日米関税交渉の合意から22日で1年。米国と対日関税引き下げの代わりに合意した最大5500億ドル(約89兆円)の対米投融資は、計6件の事業が決まった。金額ベースで進捗(しんちょく)率は約2割。2029年1月までのトランプ米大統領の任期中に投資履行を求められており、他国よりも不利な関税率を課されないよう、案件を積み上げる必要がある。日米両国で戦略物資のサプライチェーン(供給網)強化を目指すが、収益性の確保が容易ではない分野もあり、損失回避が課題となる。
◇次世代原子炉や人工ダイヤ
「日米の相互利益の促進、経済安全保障の確保、経済成長の促進につながるプロジェクトの組成に努めていきたい」。赤沢亮正経済産業相は14日の閣議後記者会見で、自らワシントンに乗り込み、約3カ月にわたる関税交渉で合意にこぎ着けた意義を強調した。
合意後、日米両政府は投資案件の組成を急いだ。第1陣は計約360億ドル、第2陣は最大約730億ドルでそれぞれ3件。人工ダイヤモンドの製造や米国産原油の輸出インフラ、人工知能(AI)データセンター向けの電力需要の拡大に対応したガス火力発電、次世代原子炉「小型モジュール炉(SMR)」建設などの事業が並ぶ。
第1陣では資金調達も動き始め、国際協力銀行(JBIC)や民間銀行が約22億ドルの協調融資契約を締結。日本貿易保険(NEXI)が民間融資に保証を付けた。第2陣はトランプ氏による正式決定はまだだが、「迅速に進める姿勢は変わらない」(関係者)という。原発建設の許認可などの協議が続いている。
対米投融資で海外に巨費を投じることへの批判は絶えない。案件の選定は米国が主導権を握る。事業が失敗すれば、JBICやNEXIが損失をかぶり、最終的に国民負担につながる。赤沢氏は「事業に参加することで自らの技術を磨き、危機管理投資・成長投資を行い、強い経済をつくっていく」と日本側のメリットを説明する。
◇残るトランプ・リスク
自動車や半導体の部材加工に使われる人工ダイヤの生産体制構築は、世界シェアの9割を握る中国への依存度を低減できる。原油輸出インフラの整備は、日本のエネルギー安定供給の確保につながる。
外交筋によると、電力関連などへの投資は「米国の規制産業に、日本企業が参画しやすくなる」という。外務省幹部は「(関税合意が)重要鉱物やAIでの日米協力の基盤となった」と語る。
対米投融資には日米が連携し、戦略物資のサプライチェーンの「脱中国」を進める狙いがある。ただ、トランプ氏は5月の習近平中国国家主席との会談で、双方の関税引き下げを議論する貿易委員会の設置を決めるなど、対立の緩和に動いている。9月には習氏が訪米し、再度の首脳会談を開く予定で、日本の頭越しに米中が急接近すれば、「対米投融資の意義を問われかねない」(日本政府関係者)との緊張感が漂っている。