
ミケル・エチャリの日本代表総括(後編)
「5−4−1のフォーメーションで堅固な守りを敷くことが、私は悪いことだと考えていない」
スペイン人指導者ミケル・エチャリは、北中米ワールドカップで、日本代表が受け身の戦いをしてブラジルに1−2と逆転負けした試合を振り返り、そう語っている。
戦術家としてフアン・マヌエル・リージョ(元ヴィッセル神戸監督)、ウナイ・エメリ(アストン・ヴィラ監督)、シャビ・アロンソ(チェルシー監督)らにも影響を与えてきたエチャリだが、1990年代には監督として当時2部のエイバルを率いて、5バックを用いて成果を上げたことがあった。
「5バックは守備的に見えたので、周りから批判も受けた。しかし、エイバルは非力なチームで、有力な選手は望めなかった。『いい守りがいい攻めを作る』という理念で、選手を戦術に最適化したに過ぎない。おかげでデポルティーボ・ラ・コルーニャが圧倒的な強さを発揮したシーズンも負けなかった。
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森保一監督にはレアル・ソシエダで挨拶をかわしたことがあるが、彼も5−4−1をとてもうまく運用していた。私は指導者の指導をする立場(監督養成学校の教授)でもあるが、その点に対して拍手を送りたい。批判を受ける筋合いはないだろう。しかしひとつだけ、後半途中の選手交代には疑問があって......」
スペインで有数の慧眼、エチャリは森保ジャパンのブラジル戦をどう見たのか?
「日本はこの試合も5−4−1で『いい守りがいい攻めを作る』という意思を感じさせる戦い方だった。それは時間をかけて作ったものだったと言える。その証拠に、選手の顔ぶれが変わってもうまく機能していた。
前線がファーストディフェンスになって、鎌田大地、佐野海舟の中盤は堅固だった。両ワイドは攻撃の姿勢を忘れず、3人のセンターバックは堅実。たとえシュートを打たれたとしてもゴールから遠ざけ、危険なコースは消していた」
【システムの肝は中盤の防護力】
「3バックでは、特に冨安健洋のディフェンスが秀逸だった。ヴィニシウス・ジュニオールとマッチアップする機会が多かったが、不必要なファウルをしないで、ギリギリのところで止めていた。ウイングバックとの連係は戦術的に難しいのだが、彼はいとも簡単にやり遂げ、そのクオリティが伝わってきた。彼こそが"砦"の象徴だろう。
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試合ではGK鈴木彩艶のビッグセーブが目立ったかもしれない。確かに驚くべき反応を見せていたが、それはディフェンダーとの関係性なしにはあり得なかった。実際、チーム全体としてそこまで危険なシュートを打たせていない。特に前半を失点ゼロで抑えられたのは5−4−1の組織力の賜物で、ほとんど完璧にタクティクスが機能していた」
エチャリ自身、5バックでの守備重視をメディアに揶揄されたことがあるからだろうが、組織力の価値を強調した。うまく運用することができたら、最大値が出せることをプロとして知り抜いているのだろう。つまりは相手との力関係も考えたうえで、最善の決断を下す必要があるのだ。
「システムのなかで、最も異彩を放っていたのは佐野だろう。インターセプトからドリブルで攻め上がり、カゼミーロを置き去りにしながら流し込んだミドルシュートは見事だった。守りから攻めに転じられたわけだが、彼はそれ以上に守備で中盤を補強し、ブラジルの攻撃を削っていた。非常にタフな選手で、コンプリートなMFと言える。鎌田と組んだ佐野が、この試合のベストプレーヤーだ」
エチャリはそう言って賞賛を送る一方、ひとつの疑問を呈した。
「後半途中、なぜ森保監督は中盤にタフなMFを入れなかったのか? 伊東純也、鎌田を下げ、田中碧、町野修斗を入れたが、目に見えてチーム全体の攻守がパワーダウンした。結果的に、ブラジルの勢いが増してしまった。
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田中はとてもいい選手だが、難しい時間帯で入ってプレーが安定しなかった。町野はFWなのだろうが、うまく役割が見つかっていない。もし遠藤航や守田英正がいたら、状況は変わっていただろう。ほかに中盤で守りを強固にできる人材はいなかったのか? ひとりで難しい場合、中盤をもう1枚増やすのもひとつの手だった。このシステムは、中盤の防御力を落とさないことが肝心だからだ」
【「戦術的には合理的な戦いをした」】
そして、エチャリは見えていた勝機について、こう明かしている。
「今大会、日本で一番得点の気配を感じさせたのは左サイドの中村敬斗だった。彼は得点感覚に優れ、自らコースを作って足を振れる。スピードに乗っても、コントロール力が落ちず、常に危険な存在だった。ブラジル戦はやや連戦の疲れが出ていて、カウンターからの選択も最善ではなかったが、ブラジルののど元に突きつけた刃として残すのもひとつの策だったのではないか。5バックの一角で右サイドの堂安律を下げたとしても、1枚は攻撃のカードが必要で......」
エチャリは口惜しそうに言った。5−4−1がブラジルに対してハマっていたからこそ、その采配の是非を問うた。後半アディショナルタイムの失点で敗れる結末は、プロだからこそ受け入れられないものだ。2009年から日本代表をスカウティングしてきた彼は、日本贔屓を隠さずに「無念だ」と漏らしながら、最後にこう総括している。
「日本が大会を通じ、戦術的には合理的な戦いをしたことは間違いない。『いい守りがいい攻めを作る』という点で、ほとんど完璧に近かった。佐野はそれを体現した選手と言える。ブラジルを苦しめたことも間違いなく、その戦いを心から称えたい。三笘薫、遠藤が不在で久保建英が欠場しても、中村、佐野のような有力選手も出てきた。それは日本サッカーの成長の証だろう」
Profile
ミケル・エチャリ
1946年生まれ。サン・セバスティアン出身のスペイン人指導者。選手としては膝のケガにより27歳で引退し、その後は指導者に転身した。レアル・ソシエダでは20年以上にわたり強化ディレクター、育成ディレクター、セカンドチーム監督などを歴任。ホセバ・エチェベリア、ハビエル・デ・ペドロ、シャビ・アロンソなど多くの選手に影響を与えた。エイバルでは監督を務め、バスク代表監督(FIFA非公認だが、バスク最高の指導者に与えられる栄誉職)も10年以上務めた。また、指導者養成学校の教授も務め、教え子にウナイ・エメリ、ミケル・アルテタ、フアン・マヌエル・リージョらがいる。
