※写真はイメージです(画像生成にAIを利用しています)こんにちは、シューフィッターの佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
リカバリーサンダルの流行が止まりません。歩きながら疲労回復(リカバリー)できるなんて、まさに“魔法のサンダル”に思えます。ところが、かえって足を痛めてしまうケースが増えているそうです。一体、なぜなのでしょうか?
◆疲労回復や腰痛防止に効果的
「リカバリーサンダルって何?」という方のために、軽くおさらいをしておきましょう。有名なところではウーフォスやHOKA、ナイキなどが「アスリートの疲労回復のため」につくったのがリカバリーサンダルです。ただソフトなだけではなく、足裏への圧力を分散し、歩行時の衝撃を和らげることで、疲れた足を快適に保つことを目的に設計されています。
NBAやJリーグの選手なども試合後や練習の合間によくリカバリーサンダルを履いていますし、2024年パリオリンピックでは、アメリカ代表チームの選手に配布された公式キットの中に、ナイキの「 Calm Slides」が含まれ、競技の合間やオフタイムに履くサンダルとして注目を集めました。
アスリートだけではなく、立ち仕事で疲れた人たちにも愛用されています。私も室内と屋外でそれぞれ各社のリカバリーサンダルを愛用していますが、1万歩ちかく歩いた後の足には、効きます。
メーカーによれば、やや高めに設計されたアーチが足裏を刺激し、血流をサポートする設計とされています。実際、私自身も真冬でも足裏が熱く感じることがあります。いわゆる「健康サンダル」「足ツボサンダル」とはちがい、重心をコントロールすることで腰痛防止などにも効果的なものもあります。
◆長距離の歩行には不向き。決して「万能サンダル」ではない
……と、ここまで書くといかにも「万能サンダル」のように錯覚してしまいますよね。ちがいます。イメージが先行してるからか、去年あたりからはリカバリーサンダルで歩く人を多く見かけるようになりました。リカバリーサンダルのメーカーもファッションを意識し出して、厚底だったりメタリックなカラーを展開して、より「普段履き」でもダサくないモデルを続々と出しています。
もちろん本来の機能は損なわれないようにつくられてはいるのですが、リカバリーサンダルはガンガン歩くためのものではありません。どこまでも「つっかけ」の延長に過ぎないのです。つまり、室内や「ちょっとそこまで」の範囲なら効果的なのですが、個人的には1キロ以上の移動にはおすすめしません。
どんなにハイテク素材を駆使していても、その構造自体が足を固定できないので、かえって不自然な歩き方になり、ケガのもとになるからです。
リカバリーサンダルはあらゆるメーカーが販売していますが、足の疲労回復を目的としているため、基本的にはどれもソフトなつくりです。問題は、この「ソフトさ」が行き過ぎたモデルです。特に昨今のファッション性を重視し、厚底化したモデルはクッション性は抜群ですが、そのぶん足元がかなり不安定になります。よくネンザしないな、と見ていてハラハラすることもあるほど。
通常の靴ならアッパーが足全体を包み込み、紐やストラップでしっかり固定してくれます。しかしサンダルは構造上、どうしても足が遊びます。
すると、人は無意識に足指を丸めてサンダルをつかもうとしたり、足首でバランスを取ろうとしたりします。この状態で長時間歩くと、足底筋膜やアキレス腱、足首まわりに余計な負担がかかることがあります。それでは本末転倒。
実際、私のところにも「リカバリーサンダルに替えてから足首が痛くなった」「歩くとふくらはぎが張るようになった」という相談が少しずつ増えてきました。もちろん、リカバリーサンダルそのものが悪いわけではなく、シンプルに「歩きすぎる」ことが問題なのです。
◆医師や理学療法士の監修=良いサンダルではない
実は「リカバリーサンダル」には公的な定義や認証制度がありません。極端な話、メーカーが「リカバリー」と名乗れば、その商品はリカバリーサンダルとして販売できてしまいます。ここで問題なのが「医師」「理学療法士」「整体師」監修を名乗っているけれども、正直かなり品質に疑問を感じる商品もネットを中心に増えてきたこと。もちろん全部ではありませんし、良心的なものも多いのですが、しっかり例外もあります。
また、医師や理学療法士はその道のプロですが、必ずしも靴やサンダルづくりに詳しいわけではありません。私も試しに理学療法士監修のとあるリカバリーサンダルをネットで購入してみましたが、疲労回復どころか、歩き始めて数分で「これは危ない」と感じ、その日で履くのをやめました。
たしかにクッションだけは効くのですが、カカトが乗る部分は風船のように膨らんで不安定でしかありません。底の裏もピンポン玉のようなパーツがついており、刺激は感じますが、個人的にはただ不快なだけでした。
なぜかリカバリーサンダルは外見がそっくりなものが多いので、知名度が低かったり、医師や理学療法士などの監修であっても、なにをどこまで監修したのか説明のないものは避けるのが無難です。
リカバリーサンダルは、疲れた足を休ませるための優れたアイテムです。私自身も愛用していますし、今後も履き続けるでしょう。ただし、「リカバリー」という言葉だけを信じて長距離を歩いたり、知名度の低い商品を安易に選んだりするのはおすすめできません。靴にもサンダルにも「万能」はありません。
大切なのは、目的に合ったものを選び、目的に合った使い方をすること。それこそが、本当の意味で足をいたわる近道なのです。
<文/佐藤靖青>
【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます『シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ』。著書『予約の取れないシューフィッターが教える正しい靴の選びかた』