写真 ADHDに算数障害(数字、計算に困難を抱える学習障害)、双極性障害といった、生きづらさを抱えていた私。そんな私が2025年の夏、母になった。生きづらさはあるけれど、夫や行政の助けを借りて明るく育児をできている。
生きづらさを抱えたまま母になった人にインタビューしていくこの連載で今回話を聞いたのは、大きなポケットが付いたワンピースや体のラインを綺麗に見せるコルセットなど、女性の悩みを解決するアパレルとコルセットをECサイト『Pinup Closet』で展開する株式会社Alyoの取締役社長・元鈴木こと大橋茉莉花さん(38歳・@Motosuzukisan)。
前編では虐待サバイバーとしての過去や発達障害特性の困りごとなどを聞いた。後編ではより深く、育児についてインタビューをした。
◆まっとうな愛情を知っている夫とだから育児をできる
――虐待サバイバーの方は自分が適切な育児をされていないので、我が子の育て方がわからないと感じたり、家族というものに安心感をなかなか得られなかったりすることがあると聞きます。
元鈴木さん:私がそうならなかったのは、やはり、きちんとした愛情を知っている夫がいたというのが一番大きいです。夫と2人でいた時間で愛情についてたくさん学ばせてもらいました。育て直すかの如く、夫は忍耐強く私に愛情を教えてくれたと思います。良きパートナーに出会えてとてもラッキーだったと思います。
――虐待サバイバーという苦しさを抱えながら自分が親になるというのはどんな気持ちでしたか?
元鈴木さん:私、自分の親のせいで自分が親になることをあきらめたら損だと思ったんです。生きることを諦めようか悩んだ時と同じように、人生の大きな決断の理由が他者にあるなんて理不尽だと感じました。じゃあちゃんと育てられるのか? と思ったとき、私はまっとうな愛を知っている夫から学んできたから大丈夫だと。
でも、娘と接していてどうしても感情がいっぱいいっぱいになってしまったときは、夫に娘を頼んで自室でクールダウンすることもあります。そして、「さっきは怒ってごめんね、ママがいけなかった」みたいにめっちゃ謝ります。親が完璧な存在ではないことも子どもには教えたいので。
――元鈴木さんのご両親は謝ってくれなかったんですか?
元鈴木さん:謝らなかったです。彼らは自分を律して生きていなかったと思うので、私は自分を顧みることを続けています。親は最高の反面教師です。なので、誰に対しても「ありがとう」と「ごめんなさい」は言いますね。
――妊活や不妊治療をされた末の妊娠ですか?
元鈴木さん:1年半くらい、妊活をしました。そんなにすぐできるものではないとそのとき思いました。妊活中、高度異形成(子宮頸がんになる一歩手前の病変)で、円錐切除術を受けたんです。その直後に妊娠がわかったので、こいつは耐え抜いた立派な受精卵だと思いました。でも、8か月の早産になってしまったのですが。
――早産だと産後の不安も大きかったのではないですか?
元鈴木さん:1000gほどで生まれたので、こんなに小さく産んでしまって申し訳ないと、初めて抱っこしたときは泣いてしまいました。そして、重度の産後うつになってしまったので、「可愛い、可愛い」と言って育ててあげられなかったことはすごく後悔しています。
◆女性が生きやすくなる服を作ったのは父親の影響
――今はご両親とはどんな関係ですか?
元鈴木さん:必要なときは会っています。先日、施設に入っている祖母がもう先が長くないと言われ、娘を連れて会いに行ったときは母も一緒でしたが、そういうときにしか会わないですね。父には何年も会っていませんし、子どもを見せてすらいないです。
――前編ではお父さんから「女は勉強なんてするな」と言われたと語っていました。元鈴木さんは今、女性がより良く生きられるようになる服を作っていますよね。女性が生きやすくなる服を作ろうと思ったのは、ご自身が育ってきた家庭環境の影響も大きいのでしょうか?
元鈴木さん:思えばそこに行き着くのかなと思います。女性だけ服のポケットが小さいとか不平等ですよね。ならば、男性と同じものをつけようと思ったのですが、それも少し違うな、誰もが羨むデカいポケットをつけちゃえ!という感じでした。
――女性向けの商品なのに、元鈴木さんが作るものや作ろうとしているものにSNS上で文句を言う男性もいますよね。
元鈴木さん:うちの父親と重なる点がたくさんあります。「俺が上だぞ」という姿勢が基本で、建設的な会話が一切できない。そういった男性が私にリプライをくださると、まるで実家に帰ったような気持ちになります(笑)。
◆主体性を持ち、人に迷惑をかけなければあとは自由でいい
――元鈴木さんはワーキングマザーとしてどんな日常生活を送っているのですか?
元鈴木さん:華やかな生活を送っていると思われがちなのですが、ほとんどが会社と家の往復です。娘は性格が私にそっくりです。娘は生まれつき車椅子ユーザーなのですが、最近少しずつ歩けるようになってきました。
――元鈴木さん宅の子育て方針などはありますか?
元鈴木さん:主体性を持ってくれて、人に迷惑をかけなければ、あとは自由にしてくれていいかなという方針です。お箸の持ち方やマナーなどは教えますが、勉強しまくって天才になれよ、みたいなことはまったく思っていません。
あとは私が経営する上で数字が苦手で苦労したので、数字と英語だけ勉強してね、と。私は英語を勉強したおかげで今があるので。英語を勉強しないと……外貨が稼げませんから。
――元鈴木さんはアパレルブランドを経営していて流行に敏感ですし、「娘にはこんな服を着てほしい、こんな服を着てほしくない」と思ったりしますか?
元鈴木さん:娘に着てほしくない服やファッションは特にないですね。本人の意思を尊重したいし、成人したら何を着たっていいと思います。さすがにお尻の谷間が見えるようなファッションが流行ってそれを着たいと言ったら考えてしまいますが……。
娘は最近ギャルになりたいと言っているので、「どの服がギャルっぽいかな?」と言いながら買いに行ったりはしますね。最近は食べ物柄やフリフリの服も好きだと言っています。この間はちいかわのワンピースを買いました。
でも、残念ながら女性の車椅子ユーザーというだけで弱そうに見えて痴漢などの標的にされてしまうこともあるので、強めなファッションをしてくれたら嬉しいです。
年頃の娘にブラジャーを買わない親もいますよね。私の会社ではコルセットも作っているのですが、「親に見られないようにコルセットを付けます」と言っている若い女性がいました。「えっ? どういうことですか?」と聞くと、「親に知られたら女を出していると嫌がられる」と。子どもの肉体的な面も含めた成長を認められない親もいるのだと知りました。うちでは時期が来たら、一緒に選んであげようと思っています。
◆完璧でなくても支え合って暮らしていける
――仕事やプライベートにおいて、元鈴木さんの今後の目標を教えてください。
元鈴木さん:仕事では、Made in Japanでコルセットを作ったり、厳しい日本規格のアパレルを展開しているので海外での販路を増やしたいです。現地の小売店やパートナー企業さんともご縁が欲しいですね。
プライベートでは、夫が多忙になり今度は私が以前よりも子どもの生活にコミットすることになってきたので、チームらしく家族を回していきたい。3人で生活をもっと楽しくしたいです!
――生きづらさを抱えたままお母さんになった方や、なろうとしている方へ向けてメッセージをお願いします。
元鈴木さん:若い女性経営者と話すと、いつ産もうか勇気が出ないと皆様言います。当たり前ですよね。事業抱えて乳飲み子抱えるのは、間違いなく苦行です。実際私も産後うつになるくらいにはしんどかったですが、苦難を前にした時にどんな決断を下すかが大切なんだと思います。
私は、育児と事業のプレッシャーから産後うつになった時、このままでは私のせいで家族の笑顔が減ってしまう…と考えたことも大手企業の傘下に入った経緯としてありました。つまり、大小あれどいつだって家族の未来を担う選択権があなたにはあるということ。それを行使するもしないもあなた次第ということです。
保護者としての責任を持ち、人生で何を大切にしたいか考えて、自分で決定すること。これができるなら、完璧でなくても子どもや、いるならば夫とお互い支え合って暮らすことができる。私はそう信じてます。
【大橋茉莉花】
1988年生まれ。獨協大学外国語学部を卒業後、アルバイトなどしながら日銭を稼ぐ日々をへて、26歳でイベントコンパニオンに転身。ウェブの美容ライターとして書いたコルセットに関する記事をきっかけに29歳の時にAlyoを設立。ECサイト『Pinup Closet』でコルセットブランド『Enchanted Corset』、アパレルブランド『CINEMATIQ』などを運営
<取材・文/姫野桂 撮影/山川修一>
【姫野桂】
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei