
森下仁志インタビュー@前編
(現・東京ヴェルディヘッドコーチ)
北中米ワールドカップの舞台でインパクトを放った、日本代表の鎌田大地と中村敬斗。ふたりは時期こそ異なるものの、プロ入り当初に同じ監督から指導を受けていた。現在、東京ヴェルディのヘッドコーチを務める森下仁志氏だ。
ふたりに対して、どのように接し、彼らはどのように成長していったのか。そして、彼らのすごさはどこにあるのか──。ふたりの若手時代を、恩師が回顧する。
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── ワールドカップでのふたりのパフォーマンスを、どのようにご覧になりましたか。
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「去年、味スタ(味の素スタジアム)でのブラジル戦を見に行ったんですけど、その時は何か不思議な感じがしましたね。(鎌田)大地と(中村)敬斗が一緒にピッチに立っている姿を見た時は、やっぱり感慨深かったですよ。
彼らが(過去に)苦しい状況にあったことも知っているので、がんばってやり続けてきたことで、ついにワールドカップの舞台にも一緒に立つことができた。それを見て、純粋によかったなと思いました」
── 第2戦のチュニジア戦では、中村選手のアシストから鎌田選手が決めるというシーンもありました。
「彼らが一緒に肩を組んで喜んでいるシーンは、うれしかったと同時に、ちょっと不思議な感覚でもありました」
── 鎌田選手が左足でボールの方向を変えたプレーは、狙っていたと思いますか。
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「もちろん、狙っていたと思いますよ。普通の選手だったら前に入って、足を振りたくなるんですよね。でも、大地は前で触らず、自分の間合いを使って流すことができるんです。
彼は、ボールに触らずにターンができるんですよ。チュニジア戦のゴールもあえて流して、遠いほうの足で押し込んだ。あのプレーは彼の真骨頂ですよ」
── ちなみに大会前や大会後に、ふたりと連絡を取ったりしましたか。
「大会前に、メッセージアプリでやり取りはしましたよ。大地はいつもああいう感じなので、『ありがとうございます』くらいしか返事はないんですけど(笑)。ただ、返事はめちゃめちゃ早い。すぐに返ってきますから。素っ気ない感じなんですが、義理堅い男ですね」
【第一印象は「立ち姿」がいい】
── 中村選手とは?
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「敬斗とは、メンバーに選ばれた時とか、オランダ戦で点を取った時にやり取りはしました。敬斗とは、直接話をしたいと思っています。この大会で彼が感じたことはたくさんあったと思うので、ワールドカップで戦った感想を聞いてみたいですね。彼が感じたことを、僕も指導の現場で少しでも還元できたらと思っています」
── 鎌田選手との出会いは、サガン鳥栖の監督に就任した2015年ですよね。
「そうです。彼が高卒1年目で、チームの始動日に初めて会ったと記憶しています。会うまでは、ほとんど彼のことは知らなかったんですよ。ガンバのジュニアユース出身で、ユースに上がれなかったという情報だけはあって。
今、鹿島(アントラーズ)にいる牛島(真諭)というスカウトが大地を見つけてきたんですけど、大地自身は高校時代、それほど知名度があったわけではないし、ほかのチームの練習に参加してもダメだったという情報も聞いていました。大地はいい意味で脱力しているぶん、周りから見るとやる気があるのかないのか、わからない感じじゃないですか。
だから、そういう雰囲気も含めて、ほかのチームからは評価されにくかった。その意味でも、大地を獲得した鳥栖のスカウトには見る目があったということです」
── 初めてプレーを見た時の印象は?
「とにかく、いい選手だなと。なかでも、立ち姿がいいなと思いましたね。あとは、プレーに自分の間があるんですよ。まだ身体の線は細かったですけど、サイズもあるので、これはいい選手になるなと思いました」
── キャラクター的にはどうでしたか?
「賑やかなタイプでもないし、決して口数も多くはなかったですけど、自分が思っていることはしっかりと主張するタイプでした。
当時、大地はミズノのスパイクを履いていたんですが、自分はナイキを履きたいって、ナイキと契約していた僕に言ってきたんですよ。それでキャンプの時に担当者と会わせたんですけど、まだ高校を卒業する前だったにもかかわらず、自分の思いや考えをしっかりと主張できる選手でしたね」
【ひとりで黙々と自主練する日々】
── 鎌田選手は高卒1年目から試合に出ていましたが、監督としてどのあたりを評価されていたのでしょうか。
「当時の鳥栖は中堅からベテランの選手が多くて、若手は大地だけだったんですね。でも大地の才能を見た時に、彼を生かしたサッカーがしたいと思ったんです。
とはいえ、まだ(身体の)線も細かったし、チームとしても勝ち点を取らなければいけない。そのなかでどう生かせるかを考えながら、起用にはちょっと慎重になった部分もありました。彼からしたら『なんでもっと早く使わねえんだよ』と思っていたかもしれないですけど、結局、デビューまでに開幕から10試合ぐらいかかりました」
── 当初は試合に出られないなかで、監督室に直談判しに来たという話も聞きました。
「よく言われますが、僕自身は覚えてないんですよね。というのも、彼とは本当にふたりでよく話をしていたんです。練習が終わったあととかに、グラウンドの脇のベンチだったり、監督室でも話をしました。だから、直談判とかそういうことではなく、日常的な会話のなかで『試合に出してくれ』という話もあったかもしれません」
── 怒ったことはないのですか。
「あまりなかったと思います。一度、筋トレルームで僕の文句を言っていたのを聞いてしまったんですけど、その時も注意はしても怒ることはなかったですね。
たとえルーキーであっても、プロである以上、試合に使われなければ、何くそって思うわけです。『なんで俺を使わねえんだよ』って言いながら、それでも努力するのが大地のいいところ。彼は午前練習が終わってから、午後もトレーニングするんですよ。大地以上に練習する選手は、本当に見たことないですね」
── ひとりで練習するんですか。
「今でも鮮明に覚えているのが、ボールを20個くらい持ってきて、ハーフラインにボールを置いて、ゴールに向かって、ひたすらドリブルとシュートをやり続ける練習です。しかも、少しも手を抜かず、一つひとつのプレーを全力でやるんです。
おそらく彼は、自分が目指すところから逆算して日々を過ごしていたんでしょう。今日これだけやらなければ、そこにはたどり着けない。それくらいの思いを持って、毎日、自分を追い込んでいましたよ」
【鎌田を中心にゲームプランを考えた】
── 当時から「世界」というものに目を向けていたわけですね。海外志向も強かったのでしょうか。
「大口を叩くタイプではないので、海外に行きたいとは、あまり言ってなかったと思います。ものすごく冷静で、自分の現状を客観的に捉えられる。今の自分では無理だとわかっていたからこそ、そういうことはあまり口にしなかったんでしょう。現状に満足していないから、危機感もあったと思います」
── ルーキーの鎌田選手を起用するにあたって、気をつけたことはありますか。
「もちろん試合に勝たなくてはいけないし、チームを残留させなければいけない。そのなかで大地が生きるのは、スタートからなのか、途中からなのか、まずはそれを考えましたね。逆に言えば、彼を中心にゲームプランを考えていました。
これを言うと、後出しジャンケンと思われてしまいそうですが、僕は彼が生きるのはセンターハーフだと思っていました。自陣のボックス近くで守備をして、そこから前に出ていって、相手のゴール前でも仕事をする。足は速くないですけど、走力もあるので、いろんなことができる選手になるだろうなと」
── 当時はトップ下として起用することが多かったですよね。
「そうですね。やっぱり1年目の頃は、まだまだ守備に課題があったので、なるべく攻撃的な仕事がやりやすい位置で起用しました。ほかの選手に守備はがんばってもらって、大地には攻撃で違いを見せてほしかったんです。彼は組み立てもできますけど、シュートがうまかった。得点という部分に一番期待していました」
── 鎌田選手のプレーで一番、印象に残っているものはありますか。
「アウェーの名古屋(グランパス)戦で、豊田陽平に出したスルーパスですね。アディショナルタイムの決勝ゴールにつながったんですけど、逆を向きながらスルーパスを通したんです。あれはしびれましたね。
デビュー戦も印象深いです。交代直後に、30メートルくらいのスルーパスを通したんです。これはゴールにつながりませんでしたが、その後に自分でゴールを決めてしまった時には驚きました」
(つづく/文中敬称略)
◆森下仁志・中編>>中村敬斗のプロ2年目は「悲壮感」が漂っていた
【profile】
森下仁志(もりした・ひとし)
1972年9月21日生まれ、和歌山県海南市出身。順天堂大学から1995年にガンバ大阪へ加入。豊富な運動量を武器に中盤で活躍し、のちにコンサドーレ札幌、ジュビロ磐田でプレー。2005年限りで現役を引退した。翌2006年からジュビロ磐田のユースコーチ、トップチームコーチを歴任し、2012年に同クラブの監督に就任。その後、京都サンガF.C.のコーチ、監督を経て、サガン鳥栖、ザスパクサツ群馬、ガンバ大阪U-23で監督を務め、ガンバ大阪ユースの監督も歴任した。2024年に東京ヴェルディのコーチに就任し、現在はヘッドコーチを務める。Jリーグ(リーグ戦)通算239試合10得点。ポジション=MF。身長173cm。
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