
当たり前のように思われるかもしれませんが、なぜ私たちの心はそのような反応をしてしまうのでしょうか? 心が弱いからでしょうか。それとも病気のせいでしょうか。実はそうではありません。その理由は、意外にも人類進化の中にあるのです。
私は長年、医師として難病の患者さんを診療しながら、回復力を意味する「レジリエンス」を研究してきました。日本人向けの評価システムを開発する中で、レジリエンスが働くためには、社会とのつながりが大切であることも明らかにしてきました。チームマネジメントなどで注目されている「ダンバー数」というものがあります。今回はこのダンバー数を手掛かりに、病気のときに感じる孤独感の正体と、それを乗り越えるヒントについてご紹介します。
ダンバー数とは何か? 「150人」のコミュニティー内で実感する人生の幸不幸
ダンバー数とは、進化心理学者であるオックスフォード大学名誉教授ロビン・ダンバーが提唱した仮説です。ダンバー先生によれば、人間の脳は、一度に安定した人間関係を維持できる人数に限界があり、その数は150人というのです。150人と聞くと「少なくない?」「本当なの?」と思われるかもしれません。しかしこの数字は、霊長類の脳の大きさと群れの規模との関係、人類進化、さらには現代社会におけるさまざまな集団の調査など、多くの研究をもとに緻密に導き出されたものです。詳しくは、ロビン・ダンバー著『人類進化』(第3章)をご覧ください。
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興味深いのは、私たちが人生のさまざまな出来事を実感するとき、その基準の1つが、この約150人のコミュニティーになっている可能性があることです。恋愛をしたとき、受験に合格したとき、就職や結婚をしたとき、私たちは無意識のうちに、同級生や友人、職場の仲間など、この150人ほどの人間関係の中で自分を位置付けています。
「自分だけ合格した」「友人も結婚した」「同僚が転職した」など、人は他者との比較を通して、自分の出来事を喜んだり、がっかりしたりしているのです。そして、それは病気になったときも同じなのです。
統計的な数字で病気を説明されても、孤独感が解消できない理由
病気や体調不良は決してまれなことではありません。病院に行けば、外来はいつも多くの人であふれています。がんは生涯で2人に1人が発症するという数字も有名です。それでも、体調を崩したり、大きな病気を経験したりすると、周囲の人はみんな楽しく幸せそうなのに……と感じ、「どうして私だけ」という思いに飲みこまれてしまいます。統計では、病気の頻度はしばしば「10万人」当たりで表現されます。かなり大きな数字です。そして「日本では年間約100万人が新たにがんと診断される」といった情報もよく耳にするでしょう。しかし「100万人」といった数字を聞いても、簡単に実感は湧かないものです。なぜかというと、私たちは病気の頻度を「10万人」「100万人」といった統計の数字ではなく、自分が関わる「約150人のコミュニティーの中」で実感しているからと考えられるのです。
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病気のときに感じる孤独感は、心が弱いからではありません。人間は、自分の状況を約150人の身近なコミュニティーを基準にして比較し、判断するように進化してきたからです。孤独感は、人間が社会的な生き物として進化してきた結果として生まれる、ごく自然な感情なのです。
再び前を向くために重要なのもまた「身近な人とのつながり」
ダンバー数の話には続きがあります。人間関係には5人、15人、50人、150人という階層があると考えられています。具体的には「5人」は家族や親友など最も頼れる相手、「15人」は日常的に気持ちを分かち合える親しい友人、「50人」は気軽に付き合える仲間、「150人」は顔と名前が一致し、安定した関係を維持できる限界とされています。孤独感を乗り越える第一歩として、まずは信頼できる「5人」を思い浮かべてください。家族、親友、信頼できる医療者、昔からの友人などから、頼れそうな人がいるのではないでしょうか。そして、その中の1人に、「つらい」という気持ちを共有してみましょう。病気のときに必要なのは、多くの人に囲まれて励まされることではありません。自分の不安を受け止めてくれる、少数の確かなつながりが重要なのです。
まずは順々に、信頼できる5人に気持ちを打ち明けてみてください。すると少しずつ孤独感がやわらいでいき、15人、50人といった社会とのつながりを取り戻していくことができます。「実は私も同じことで悩んでいた」「いつでも連絡してね」と声を掛けてくれる人も現れるかもしれません。
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■出典
人類進化 : 私たちはいかにしてヒトになったか(河出文庫)
ロビン・ダンバー著、鍛原 多惠子訳
萩原 圭祐プロフィール
先端医学と食でレジリエンスを高め、健康寿命と成長を見守る内科医。大阪大学先進融合医学共同研究講座特任教授として先端医学から伝統医学、レジリエンス・ケトン食などの研究活動に携わった後、現在はそれらの社会実装に精力的に取り組んでいる。(文:萩原 圭祐(レジリエンス医学と栄養・代謝ガイド))
