
森保ジャパンの実像(前編)
1勝2分けでグループステージを2位で突破し、ラウンド32でブラジルに敗れた北中米ワールドカップの日本代表をとう評価すべきか。現地で取材を続ける杉山茂樹氏と浅田真樹氏が、あらためてその戦いを振り返る――。
浅田 今回のワールドカップの日本代表への評価は、何を基準に評価するかによって話が違ってくると思います。目標は本当に優勝だったのか、それともこれまで成し遂げていないベスト8だったのか。もし目標が優勝なら、ラウンド32での敗退はまさに惨敗でしょう。ベスト8なら、失敗したけれど、ある意味では順当な結果で、可もなく不可もなくといったものになるでしょう。
杉山 本当の目標が明らかになっていなかったのは大きな問題です。森保一監督が最初は「目標はベスト8」と言っていたのが、いつのまにか「優勝」になっていった。去年、グループステージの組み合わせが決まると、たぶんベスト8は難しいとわかったのではないかと思います。ラウンド32でブラジルやフランスと当たる可能性が高くて、そうなったらベスト16も難しい。それで「優勝」としか言うことがなくなってしまったのではないかと僕は思います。そのことに周囲は気づいてもっと突っ込むべきだったし、いまその評価があやふやになっている原因は我々にもある。
浅田 今回の日本代表の戦いぶりを見ていくと、まず初戦のオランダ戦は、2回リードされて2回追いついた。これに関しては、日本にはそれなりに実力がついてきたことの証明と言っていい。ただし裏を返すと、前回カタール大会では、ドイツとスペインに先制されて、追いついたら一気に逆転したのですが、それができなかったからオランダに勝てなかったとも言えます。「粘り強く戦って勝つのがこのチームの特長」と言われていたけど、それはオランダ戦の時点で崩れていたという見方もできるわけです。
|
|
|
|
【好調に見えた初戦、第2戦だが...】
杉山 最後の最後で同点に追いついたのはよかったし、昔の日本だったら追いつくことはできなかったのかもしれないけど、そうなった理由は他にもいくつかあります。まずオランダは2−1にしたあと、5バックに変更。その間隙を日本がついたという面もあって、オランダはいい選手はいるけど、昔ほど格好よくなくなったなというのがあります。それと今回のワールドカップは大会期間が長くなったから、強豪と言われるチームは最初から全力でこなかった印象です。対戦相手の日本は昔より強くなったかもしれないけど、少しラクをして勝ちたい相手だと思っても不思議ではない。ところが試合が始まると日本の動きの俊敏さに面食らってああいう試合になったのではないか。
浅田 ただ、初戦の引き分けという結果で、前回大会からの流れは維持しているという雰囲気はありました。続くチュニジア戦は、単純に実力差があったし、相手の準備の問題か、伝えられているようにチームとしてのまとまりを欠く状態にあったからなのか、4−0という大差がついても不思議ではない展開でした。日本代表が強くなっているという文脈で言えば、ああいう試合で着実にゴールをして勝てるというのは、これも強さを証明した試合ということになります。
杉山 上からパスコースを見るとそのチームのレベルがわかります。いいチームはピッチ上に三角形がたくさんできていて、選択肢も多いのですが、チュニジアは三角形ができておらず、線でしか結ばれていないから、最初からパスコースが読めた。そこにプレスをかければ簡単にボールを奪うことができました。技術の問題と言うよりはそれ以前の問題だったと思います。
浅田 ただ、僕の印象としては、結構パスをつながれるシーンが意外にあったように思います。日本の選手が遅れて行ってつながれて、遅れて行ってつながれて......というのがあって、スコアは4−0でも、これで大丈夫なのかと、ちょっと引っかかるところがあった。その後の試合を見ると、その不安は的外れでもなかったのかな、と。
杉山 それはチュニジアの選手の個人技のせいもあるでしょう。ひとりひとりがボールキープする力はあるのだから、いい監督のもとでちゃんとやれば、もっといい勝負ができたと思います。日本のほうが圧倒的に力があるというのはあの試合に限った話で、総合力はそこまで変わらないと思います。
|
|
|
|
【風向きが変わったスウェーデン戦】
浅田 スウェーデン戦は、いろいろなデータやスタッツの数字を見ても、ほぼ五分でした。日本がヨーロッパのセカンドレベルの国と対戦すると、力関係的につり合いが取れた試合になることを示しました。どちらも決め手を欠くとも言えるし、勝っていてもおかしくなかったとも、負けていてもおかしくなかったとも言える一戦。その意味で1−1は妥当な結果で、ゴールも日本がコンビネーションで取ったものなら、スウェーデンは個人技で豪快に決めた。それも含めて両者の力関係が映し出されていました。
杉山 スウェーデン戦に関して言うと、あまり日本がファイトしていなかった印象があります。
浅田 疲れていたのか、特に後半は足が動いていなかったですね。
杉山 元気がなくて、あと10分続けていたらやられていた感じがします。それもあって、終わり方が非常によくなかった。日本とスウェーデンは、最初からこのグループの2位と3位を争うと予想されていましたよね。オランダは強く、チュニジアはワンランク落ちるということも含めて、最初の予想どおりの結果になったわけです。そうすると、決勝トーナメントの1回戦がブラジルかフランスになる可能性が高いことも、あらかじめ予想できた。
つまり、そのラウンド32が今大会の日本にとっての大一番になるということはわかっていたわけです。そして、その大一番にどれだけの勢力をつぎ込むことができるかを問われていたのがスウェーデン戦だったのです。ところがその大一番を前に、元気がなくなっていった。オランダ戦と比べると明らかに落ちていました。スウェーデン戦でもっといい終わり方をして、右肩上がりの状態でブラジルと戦うことができればよかったのに、とは思います。スウェーデン戦がそうなった理由はよくわかりません。オランダ戦で頑張りすぎたということもあるのかもしれないし......。
|
|
|
|
【「使える選手」は何人いたのか】
浅田 コンディションについて言うと、今回、大会前に他国と試合をせず、U−19代表を連れて行って練習試合をするという方法を取りました。大会が長丁場になることを見越して、あまりピークを早くしないためにそうしたのかと思っていたのですが、だとしたらその効果はなかったということかもしれません。また、試合会場は、ダラスは屋根がついていて、モンテレーの試合も夜だったのでそれほど暑くなかった。また、合宿地のナッシュビルもダラスに比べて暑くなかったそうです。そう考えると、3試合目で足が止まるというのは何かほかに原因があったのかもしれません。
杉山 もしかしたら選手の起用法も関係があった可能性はあります。チュニジア戦の後半こそ、いろいろな選手が出てきましたが、結局、本当に使える選手は何人だったのか。センターフォワードしかできない選手が5人もいて、ディフェンスが8人もいる。ディフェンダーはコンディションの問題があったのか、試合によって入れ代わり立ち代わり出場していたけど、フォワードはオランダ戦で最後に小川航基が決めた(記録は鎌田大地の得点)ものの、結局は上田綺世を使い倒しただけ。どういう理屈で5人を選んだのか、わかりませんでした。そのぶん、数が少なくなったサイドの選手は疲れたらもう終わり。中盤の選手もそうです。使える選手の絶対数が足りているようで足りていなかった。
三笘薫や遠藤航が出場できないと決まった時、誰を補強するのかという問題もあったと思います。そこで正解を出していたら、結果がくつがえったかどうかはともかく、選手交代するとパワーダウンするこのチームの傾向は改善できていた可能性があります。試合の後半、「お、こいつが入ってきたのか」というのがあると、見る側に期待感が生まれるし、チームに勢いが出ます。でも、あのメンバーではそれができなかった。その意味では采配、起用法が悪かったというより、むしろ采配的にはそうするしか仕方がなかった。そこに至るプロセスが問題で、選手の選考のバランスが悪かったという気がします。
浅田 結局、そのツケが噴出したのがブラジル戦でした。
つづきをよむ>>
