画像提供:マイナビニュース「親が残してくれたアパートだから、そのまま持ち続けようと思っています」。相続のご相談では、こうした言葉をよく耳にします。不動産を引き継ぐこと自体は、もちろん問題ではありません。
しかし、その際に私が必ずお尋ねする質問があります。
「これから、その不動産は誰が管理していくのでしょうか」
この問いに、多くの方が一瞬考え込みます。相続では「誰が所有するか」に意識が向きがちですが、本質的に重要なのは、その後「誰が管理し、運営していくか」です。
不動産は、建てた瞬間が完成形ではありません。そこから数十年にわたる管理を通じて初めて、資産価値が維持・形成されるのです。
同じ建物でも、なぜ価値に差が生まれるのか
同じ時期に建てられたアパートでも、常に満室に近い物件と、空室が増え続ける物件に分かれます。建物の構造も立地条件も大差がないにもかかわらず、なぜこのような差が生まれるのでしょうか。
市場環境の影響も無視できませんが、実務の現場で見ていると、差を生む最大の要因の一つは「管理」の質にあります。
管理とは、清掃や点検だけではない
「管理」と聞くと、次のような業務を思い浮かべる方が多いでしょう。
・共用部分の清掃
・草刈り
・建物設備点検
これらはもちろん重要な業務です。しかし、本来の管理はもっと広い範囲を含みます。
・入居者対応
・家賃管理
・修繕計画
・空室対策
・資産価値の維持
・長期修繕計画の策定
これらすべてを含めて、不動産経営そのものを支える活動が「管理」です。つまり管理とは、単なる維持作業ではなく、事業としての「運営」だと捉えるべきなのです。
修繕は「費用」ではなく「投資」
管理の現場でよく相談を受けるのが、修繕の判断です。「まだ使えるから先延ばしにしよう」というお気持ちは理解できます。
しかし、小さな修繕を後回しにした結果、後に大規模な工事を要するケースは少なくありません。外壁や共用部の傷みを放置すれば、建物設備の劣化が進行し、入居希望者に与える印象にも影響します。ひいては空室率や収益にも影響を及ぼします。
修繕費は単なる出費ではなく、資産価値を維持し、将来の収益を守るための投資として位置づける視点が欠かせません。
管理の質は、入居率と収益性を左右する
入居者が住み続けたいと感じる物件には、共通点があります。
・清掃が行き届いている
・設備不具合への対応が早い
・共用部が常に整っている
・管理会社との連絡が取りやすい
こうした積み重ねが、結果として入居率や家賃水準に反映されます。
反対に管理が行き届かない物件では、退去が増え、空室期間が長期化し、収益性が低下していきます。管理は単なるコストではなく、収益を左右する経営上の重要要素なのです。
相続では「誰が管理するか」まで決めておく
相続の場面では「誰が所有するか」については話し合われるものの、「誰が管理するか」まで明確に決められているケースは、意外に多くありません。
例えば、兄弟で不動産を共有したものの、誰も現地に足を運ばず、管理会社との連絡も曖昧になっている。こうした状態が続くと、不動産の価値は徐々に低下していきます。
相続に際しては、所有者を決めるだけでなく、管理責任者を明確にし、必要であれば管理体制そのものを一つのプロジェクトとして組み立てておくことが重要です。
利害が異なる関係者の間で役割と責任を整理しておくことが、その後の資産価値を大きく左右します。
不動産は「持つ人」より「管理する人」で価値が変わる
不動産は、取得した時点で完結するものではありません。本当のスタートは、その後の管理にあります。建物は時間とともに老朽化し、市場環境も変化し続けます。
そうした変化の中で、適切な管理と計画的な修繕を継続することこそが、資産価値の維持と安定した収益につながります。そして必要に応じて大規模なリノベーションを図ることも重要な投資判断となります。
相続不動産も例外ではありません。誰が所有するかだけでなく、誰が責任を持って管理していくのか。この視点を持つことが、不動産を次の世代へ円滑に引き継ぐための重要な第一歩となります。
佐嘉田 英樹 さかた ひでき アテナ・パートナーズ株式会社 代表取締役。1991年に東京大学卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行、主に融資営業・マーケティング戦略企画に携わる。その後不動産・建設業界に身を転じ、建売分譲、賃貸アパート、介護福祉施設等の企画開発・売買などに従事し、2023年8月に独立。地主・不動産投資家・中小企業の不動産活用コンサルティングやプロジェクト・マネジメント、テナント企業の開業支援を行う。宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、2級建築士、FP2級など幅広い専門知識を駆使し、総合的な視点からクライアントの課題解決にあたる。
アテナ・パートナーズ株式会社:https://athena-ptr.co.jp/
アテナ・パートナーズ株式会社は、お客様のニーズや目的を詳細にヒアリングして、物件や市場の調査を行った上で、所有不動産の有効活用、開発、建て替え、リノベーション・用途変更、売却、交換など、多角的・戦略的な企画提案・マネジメントを行う。企画計画から資金調達、テナント誘致、設計、工事、引き渡しまで一貫してプロジェクトをマネジメントすることで、独自のビジネスモデルを展開する。 この著者の記事一覧はこちら(佐嘉田 英樹)