
●連載:グッドパッチとUXの話をしようか
【画像】あつ森、トモコレ、ぽこポケ 大ヒット「箱庭ゲーム」に共通する「作りたくなる」仕掛けとは?
「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。
本記事はグッドパッチの社員ブログ「トモコレ・ぽこポケ、自分で作る系のゲーム増えてるのなんで?〜結論、創作の楽しさって色々あるよね話〜」の加筆版です。
突然ですが、読者の皆さんに質問です。
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「2026年、一番売れているゲームソフトはなんでしょう?」
正解はNintendo Switchの『トモダチコレクション わくわく生活』(以下、トモコレ)。電車やテレビなどでCMを目にした方も多いのではないでしょうか。ファミ通.comによると、その販売本数は累計125万9031本(2026年5月時点)を記録しています。第2位は、Nintendo Switch2の『ぽこ あ ポケモン』(以下、ぽこポケ)で、こちらも同100万本を超える大ヒットとなっています。
この2作品には共通点があります。それは、プレイヤー自身が島や街などを自由に作り、ほかのユーザーと見せ合って楽しむ「箱庭ゲーム」というジャンルであることです。Nintendo Switchで大ヒットを記録した『あつまれ どうぶつの森』(以下、あつ森)や『Minecraft』もこのジャンルに当てはまります。
ゲームオタクの筆者のSNSには、トモコレのかわいらしいキャラクターや、ぽこポケで作られた美しい街並みが次々と流れてきます。箱庭ゲームは今、大きなブームを迎えていると言ってもいいでしょう。
なぜ今、箱庭ゲームはこれほど多くの人を引き付けるのでしょうか。今回は、そのヒットの理由と、ゲームデザインの裏側にある仕掛けを考えてみます。
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●プレイヤー自身がコンテンツを作るゲーム、成功のカギは?
箱庭ゲームの最大の特徴は、プレイヤー自身がコンテンツを作ることです。
ゲーム内で作るキャラクターや街といった、ユーザー自身が生み出したコンテンツは「UGC(User Generated Content)」と呼ばれます。SNSに投稿される写真や文章、レシピサービス「クックパッド」に投稿されるレシピなどもUGCの代表例です。
企業がUGCを重視する理由はシンプルです。ユーザーが「自分の作品を誰かに見てもらいたい」と思えば、自発的にSNSなどで発信してくれるからです。その結果、企業には次のようなメリットがあります。
・口コミなどによる拡散でマーケティングコストを抑えられる
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・創作や交流そのものが新たな遊びとなり、長く遊び続けてもらえるため、LTV(顧客生涯価値)が高まる
つまり、このビジネスモデルでは、コンテンツを作りたいと思うプレイヤーの増加がカギとなります。しかし、ここには一つの壁があります。
SNSには、実際にプレイヤーが作ったUGCが数多く投稿されています。そこには人気アニメや映画の世界を忠実に再現した島や、住んでみたくなるような家の画像が並んでいます。そうした作品を見るたびに「すごい」と感心する一方で、「自分にはここまでのものは作れない」と感じてしまう人もいるでしょう。
優れたUGCが増えるほど、創作の心理的なハードルは上がりやすくなります。初めてプレイする人が「自分も作ってみよう」と思えなければ、UGCは増えません。
ところが、ヒットした箱庭ゲームを見ると、この壁を乗り越えるための工夫が数多く盛り込まれています。プレイヤーが「創作の楽しさ」を自然と感じられる仕組みが、ゲームの中に巧みに組み込まれているのです。
●「クオリティーの追求」や「他者からの評価」だけではない楽しみ方
創作の楽しさは「評価されること」や「クオリティーを追求すること」だけではありません。創作には、大きく分けると以下のような楽しさがあります。
1. 自分の理想やアイデアを形にする楽しさ
2. 作品を誰かと共有し、反応をもらう楽しさ
3. 他人の作品を真似したり学んだりする楽しさ
4. 自分の手を離れた作品が思いがけない形で動き出す楽しさ
ゲーム開発者は、こうしたさまざまな楽しさのうち、どこに重きを置くかを考えながらゲームを設計しています。ヒット作品を例に具体的な違いを見ていきましょう。
『おいでよ どうぶつの森』:自分の理想やアイデアで世界を作る楽しさ
まずは、少し昔の作品『おいでよ どうぶつの森』です。こちらは、ニンテンドーDSのソフトです。
発売された2005年当時は、現在ほどSNSが普及しておらず、ゲーム内の創作要素も服などのアイテムが中心でした。
そのため、多くのプレイヤーは友人などの身近なコミュニティ、あるいは自分自身で楽しみながら、部屋やアバターを装飾して遊んでいました。
理想の部屋や村を目指して試行錯誤する過程そのものが、この作品の大きな楽しさだったといえるでしょう。
『あつ森』『うごくメモ帳』:シェアする楽しさ、まねする楽しさ
その後、SNSが普及すると、創作の楽しみ方にも変化が生まれます。
『あつ森』では、自分の島をSNSで公開し、多くの人から反応をもらえるようになりました。また、他のプレイヤーのアイデアを参考にしたり、デザインをまねしたりと、創作を通じたコミュニケーションも盛んになります。
任天堂の『うごくメモ帳』も同じです。ニンテンドーDS向けに配信された、手描きアニメーションを制作・投稿できるソフトで、多くのユーザーが作品を公開して交流していました。
筆者自身、とても好きなサービスでした。作品を投稿したり、上手な人の作品を見てまねしたりするだけでも十分に楽しかった記憶があります。必ずしも上手に作れる必要はなく、「作ってみること」そのものが創作の入り口になっていました。
『トモコレ』:作品を「手放す」楽しさ
トモコレは、プレイヤーが作ったキャラクターが島の中で勝手に生活し、他のキャラクターと友達になったり、遊んだりする様子を見守るゲームです。
ここで特徴的なのは、作品を作った後、その振る舞いをゲーム側に委ねる点です。
一般的に、自分の創作物を手放すと、意図しない動きをしたり、思わぬ解釈をされたりするリスクがあります。一方、トモコレでは、キャラクター同士が思いがけず仲良くなったり、予想外のイベントが起きたりと、ゲーム側が設計した「偶然」を楽しめるようになっています。ただし、その偶然を完全に運任せにしているわけではありません。
例えば、住民のアバター同士を近づければ仲良くなりやすくなるなど、プレイヤー側が完全に操作することはできないものの、ある程度は望む方向へ導くことができます。「何が起こるかは分からない。それでも、少しだけ未来に介入できる」というバランス感がトモコレならではの楽しさにつながっています。
ここまで紹介した作品は、それぞれ異なる「創作の楽しさ」を提供しています。一方、ぽこポケは少しアプローチが異なります。「どんな楽しさを提供するか」だけではなく、より多くのプレイヤーが創作を始めやすくする工夫を施しています。
『ぽこポケ』:クオリティー以外の評価軸で創作のハードルを下げる
ぽこポケは、箱庭を自由に作るだけではなく、「ポケモンが暮らしやすい街を作ること」が目的になっています。
ゲームにはポケモンの「住み心地」という概念があり、それがプレイヤーの評価にもつながります。そのため、プレイヤーは「うまく作りたい」という創作のクオリティー以外に、「ポケモンが喜ぶ街にしよう」という動機でも創作を進めることになります。
実際、ポケモンたちは住み心地に対する反応を見せてくれます。「ポケモンが快適に暮らせる街かどうか」という新たな評価軸が加わることで、「きれいな街を作る」以外の目的が生まれます。その結果、「良い作品を作らなければ」というプレッシャーが和らぎ、創作のハードルを下げる上手な設計になっています。
●シール帳も麻辣湯も? 「自分だけの作品」を生む仕掛けがブームの裏側にある
ここまで見てきたように、箱庭ゲームがヒットする背景には、プレイヤーが気軽に創作を楽しめるような設計があることが分かります。
重要なのは「すごい作品を作ること」を求めるのではなく、「作ってみたい」と思えるきっかけを用意することです。創作のハードルを下げ、ユーザーが自分なりの楽しみ方を見つけられるよう設計されているからこそ、多くのUGCが生まれ、多くのユーザー獲得につながっています。
こうした「創作の仕掛け」はゲームに限った話ではありません。
例えば、昨年話題になった「ボンボンドロップシール」に代表される「シール帳」ブームでは、シールを自由に組み合わせることで、自分のシール帳を作る楽しさから人気が拡大していきました。また、若い女性を中心に人気を集める麻辣湯も、具材を自由に選び、自分だけの一杯を作れることが魅力の一つです。
さまざまなゲームを見ていくと、創作の楽しさというのは無限にあるのだということを思い出させてくれます。UGCゲームが流行る裏には、人が無邪気に創作活動に向かえるようにするための優しい仕掛けがあったのかもしれません。
どちらも、高度な技術や特別なセンスは必要ありません。それでも、「自分で選び、自分だけのものを作った」という実感が、SNSで共有したくなる体験につながっていると考えられます。
生成AIの普及によって、指示するだけで完成度の高い作品を作れる時代になりつつあります。その一方で、人々が求めているのは「自分らしさ」を反映できる余地なのかもしれません。「創作」という視点でゲームやヒット商品を見てみると、その人気の理由が少し違って見えてくるのではないでしょうか。
●著者紹介:石黒澪
グッドパッチのUI/UXデザイナーとしてクライアントワークに従事。大手フードデリバリーサービスや飲料メーカーといった大企業のサービス・プロダクトの新規事業開発や改善のデザイン業務を担当。現在は生成AIを活用したプロダクトのUIデザインリードを務める。「思わずファンになる」ようなデザインを目指し、遊び心を大事にデザインしている。
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