大事なんだなと感じました。何かをたくさん話すわけではないけれど、一緒にいるだけで落ち着ける。そういう時間が、自分にとっての“一息つける場所”なのかもしれません。
――先ほど「深呼吸できる相手」「縁」という言葉もありましたが、年齢を重ねるほど、そうした相手と出会い、時間を共有できることの尊さを感じることがあります。
佐藤:大人になると、友達を作ることって案外大変なんだなと気づくんですよね。会うとなれば「何をしよう」と考えたりもしますけど、そもそも「友達に会いたいな」と思えること自体が、すごく素敵なことだなと思っていて。
みんな仕事もありますし、それぞれの生活もある。だから最近、ふと思うんです。「会いたい」と思える友達と、こうして会える時間って、いつまで続くんだろうって。
友達って、ずっとそばにいるような気もするけれど、実際にはそれぞれの人生があって、タイミングが合わなくなることもある。だからこそ、今「会いたい」と思える人がいて、その人と会える時間があることは、すごく幸せなことなんだなと、最近あらためて感じるようになりました。
星希:佐々木と山田/田山を見ていると、ただタバコをくわえて、ふっと息を吐く。そういう時間を一緒に共有できる相手がいることって、とても大きいんだなと感じますよね。
私はわりと気を使ってしまうタイプで、先回りして「こうしたほうがいいかな」「今の言葉で傷つけていないかな」と考えてしまうことが多いんです。だからこそ、そういうことを考えすぎずに心の底から話せたり、逆に黙っていても大丈夫だと思えたりする友人との関係は、本当に大切なんだなと思います。
以前、自分の人間関係を一度見つめ直した時期があったのですが、それを経てもなお会いたいと思える友人と過ごす時間は、やっぱり特別で。何かを話さなくても、一緒にいるだけで安心できる。そういう時間の大切さを、より強く感じるようになりました。
――最後に、本作の放送を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
佐藤:このアニメは、かしこまって腰を据えて見るというより、生活の一部のようにそっと寄り添う作品なのかなと思っています。
「そういえば今日『ヤニすう』やっていたな。ちょっとつけてみるか」くらいの感覚で見ていただけたらうれしいです。何かをしながらでもいいですし、ご飯を食べながらでも、お酒を飲みながらでもいい。そういう日々の風景の中に、ふっと存在している作品になれたらいいなと思っています。
原作も、きっとそういう作品だと思うんです。アニメも皆さんの生活のどこかにそっといられる存在になれたらうれしいので、ぜひ気楽に見ていただければと思います。
星希:私も、佐藤さんと同じ気持ちでこの作品に向き合っています。先ほどもお話ししたように、「こういう時間っていいな」と思える瞬間や、一息つきたくなる場所が、このアニメを見る時間になったらいいなと思っています。
見終わった後に、「明日も頑張るぞ!」と気合いを入れるというよりは、「明日も頑張るか」くらいの、少し肩の力が抜けた気持ちになれる作品だと思います。日々を過ごす大人たちの、ささやかな気力になれたらうれしいです。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
テレビアニメ『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』は、7月9日より、TBS系28局にて毎週木曜23時56分放送。ABEMA・Netflixにて最速配信。
