「タイパ就活」で早期離職の懸念も…“AI志望動機”より手間暇かかる“対面面接”選んだロート製薬、100時間の効率化に成功

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2026年07月29日 09:10  オリコンニュース

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AIで効率化する就活に一石(画像はイメージ)
 ChatGPT等の活用で量産されたES(エントリーシート)を企業がAIで機械的に足切りする…そんな就活の“自動化”によるミスマッチや早期離職が課題の昨今。ロート製薬が打ち出した「書類選考の廃止」が大きな話題となった。全国8拠点で、応募者と最初から“対面”で面接する異例の施策だ。一見、タイパ至上主義に逆行する面倒事にも思えるが、これが意外な効果を生み出したという。採用の本質を問う、就活のリアルな実態に迫った。

【写真】書類選考ナシでいきなり対面面接?「Entry Meet」の様子

■学生も企業もAIで進む就活の効率化、“理解不足”がミスマッチにつながる

 就活を成功させるための最初の関門となるのがES(エントリーシート)だ。最近の学生たちは、選考を突破する秘訣を求めてChatGPTなどの生成AIを最大限に活用。これにより“最適化された志望動機”を短時間で作れるようになった。さらに、ESをWebで受け付ける企業が増えたことで手軽にエントリーが可能になり、就活のデジタル化は今や当たり前となっている。

 一方、人手不足に悩む企業側も事態は深刻だ。インターンシップの実施、内定者のフォローなど、採用に関する業務は多岐に渡る。それにより、初期段階の大量の応募をスクリーニングすることに時間がかけられなくなり、AIに頼らざるを得ない状況に陥っている。

 こうして学生と企業の双方が効率化を求めた結果、現代の採用市場には新たな課題が浮き彫りになった。ESを容易に作成できるようになったため、学生は複数社を並行して比較検討し、内定を辞退するケースが増加。また、企業への理解が不足したまま入社を決めてしまうことで、入社後に「思っていたのと違った」という理由から、わずか数週間で辞めてしまう“超早期離職者”も増えているのだ。

 早期退職は、企業側にとっては採用・教育コストを十分に生かせない状況であり、学生にとっては就活のやり直しという非効率な事態をもたらす。双方にとって看過できない問題だ。今後はAIによる業務の自動化がさらに進み、大手企業は採用人数を絞り、デジタル社会により適応した人材を求めることが予想される。だからこそ、これからの時代は企業・学生の双方にとって「高精度のマッチング」がかつてないほど重要になる。

 そんな課題に直面する新時代に、いち早く活路を見出すべく、大胆な選考方法で新卒採用を実施して注目を集めたのがロート製薬だ。起案者のひとりである人事総務部兼広報・CSV推進部の藤原結衣さんは、書類選考を廃止した理由を次のように語る。

「1年ほど前から、AIの普及などにより応募数が増えてきました。このままエントリー数が増え続ければ、こちらも判断の一部をAIに頼るなど、機械的な方法でスクリーニングしなければならなくなってしまうのか?と、疑問を抱いたことがきっかけでした。ありがたいことに当社を商品が好きでエントリーしてくださる方は増えましたが、私たちが一緒に働きたいのは、次の5年、10年のロートを共に創っていく方々。

 商品のファンであることと、ロートで働くことを通じてその方自身が成長し幸せになれるかは、必ずしもイコールではありません。ESに書かれているたった1000〜2000字程度の文章だけでそれらを見極め、応募者の個性や未来の可能性を判断することにも限界を感じていました」(藤原さん/以下同)

 「文章だけで判断すること自体、学生に対して失礼であり、企業にとっても大いなる機会損失ではないか」――そう考えた同社の人事部は、「今の時代、どうすれば学生と真っ直ぐに向き合えるのか」と試行錯誤を重ねた。その末にたどり着いたのが、対面を起点とした一次選考「Entry Meet」の導入だ。これは、全国8拠点で応募者とひとり当たり15分間の対面面接を実施するというものである。

■「非効率」「採用側が大変」の懸念を払しょく…“AIには書けない”条件で選考時間100時間が減少

 AI面接が一般化しつつある今、この選考方法には「今どき最初からわざわざ面接会場に行くのは非効率」「採用する側が大変なのでは?」と、ネット上などでも懸念の声が上がっていた。

 しかし、実施後の評判は意外にも真逆。エントリーした学生からは「自分の言葉で話すことができ、書類選考やAI面接よりも納得感がある」といった声が寄せられた。面接を行った社員からも好評で、応募者全員と15分間会い続けたにもかかわらず、選考に関わる総時間は前年比で約100時間も減少。「かえって効率的」という結果になったのだ。

 一見、タイパ至上主義に逆行する面倒なことに思えるが、なぜ効率化できたのだろうか。その要素のひとつが「事前課題」にあった。

 ロート製薬は、Webでボタンを押すだけで簡単に応募できる“手軽さ”をあえて排除した。そして、AIが代筆できない、自身の歩んできた人生とモチベーションの起伏を可視化するフリーフォーマットの「人生グラフ」の提出を応募条件にしたのである。

 AIに相談しながら書ける志望動機と違って、「人生グラフ」は自分自身のことを書く自由さがあるからこそ、手間もかかり頭も使う。それを面倒と思わない人だけが応募してくるため、全員面接とはいえ結果的に応募人数は適正に絞られた。「面接会場に足を運ばなければならない」というハードルも手伝い、結果として志望度の高い学生が集まる母集団が形成されたのだ。

 さらに、「人生グラフ」は人材発掘の面でも大きな成果を果たした。

「当社には、自分が今いる場所で次に何をすべきかを自分で見つけ、自分からアクションしていくという企業風土があり、社外チャレンジワーク制度(複業)も社内ダブルジョブ制度(兼務)も社員の提案から生まれました。そんな当社の価値観にフィットし、楽しみながら成長していける人であるかどうか。『人生グラフ』を楽しんで作れるかどうかは、その点を判断できるポイントにもなりました」

 さらに15分間の面接では、テンプレ化された質問は実施していない。「人生グラフ」に記された内容から深掘りしていく、“会話のラリー”を重視したのだ。その結果、初期段階で価値観や成長可能性のマッチングを見極めることができ、「互いの理解を深める合理的な選考につながった」という。

 この採用方法に対し、ネット上では「コミュ力が高い人が有利なのでは?」という声も上がっていたが、藤原さんは、「すらすらしゃべれなくても、行動の源泉にある価値観に共感できれば、自然と話は盛り上がるもの」と語る。

 その背景には、「部署の枠を超え、『生コミ(生コミュニケーション)を大切にしよう』という文化が根づいている当社では、これまでも採用選考で会話重視の面接を行ってきた」という、実績に裏打ちされた自信がある。

 とはいえ、企業側にとって全国8ヵ所に赴き、リアルに応募者と会うことが物理的に大きな負担となるのは事実だ。しかし、これも杞憂に終わったと、藤原さんは当時を振り返る。

「1日中画面に向き合うオンライン面接に比べ、対面での面接には、同じ空間で共有する空気感、表情や姿勢、身振り手振りといった言葉以外の圧倒的な情報量がありました。そのため、面接にあたった社員も、学生との会話は自然で楽しく、疲労感はなかったと言っていました」

■「振り落とし作業ではない」、売り手市場でミスマッチを招かない採用の本質とは?

 さらに藤原さんは、今回の選考を通して採用の本質について考えたことがあるという。

「採用の本質とは、何百人、何千人をふるいにかけてそこから選ぶという『振り落とし作業』ではないはず。友人やパートナーを選ぶのと同じくらい、自然に『一緒にいたい』『もっと話したい』と思うような人材を探す、シンプルで血の通ったものでいいのではないかと感じました」

 もちろん、この選考方法が万単位の応募が殺到する超大手企業でも通用するかといえば、疑問は残る。しかしロート製薬の取り組みは、これまでの形骸化した採用活動が自社にとって本当にベストなのかを考え直すきっかけになるのではないだろうか。

 中には「仕事も採用も効率化こそ最優先」という会社もあり、AIを活用した就活が最適な場合もあるだろう。そうした価値観も含めて自社のカルチャーを明確に定義し、その定義に見合った人材と出会うことこそが、内定辞退や早期退職率を下げることにつながるはずだ。

 売り手市場の今、学生に嫌われないように良い顔をしたり、自社の内情に合わない“流行”の採用方法を取り入れたりして、結果的にミスマッチを誘発していた時代は終わった。今後必要なのは「数」ではなく、自社のリアルを伝えて本当に必要な人材を見つけ出す、人と人との「濃度」なのではないだろうか。

(文:河上いつ子)

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  • どんなことにも「こんなはずじゃなかった」はあるから、対面のほうがいいと思う…
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