企業や業種の垣根を越えるコミュニティ「印刷女子」が提示する、“推し”から始まる新しい価値創造と印刷ビジネスの可能性

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2026年07月20日 06:10  ITmedia PC USER

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「印刷女子 夏の勉強&交流会 in 東京」の参加メンバー

 コンシューマー向けであれビジネス用途であれ、プリンタや複合機などの印刷機器分野では、スペック競争が一段落し、市場ニーズの変動などの余波を大きく受けている。そういった状況を受け、ユーザーの課題解決や新たな「コト」の創出へと業界全体がシフトを模索する中、企業や業種の垣根を越えて集い、印刷の新たな価値を探求するコミュニティが存在する。


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 7月10日に開催された「印刷女子 夏の勉強&交流会 in 東京」(以下、印刷女子交流会)は、まさにそのようなコミュニティの交流会だ。


 印刷女子交流会では、午前中に特殊印刷加工の素材メーカーである村田金箔の工場見学を行い、午後からはエプソン販売の体験型ソリューションセンター「Epson XaILab(エプソン サイラボ)」で、同社が展開するソリューションの見学やワークショップ、交流会といったプログラムを実施した。


 ここでは、印刷業界やPC周辺機器業界に新たな風を吹き込むこれらの活動と、その背景についてお届けしよう。


●そもそも印刷女子とは?


 「印刷女子」(Girls Who Print Japan)は、印刷業界で働く、あるいは印刷業界に関心を寄せる女性たちによる「印刷業界の女性ネットワーキング・グループ」だ。主な活動は、このような交流会の他に、勉強会や業界課題についての研究会実施、または情報発信となっている。


 母体となる「Girls Who Print」(GWP。略した際に「ガウプ」と呼ぶこともある)は、2009年に米国で設立され、現在では世界最大となる1万1千人以上のメンバーを抱えるNPO法人として活動を展開している。欧州やカナダ、インド、アフリカにも組織が存在する。


 国内では、2024年に開催された国際印刷機材展「drupa」での米国関係者との交流を機に発足の準備が進められ、同年11月に第1回ミーティングを実施して本格始動した。以降、「刷って、語って、つながって」をキーワードに、交流イベントや勉強会を定期的に開催している。


 ミッションは「出会い・学び・共感を通じた支援的コミュニティの構築」、ビジョンは「多様なステークホルダーとの連携による持続可能な業界の未来創造」というものだ。


 力仕事や重労働と思われがちなことから印刷業界で働く女性が少なく、従事する女性たちは孤立しがちだという。印刷女子交流会は、さまざまな企業や職種、立場や年齢の人に参加を促すことで、仕事への深い満足感ややりがいを得てもらい、印刷の魅力を業界内外へ発信することを目的としている。


●大企業から学生まで――業界のバリューチェーンを網羅する参加者の熱気


 筆者が参加したのは、Epson XaILabに会場を移した午後の部からだ。午前中の村田金箔の工場見学を終えた参加者たちは、熱気が冷めやらぬ面持ちで会場へ集まってきた。


 Epson XaILabでのプログラムは、自己紹介、印刷女子(GWPj)の活動報告、Epson XaILab見学、ワークショップの4本立てだ。


 印刷女子交流会は、四半期ごとに開催されてきたが、前回のタイミングはスキップとなったため、約半年ぶりの開催だという。8回目となる本イベントには、50名を超える参加者が集まり、過去最大規模の開催となった。


 イベントの前半は1人1分という持ち時間での自己紹介タイムにあてられ、参加者全員のプロフィールを聞くことができた。


 その中で分かったのは、参加者の属性が極めて多岐にわたるということだ。企業でいえば、エプソングループ各社、キヤノン、リコー、日本HP、京セラドキュメントソリューションズジャパン、小森コーポレーションといったPC周辺機器や印刷機の大企業から独自の技術を持つ中小印刷会社、業界メディアまでが参加していた。さらに、専門職大学やデジタルハリウッド大学などの学生の参加も見られた。


 年齢や立場で見ると、新入社員、入社2年目という人から10代や20代の学生、そして経営を担うベテラン層まで幅広い層が参加した。


 職種では商品企画、マーケティング、広報、システム営業、ソフトウェア開発設計、印刷オペレーター、さらには異業種からの転職者など、業界のあらゆるバリューチェーンを網羅する構成となっており、印刷女子コミュニティの懐の深さを垣間見た気がした。


●企業や立場の垣根を越えて――新しい気付きを生み出す「越境」の場


 開会にあたり、事務局メンバーのリコー 小林可奈さんと、全日本印刷工業組合連合会の関野里美さんが、オープニングのあいさつを行った。


 小林さんは、印刷女子コミュニティについて「出会いや学び、共感のようなつながりを“力”に変えて、自分らしさの発見や持続可能な業界の未来創造、そして印刷業界をさらに外に開かれたものにして魅力を発信していくことを目的としている」と解説した。


 「今日、お集まりの皆さんを見て分かるように、幅広い方に参加してもらえるのが特徴となっているし活動の歴史になっている。参加者からは、日常業務では接点を持たない異業種や異職種の人たちとの出会いがあり、新しい気付きや考え方に出会えたこと、また未来について前向きにディスカッションできたという声もいただけた。本交流会で、1つでも新しい気付きや出会いを持ち帰ってもらえればうれしい」(小林さん)


 実家も印刷業を営んでいたという関野さんは、「印刷産業は、歴史上最も古い産業の1つだと思う」と語ってから、「企業という垣根を超えて交流を楽しんでもらいたい」と会の目的を語った。


●Epson XaILabツアーで多彩なプリント技術と環境配慮への取り組みを学ぶ


 自己紹介タイム後に行われたのは、会場となった場でもあるEpson XaILabツアーだ。


 印刷に関連したソリューションでは、コンシューマー向けインクジェットプリンタだけでなく、写真作品を高品質に、しかも大判で印刷できるプリンタの紹介や、販促グッズの受注ができそうなUVインクプリンタや昇華転写プリンタ、また布に直接印刷して素材のムダを省けるガーメントプリンタなどが紹介された。


 エプソンが、オフィス向け複合機にインクジェット方式を“推している”のは、省エネだからだ。実際に同じ内容のものを同時に印刷したところ、レーザープリンタで出力したものが熱を帯びているのに対し、インクジェットプリンタによるものは冷たいままであった。余分な熱を発生させていない、つまり電力を消費していないということの分かるデモンストレーションだ。


 また、社内で出た紙をリサイクルして再生紙にする「PaperLab」の実機も展示されていた。背の低いロッカー程度のサイズで、裁断した紙から再生紙を作るという仕組みに、参加者たちは感嘆の声を上げていた。


●「推しポイント」の共有が企画の種に!? “好き”から広がる印刷の世界


 プログラム後半に行われたのは、「刷って、語って、つながって。」という、印刷女子のキーワードそのままテーマにしたワークショップだ。


 参加者は事前に「印刷の“魅力/楽しさ”を体現している」と考える印刷サンプルを持参し、その魅力や推しのポイントを、8つに分かれたテーブル(グループ)ごとに他の参加者へ向けてプレゼンテーションを行う。


 その後、テーブルごとにアイテムを1つ選定し、その印刷物が持つ特性を生かして、どのように新たな価値や企画へと発展させられるかをディスカッションし、まとまったアイデアをワークショップの最後に発表するというものだ。


 時間の都合上、3グループからの発表しか聞くことができなかったが、同人誌文化の発展についてのものは、かなり興味深かった。


 というのも、昔から人気のあるBLジャンルの同人誌は、国によって国内で流通できないため、わざわざ大規模同人即売会の時期に合わせて来日して購入し、その国へ持ち込むということがなされており、同人誌文化や同人誌即売会は他国でも広がりを見せている。


 しかし、「全員が参加者」という日本独自のルールやマナーが保たれた文化は特異なものであり、他国から高い関心が寄せられている。「同人誌文化だけでなく、マナーを守るという素晴らしい文化も世界へ広げていきたい」と、発表は締めくくられた。


 その他、100円ショップのクリスタルプレートと家庭用プリンタを組み合わせた推し活グッズ、活版印刷のプレスによる凹凸がもたらす触覚へのアプローチなど推したい印刷物は多岐にわたった。


 司会者から「推し」や「推しポイント」という言葉が出るたびに、「何を言っているのだろうか」と、想像もつかなかったのだが、印刷を中心に世界が広がっていくのを感じることができた。


●なぜ「女性」コミュニティなのか? 業界の課題と実践的な学びの場


 印刷業界やPC周辺機器メーカーの製造現場、開発部門、営業部門は、現在も男性比率が高い職場が多い。そのため、女性がキャリアモデルを描きにくく、孤立しやすいという構造的な課題がある。


 また、女性同士であればフラットに本音を語り合えるというメリットもある。本会は、女性同士が率直に働き方やキャリア形成について語り合い、学び合うための実践的な場となっているのだ。


 同時に、印刷事業自体はデザインや物作りと親和性が高く、産業という分野であるにもかかわらず、女性の起業や独立に適した領域でもある。


 どの業界であれ、大量生産から多様な顧客ニーズへの対応に移行しているが、男性が「モノ」を重視するのに対し、女性は「コト」に気を配る傾向にあり、女性の場合、求められている品質や効率化以外の部分――生活者視点に立った企画力やコミュニケーション力を発揮しやすいという。


 女性の持つ“コト作り”の発想を取り入れることが、既存の事業領域を拡張し、業界全体の閉塞感を打破するための重要な鍵というわけだ。


●ライバル企業同士が手を取り合う事務局 「ビジネスライクじゃない」交流の真意


 イベント終了後、リコー、日本HP、SCREENグラフィック、全日本印刷工業組合連合会、キーポイントインテリジェンスの有志などで構成される事務局メンバーに対し、メディア合同の取材が行われた。


 いわば、業界内ではライバル関係にある皆さんが事務局を運営している形だ。


 本イベントの成果について、事務局は「つながり、学び合い、共感し合えるコミュニティの形成」という目的に対し、50名超という規模で多様な立場の参加者が活発に意見交換を行った点を高く評価した。新入社員からベテラン経営者までが対等にコミュニケーションを図り、仕事の枠を超えたつながりが生まれつつあることが確認された。


 異なる企業からの有志が集まったことで、何かしらのシナジーが生まれたのか、という点について質問したところ、「問題解決にフォーカスするなど、ビジネスライクな交流ではない」ということが回答の中で強調された。


 例えば、関野さんは「自分たちの印刷工場をメーカーの人が訪問するということがあった。印刷現場で『自分たちの機械が動いている』というのを目にして感動していた。仕事へのモチベーションが高まったのではないか」と語った。


 キーポイントインテリジェンス 清水祐介さんは、「立場が違えば、見えている問題点も違う。そのような人たちが交流してつながることで、シナジーは生まれるのかもしれないが、それを急いでいるわけではない。可能性があるなら大切にしたいね、というスタンスだ」と回答した。


 日本HPの永嶋ゆりさんも「仕事以外の接点がなかったが、事務局に参加することで同じような仕事をしているはずなのに、視点も環境も全く異なることに気付けた。このような経験が次につながるのではないか」と述べていた。


 現在、300人ほどがメールマガジン会員として登録しており、交流会への参加者も(今回を含めず)延べ250人となったが、今後は業界外に向けて魅力の発信を強化していきたいという抱負が語られた。


 ハードウェアだけの差別化が難しくなっている今だからこそ、印刷物を介したコミュニケーションや共創の場を提供する「印刷女子」の活動は、印刷業界のみならず、PCやその周辺機器業界が次のステップへ進むための1つの道標になるのではないかと感じられた。



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