
クマの出没が止まらない。環境省によると、2025年度の人身被害238人、死亡13人と、いずれも過去最多を記録した。出没件数も過去最多水準で推移し、市街地での目撃も相次ぐ。
クマとの遭遇は、もはや山の中だけの話ではなくなった。鈴やスプレーだけでは身を守りきれないケースも増える中、アイデアを凝らしたクマ対策グッズが広がっている。
ファミリーマートは6月17日、群馬県桐生市の店舗で、オオカミ型の野生動物撃退装置「モンスターウルフ」の実証実験を始めた。クマ撃退スプレーも約800店舗に配備するなど、対策はコンビニの店先にまで及んでいる。
ファミマが導入した「モンスターウルフ」は、ウルフ・カムイ(札幌市)が手掛ける装置だ。野生動物が本能的に警戒する天敵のオオカミを模した装置だ。赤外線センサーが動物の接近を感知すると起動し、オオカミに似せた姿で威嚇。赤色LEDの目を点滅させるほか、足元から光を照射して地面にシルエットを浮かび上がらせる。
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威嚇音は最大90デシベルで、工事現場並みの大音量だ。自然界には存在しない音を含む50種類以上の音声パターンをランダムに再生し、動物の慣れを防ぐ。同社は、装置を定期的に移設することも慣れ防止策として推奨している。
野生動物の中で忌避行動(特定の状況を嫌って避けること)の効果が最も高いのはクマだという。「クマは単独行動なので、集団で動く動物に比べて忌避行動をとりやすいことが要因ではないか」とウルフ・カムイの宮坂元博社長は分析する。
●累計約400台を販売
価格は、1台60万〜65万円程度。レンタルにも対応しており、まず効果を試したうえで購入に切り替える利用者も多い。累計の販売台数は約400台にのぼり、クマ被害の拡大を背景に受注は前年後半から急増。今年の売り上げは前年比約2倍を見込んでいる。
導入先は当初、農作物の食害対策向けが中心だったが、現在はゴルフ場や山間部の工事現場にも広がっている。ゴルフ場では、トーナメント開催時にクマ対策としてレンタルする例もあるという。
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特に需要が高いのが工事現場だ。山間部では電気柵や物理柵を張りめぐらせるのが難しく、これまではクマ鈴や撃退スプレーに頼るしかなかった。だが、鈴は人が活動しているときしか効果がなく、スプレーは遭遇後に使う最後の手段だ。
その点、モンスターウルフは工事のない夜間にも稼働し、夜行性のクマを暗いうちから寄せ付けない。「朝に出勤した社員がクマと鉢合わせる事態を防げる」(宮坂氏)
ただし、課題もある。威嚇音が大きいぶん、民家が近い場所では音量を絞らざるをえない。そこで同社は、音を特定方向にだけ届ける超指向性スピーカーの実証を進めており、クマへの効果も確認できたという。加えて、装置を載せた電動台車が自動で移動する次世代機「ウルフムーバー」の実証実験も福井県で進んでいる。
●20年間、突破されたことのないゴミ箱
クマが人里に下りてくる理由の一つは、食べ物の存在だ。ツキノワグマは本来警戒心が強く人を避けるが、放置された生ゴミの味を一度覚えると警戒心が薄れ、行動パターンが変化する。やがてゴミに執着して人里への出没を繰り返すようになり、最終的には「問題個体」として駆除される。
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こうした人間由来の食べ物を断つ対策の一つが、ピッキオ(長野県軽井沢町)の「Bear Smart Box」だ。クマが物理的に開けられない構造のゴミ箱で、ゴミの味を覚えさせないことを狙う。
軽井沢町のゴミ集積所では、1999年に年間129件あったクマによるゴミ荒らしが、本製品の導入後、2009年に0件まで減った。導入から20年以上が経過した現在も、クマに破られた事例はないという。
扉には油圧式のダンパーを備え、子供や高齢者でも軽い力で開閉できる。ただし、開けるには「手を掛ける」と「レバーを引く」の2つの動作を同時に行う必要がある。この「2動作ロック機能」は、クマの手の構造では再現できない。本体を横倒しにできない設計も組み合わせ、「のぼりべつクマ牧場」(北海道登別市)で実際のクマによる検証も行った。
基本構造は、20年以上前の初期モデルから大きく変えていないが、設置場所に応じて仕様を選べるようにした。運んで置くだけの「フレーム型」と、大型車が入れない場所でも搬入できる「組み立て型」があり、幅も標準とスリムの2種類から選べる。
価格は1台68万2000円〜、10台以上の大口注文なら62万7000円〜。安くはないが、軽井沢に設置された初期モデルは、20年以上経った現在も大きな劣化はなく、現役で使われている。販売開始後は、クマの生息域に近いキャンプ場などから問い合わせが寄せられているという。
優れた嗅覚を持つクマにとって、人里のゴミや農作物は格好の食べ物だ。容易に高カロリーを得られると学習させないことが、出没を防ぐ前提になる。もっとも、ゴミ箱を置けばすべて解決するわけではない。ピッキオの広報担当も「クマが出没する原因は場所ごとに異なる。それを分析したうえで、必要な対策をとる必要がある」と指摘する。
●出没をAIがいち早く知らせる
クマを早期に発見することに特化した製品も登場した。SOREST(東京都新宿区)が6月22日に出荷を始めた「MIRAI-X KUMA」(オープン価格)だ。監視カメラの映像をAIが分析し、ツキノワグマやヒグマを検知すると、パトライトやスマホアプリ、メールで知らせる。
AIの検知精度は学習データに左右されるため、国内で撮影したクマの映像を中心に学習させ、日本の環境に合わせている。クマは地域や季節、天候で見え方が大きく変わるため、海外の汎用データだけでは検知の精度が上がりにくい。
検知後は、すぐに追い払うのではなく、まず人に音声で警告して接触を防ぐ運用を勧めている。追い払っても、クマが山に戻るか市街地へ向かうかは読みにくいためだ。PC接続時は最大30台、エッジデバイス(ネットワークの末端で処理を行う機器)利用時は最大2台のカメラに対応する。
紹介した3製品のアプローチは異なるが、いずれも農地やゴミ集積所、店先といった「場所」に設置して使う点は共通する。鈴やスプレーのように、個人が持ち歩く備えとは、また違った広がり方だ。
クマの出没が日常的な問題になりつつあるいま、こうした対策製品やサービスの選択肢は、今後さらに増えていきそうだ。
(カワブチカズキ)
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