人生最大の買い物なのに……なぜSNSで中古マンションを買う人が増えているのか

2

2026年07月23日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

SNS経由で家を買う人が増えている

 服やコスメをSNSを通して購入する。当たり前になった消費行動の波が今、人生最大の買い物である「家」にも及んでいる。SNSで見つけた物件をLINEで内見予約し、数千万円のマンションを購入する──。


【その他の画像】


 ポータルサイトで探し、店舗を訪ねるのではなく、なぜSNS経由で家を買う人が増えているのか。SNS不動産サービスを展開するファンズ不動産(東京都渋谷区)に話を聞いた。


 路面店を持たないファンズ不動産は、設立から2年8カ月で取扱件数が累計500件を超えた。同社は「キュレーター」と呼ばれる12人のインフルエンサーと提携し、キュレーターがInstagramなどで物件を紹介。興味を持った人がファンズ不動産主催の内覧会に足を運ぶという流れだ。


 内覧会に集まる30〜50人のうち、実際に家の購入に至るのは1人程度だが、残る人は家探しを続ける見込み客としてLINEに登録する。その数は2万人に達し、次の成約を生む母数になっている。


 事業の原点は、親会社の金融サービス「ファンズ」にある。個人が上場企業などに融資するサービスで、SNSを活用して累計約1500億円を集めた。「金融商品が売れるなら、他の商材もSNSで売れると考えた」と、代表の藤田雄一郎氏は語る。


 あるインスタグラマーとの会話もきっかけとなった。不動産好きの彼のもとには、フォロワーから毎月数十件の相談があり、試しにSNSで物件を紹介したところ、内見の申し込みが相次いだ。ファンズ不動産は反響の大きさに手応えを感じ、2023年に子会社として事業を立ち上げた。


●「顕在客」しか取れなかった不動産業


 ファンズ不動産が支持を集める理由の一つが、顧客との接点の作り方だ。キュレーターが日ごろから不動産に関する情報を発信して、物件の紹介にとどまらず、家の買い方や地域ごとの坪単価、購入時の注意点など、家探しに役立つ情報も発信している。


 フォロワーは発信に触れるうちに知識を蓄え、「そろそろ家を」と考えたタイミングでファンズ不動産に問い合わせる。家を買おうと思ったときに真っ先に思い出してもらえる点が、同社の強みといえる。


 ポータルサイトや店舗で顧客を待つ従来のスタイルでは、自ら探し始めた顕在層しか取り込めないが、SNSを使えば、まだ購入意欲が固まっていない潜在層にも日常的にアプローチできる。「従来の不動産業は、ニーズが顕在化しないと顧客と接点を持てなかった」(藤田氏)


 事業が伸びる背景には、都心マンションの価格高騰もある。新築価格の上昇で購入ハードルが上がり、中古マンションを選ぶ人が増えた。


 同社のサービス利用者は30代が55.7%を占め、20代(26.6%)と合わせて80%を超え、大企業の会社員や士業、共働きの「パワーカップル」が目立つという。家族構成で見ると、DINKs(共働きで子どものいない夫婦)などの2人世帯(33.3%)が最も多く、単身世帯(29.9%)が続く。


 平均販売価格は約7300万円、平均築年数は28年で、藤田氏は「終の住みかとして購入する人は少なく、家族構成の変化に合わせて売却・住み替える『半分は投資、半分は住まい』という発想で選ぶ人が目立つ」と語る。


●デメリットも隠さず発信する理由


 信頼を得るための工夫もある。提携する発信者を「インフルエンサー」ではなく「キュレーター」と呼ぶのもその一つで、注目を集めるための過激な発信ではなく、フォロワーに合った物件情報を届ける役割を担ってもらう狙いがある。


 ファンズ不動産は「この物件を紹介してほしい」と依頼するものの、実際に紹介するかどうかの判断はキュレーターに委ねている。良いと思えば紹介し、そうでなければ紹介しない。紹介する際には物件のデメリットも隠さず伝えてもらうという。「いい情報だけ届けてしまうと、宣伝っぽく見えてしまう」(藤田氏)


 良い点も悪い点もフラットに伝えることで、発信の信頼性が高まり、キュレーター自身の信用も積み上がっていく。人生最大の買い物をSNS経由で決断できるのは、この第三者性が担保されているからだ。


 また、発信の裏側では、コンプライアンス体制も確立している。金融事業を営む親会社のファンズで培った仕組みを引き継ぎ、社内には弁護士やコンプライアンス専任のチームが在籍し、物件情報を発信する前に必ずチェックを通している。


 同社の顧客開拓は、SNSと紹介がほぼすべてを占める。それだけに、不誠実な対応や問題のある物件を紹介してしまうと、ビジネス上のダメージが大きい。杜撰(ずさん)な対応をすれば、SNSで悪評が拡散する恐れがあり、キュレーターの信用まで傷つける。顧客に誠実に向き合うことは同社の方針であると同時に、収益を守る仕組みにもなっている。


●広告費を「キュレーター」に回す


 収益の柱は、成約時に受け取る仲介手数料だ。キュレーターへの報酬は、この手数料の一部を還元する成果報酬型で、成約しなければ費用は生じない。一般的な不動産会社がポータルサイトへの広告掲載に使う費用を、ファンズ不動産はキュレーターへの報酬に充てている。


 同社は行動指針に「エモーションドリブン」を掲げ、顧客の心をどれだけ動かせたかを評価に組み込んでいる。家を買った客から手紙や菓子が届くことも多く、購入後にイベントに招待することもある。購入後も顧客との関係を続け、「売って終わり」にしない姿勢が、次の紹介につながっている。


 ファンズ不動産のビジネスモデルは、一見すると模倣しやすそうに見えるが、実際は簡単ではない。自社で情報を発信するだけでは単なる広告になってしまう。信頼できて知識のあるインフルエンサーを見つけ、関係を築くのは難しい。さらに、発信内容のチェックも欠かせない。


 一般的に横型が多い物件概要書(マイソク)を、スマートフォンで見やすい縦型にしたのも、SNSを起点に集客する同社ならではの工夫だ。「真似しやすい事業に思われるが、裏側ではいろいろな仕組みや文脈がある」と藤田氏は語る。


●広がる裾野と、問われる規律


 順調に事業が拡大する中、藤田氏は採用を最重要の課題に挙げる。また、信頼して発信を任せられる人材は限られるため、キュレーターも簡単には増やせない。そのため、事業拡大のスピードは、自ずと制約を受けやすい。


 加えて、模倣するプレーヤーが増え、過激な投稿が目立つようになれば、「SNS不動産」全体が同じ色で見られかねない。藤田氏は、自主規制団体の設立も視野に入れている。


 それでも、ファンズ不動産が描く先は広い。同社で家を買う人の約半数は、親会社ファンズの投資ユーザーでもあるという。金融と不動産の融合について、藤田氏は「将来的には自分たちで保有する不動産を小口化し、個人が少額から投資できるプラットフォームをつくりたい」と語る。


 SNSが家探しの入口として定着するのか。その行方は、後に続く企業が信頼をどう築き、守るかにもかかっていそうだ。


(カワブチカズキ)



このニュースに関するつぶやき

  • 土地に根をはってない分ドロンしやすいので、よりいっそうの信用商売
    • イイネ!0
    • コメント 1件

つぶやき一覧へ(2件)

前日のランキングへ

ニュース設定