勝利と制裁/島田明宏

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2026年07月02日 21:00  netkeiba

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▲作家の島田明宏さん
【島田明宏(作家)=コラム『熱視点』】

 先週の函館記念で、小林美駒騎手がJRA重賞初制覇を果たした。

 騎乗馬は10番人気のファウストラーゼン。3コーナー過ぎから動き、直線で先頭に立つと、ケリフレッドアスクの猛追をしのぎ切った。藤田菜七子、今村聖奈、永島まなみにつづく、JRA所属の女性騎手として4人目の重賞勝利である。

 しかし、後味はすっきりしなかった。

 最後の直線で小林騎手のファウストラーゼンが外側に斜行し、2位入線のケリフレッドアスクの進路が狭くなったからだ。騎乗馬が外へ向かっているのに、小林騎手は右鞭を入れ、馬がさらに外(左)へ行ってしまった。勝利が近づいたことで、無我夢中になっていたのか。

 ケリフレッドアスクを管理する藤原英昭調教師から降着を求める申し立てがあったが、棄却された。着順はそのまま。小林騎手は7月11日から19日まで9日間、開催4日間を含む騎乗停止となった。

 勝利騎手インタビューで、小林騎手は、直線で他馬を妨害してしまったことの反省と、頑張ってくれたファウストラーゼンへの感謝の言葉を口にした。

 本当なら思いっきり喜びたいところだろうが、被害馬の関係者やファンへの配慮からか、控えめな笑顔だった。

 こういうレースを見ると、ミスターシービーの日本ダービーを思い出す。

 1983年、第50回日本ダービー。出走馬は21頭。ミスターシービーは後方2、3番手を進んだ。1コーナーを10番手以内で回る「ダービーポジション」を取らなければ勝てないと言われた時代である。

 それでも吉永騎手は慌てなかった。向正面から進出し、4コーナーでは4、5番手。最後の直線、外から先頭に立つと、内に切れ込みながら豪快に伸び、2着に1馬身3/4差をつけて勝った。

 しかし、レース後、4コーナーで他馬と衝突し、最後の直線でも他馬の走行を妨害したとして審議になった。当時は現在のような降着制度はなく、失格になるか、着順がそのままになるかのどちらかだった。結局、ミスターシービーの着順はそのままだった。が、吉永騎手には開催4日間の騎乗停止と、優勝トロフィー返還の処分が下された。

 ダービージョッキーになったのに、トロフィーを返さなければならないとは、何とも切ない。吉永騎手は当日の夜、そのカップの部分に酒を入れて仲間と飲み、喜びを分かち合ってから返したという。

 ビッグレースの勝利と制裁が重なったことが、2008年のオークスでもあった。

 そこを勝ったトールポピーは、前年の阪神JFを制していたが、桜花賞では8着に敗れていた。体が減り、気持ちの面でも難しさを見せていたのだ。角居勝彦調教師(当時)は、放牧を挟み、攻めすぎず、カイバをしっかり食べさせながら、オークスへ向けて立て直した。

 走れる状態に戻ったトールポピーは、直線で内に切れ込みながら、鋭く伸びた。先頭に立っても気を抜かずに走り切り、69代目のオークス馬となった。力を出し切った、強いレースだった。

 しかし、直線での進路の取り方により、池添謙一騎手は騎乗停止となった。

 2013年の降着ルール変更後も、似た事例があった。2016年のマイルCSである。

 2013年からは、走行妨害があっても、その妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していたと裁決委員が判断した場合に降着となる形になった。馬がレースで見せたパフォーマンス、すなわち到達順位を重視する考え方である。

 ミッキーアイルは外の16番枠から好スタートを切り、ハナに立った。逃げ馬にとっては厳しい流れになったが、最後までしぶとく伸び、頭差で勝利をおさめた。

 実に強い勝ち方だった。

 しかし、ゴール前で外に斜行し、ネオリアリズムら4頭の走行を妨害した。浜中俊騎手は11月26日から12月18日まで23日間、開催8日間の騎乗停止となった。

 今回の小林騎手同様、浜中騎手は、直線で外(左)に斜行しているのに、右鞭を連打し、他馬の走行を妨害してしまった。彼があそこまで必死になるほど、このレースが特別な一戦だったことを、私たちは、3年後のダービーを彼がロジャーバローズで制したあとの共同会見で知ることになる。

 浜中騎手は祖父の影響で騎手になったのだが、彼が「かけがえのない人」というその祖父が、ミッキーアイルでマイルCSを勝った日に亡くなったのだという。

「わしが死ぬまでにダービーを勝ってくれ」

 そう祖父から言われていた浜中騎手は、遅くなってしまったが、「じいちゃんの夢を叶えることができたことが一番嬉しい」と、声を詰まらせた。

 小林美駒騎手にとって、今年の函館記念は一生忘れられないレースになるだろう。

 ファウストラーゼンも、ミスターシービーも、トールポピーも、ミッキーアイルも、パフォーマンス自体は素晴らしかった。競馬では「強い馬が勝つ」のではなく、「勝った馬が強い」と言われており、現行の降着ルールはそれに即したものになっている。

 だからこそ、勝った馬の強さに誰もが心から拍手を送ることができる、綺麗なレースを見たいと思う。

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