
箱根路を沸かせた韋駄天たちの足跡
連載19:寺田夏生(國學院大/2011〜2014年)
いまや正月の風物詩とも言える国民的行事となった東京箱根間往復大学駅伝競走(通称・箱根駅伝)。往路107.5km、復路109.6kmの総距離217.1kmを各校10人のランナーがつなぐタスキリレーは、走者の数だけさまざまなドラマを生み出す。
すでに100回を超える歴史のなか、時代を超えて生き続けるランナーたちに焦点を当てる本連載。第19回は、1年時の10区で箱根路の歴史に残るドラマを生んだ國學院大の寺田夏生を紹介する。
連載・箱根駅伝名ランナー列伝リスト
【コースを間違えたことで芽生えた責任感】
近年は学生駅伝の「主役」となっている國學院大。その転機となったのが、2011年の箱根駅伝だった。
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伝説の事件が起きた。フィニッシュの直後、1年生アンカーから「危ねえ〜」という声が漏れる......。ゴール直前にコース間違いを犯しながら、寺田夏生は城西大をかわして、歓喜の輪に加わったのだ。
「先輩たちからは『いいとこどりだな』と言われました。でも、あれでシードを獲れなかったら、帰ってこられなかったと思います(笑)」
この年、國學院大が初めて箱根のシード権を獲得した。5回目の出場での好結果だった。
その象徴的な存在となった寺田は長崎・諫早高の出身で、全国高校駅伝に3年連続で出場している。高校時代の5000mベストは2009年度の高校ランキング72位の14分24秒25だった。箱根駅伝予選会で3年連続の15位に終わったチームに進学すると、國學院大が"強豪"となる礎を築いていくことになる。
1年時は箱根駅伝予選会で個人73位(チーム7番目)に入り、2位通過に貢献。チームとって4年ぶりとなる晴れ舞台では、当日変更で最終10区を託された。
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鶴見中継所を11位で出発すると、その後は日本体育大、青山学院大、城西大と激しいシード権争いを展開した。残り1kmを切っても集団は崩れない。
天国か、地獄か。4校によるシード権争いで、1校だけが次大会の予選会に回ることになるサバイバルレースで最初に仕掛けたのが、唯一の1年生だった寺田だ。
残り500m付近でスパートをかけて、単独8位に浮上する。しかし、前方の中継車についていくかたちで、ゴールまで残り120m地点の交差点を右折してしまう。慌ててコースに戻ったときには、ほかの3人が前を走っていた。それでも城西大を抜き返して、総合10位でゴールテープに駆け込んだ。
その1年時のインパクトがあまりにも強烈だったが、寺田は4年間、國學院大の中心選手として活躍した選手であることを忘れてはならない。特に箱根駅伝では頼りになる存在だった。
「コースを間違えたことで注目されるようになり、それなりの走りをしないといけないなという気持ちが強くなりました。練習に対する意識が変わったんです」
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【主力を担い2区と5区でも奮闘】
2年時はチームの主力となり、初出場となった出雲駅伝は最終6区を区間8位と好走。箱根駅伝は自ら志願して当時最長区間だった5区に向かった。
「5区は順位が大きく入れ替わる区間です。今回は絶対にコースは間違えません。シード権が"たまたま"でないことを証明して、昨年のチームを超えたいです!」
前年、大手町でドラマを作った男が、今度は大混戦の「山上り」を熱くした。13位でタスキを受け取ると、23.4kmを1時間21分06秒(区間5位)で走破。4人を抜き去り、往路9位のゴールに飛び込んだ。
寺田の快走で波に乗ったチームは復路も安定した継走を見せ、総合10位でフィニッシュ。「今回は実力でシード権を獲得することができたと思います。4年生が抜けると戦力的にダウンするので、今年以上の結果を残せるように頑張りたいです」と寺田は笑顔で話していた。2年連続のシード権を獲得して、國學院大は箱根駅伝におけるチームの"格"を押し上げた。
3年時は出雲駅伝の1区を区間6位と好走。トラックの10000mでは28分台を2度マークした。箱根駅伝は2年連続の5区を予定していたが、2区候補だった中山翔平が座骨神経痛のために7区に回り、寺田が2区にスライドした。
1区は19位スタートとなり、前のチームが1分08秒先にいる状況で、寺田は奮起した。区間15位ながら、2チームを抜き去った。しかし、チームは総合14位に終わり、3年連続シード権獲得はならなかった。
4年時は箱根駅伝予選会をチームトップ(個人13位)の走りで5位通過に貢献すると、最後の箱根駅伝は再び花の2区に出走した。
またしても18位でタスキを受ける苦しい展開で登場したが、区間7位(1時間10分28秒)と激走。18位から14位まで順位を押し上げた。しかし、チームは総合17位に終わり、寺田は主将として責任を感じていた。
「チーム一丸となって戦っていこうという雰囲気はありましたが、他大学が何倍も強かった。自分は箱根駅伝でよいことも悪いことも経験したおかげで、大きく成長できました。だから、後輩たちも今回の経験をバネにきっとやってくれると思います」
寺田が卒業後、母校はどんどん強くなっていく。2019年に出雲駅伝で初優勝を飾ると、2024年には出雲駅伝と全日本大学駅伝の2冠を達成した。その後も箱根総合優勝を成し遂げるべく、戦力を整えている。
一方の寺田は大学卒業後、JR東日本に入社し、2020年の福岡国際マラソンで3位(2時間08分03秒)に入るなど活躍。現在は皇學館大駅伝競走部の監督として指導者の道を歩んでいる。
●Profile
寺田夏生(てらだ・なつき)/1991年8月30日生まれ、長崎県出身。諫早高(長崎)―國學院大―JR東日本。高校時代は3年連続で全国高校駅伝に出場。大学1年時に箱根駅伝10区を任され、激しいシード争いのなか、コース間違いをするも、チーム史上初のシード権獲得となるフィニッシュテープを切った。その後もチームの主力として活躍し、箱根では2年時は5区、3、4年時は2区を任された。実業団でも駅伝、マラソンなどで競技継続し、2023年に現役を退いた。現在は皇學館大で駅伝競走部監督として指導にあたり、就任1年目の2024年には全日本大学駅伝出場を果たしている。
【箱根駅伝成績】
2011年(1年)10区11位・1時間11分44秒
2012年(2年)5区5位・1時間21分06秒
2013年(3年)2区15位・1時間12分39秒
2014年(4年)2区7位・1時間10分28秒

