
FC町田ゼルビア 黒田剛監督インタビュー 前編
8月7日にJリーグ2026−27シーズンが開幕する。そこでの活躍が注目されるFC町田ゼルビアは、これまでのJリーグ「5位以内」から、新シーズンはついに「優勝」を目標に掲げた。黒田剛監督にその理由や手応え、意気込みを聞いた。
【優勝を目指さないといけないチームになってきた】
――2026−27シーズンの開幕も迫るなかで、今季の目標に「J1優勝」を掲げられました。これまでリーグ目標は「5位以内」と慎重に設定されてきましたが、今回「優勝」に踏みきった理由を教えてください。
「町田の監督に就任してからJ2優勝やJ1初昇格での3位、天皇杯優勝、ACLE準優勝と、この3年半駆け足で急坂を登ってきました。リーグで大きく後退することなく、常勝の強さを少しずつ身につけてきたと思います。
新シーズンでさらにチームをベースアップし、日常の基準を高めるにはもう優勝を狙うしかない。相応の選手たちも集まってきて、優勝を目指さなくていいチームではなくなってきました」
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――ここまでのプロセスやチームの成長曲線から、もう優勝を目指さないといけないチームになってきたと。
「これまでは『何かしらタイトルを』という、"チャンスがあれば"という考え方でした。でも今年の最優先はリーグ優勝です。次にACL2を制してACLEのプレーオフ参加権を取ること。そのうえで、天皇杯やルヴァンカップにもチャンスがあれば狙いたいと考えています。
優先順位を明確にすることで、選手層を抱えながらターンオーバーしても、全員がモチベーションを保って同じ方向へ向かえる体制を作りたい。そういう狙いもあります。
本当は5位や6位を目標にしたほうが楽かもしれません。でも、今の町田はあえてそういう試練に飛び込んでいかなくてはならないと思っています。ファン・サポーターや町田市民の期待もありますし、藤田晋社長もいまだに優勝パレードの感動が忘れられないようで(笑)。私自身も、もう一度経験してみたいですね。
オーナーの思いも理解していますし、それだけの投資をしてもらい、相応の年俸の選手も集めてもらっている。だからこそ、優勝を狙わないと俺たちじゃない。今の位置に甘んじる町田であってはいけない。できる、できないではなく、優勝を目指すと口にし続け、日常を厳しくしながら全員で高め合う。そのための目標でもあります」
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【どのチームよりも、各ポイントで上回る選手たちを配置】
――ナ・サンホや林幸多郎が移籍した一方で、松尾佑介や明本考浩が加入し、ミッチェル・デュークも復帰しました。青森キャンプの紅白戦を見ても、戦力の厚みを感じました。
「かなりバチバチでしたね。あの競争が強さを保つ土台になると思います。選手を甘やかさず、常に競争させること。全員がその厳しいラインから外れないよう努力し、日常を変えていくことが、チームの強さを維持する大きなポイントです」
――百年構想リーグ最後の試合でのセレモニーで、下田北斗選手の挨拶にも乗せられながら監督は「J1優勝」を口にしていました。あの時から監督のなかで、この目標設定を考えていたんですか?
「あの時はまだ選手の出入りがまったくわからない状況でした。基本的に底上げとチーム内の競争、誰が出ても同じ強さを維持できるような状況が、自分の目で確認ができないと優勝という目標は難しい。あの時はまだそこまでは考えていませんでした。
あれからかなり抜けた選手もいますが、松尾や明本が加入し、もうJリーグのどのチームよりも、各ポイントで上回る選手たちが配置されることになります。それで5位以内という目標はもう立てられないでしょうと」
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――選手の口からも「もう優勝でしょう」と、みんなの目線が揃ってきて、意識の基準も上がっているように感じます。
「選手の口々からも『絶対に優勝しよう』という言葉が出ているのに、監督が3位や5位でいいという話はないですからね。言ったからには、優勝するにふさわしいトレーニング、意識、取り組みがなかったら、それはもう嘘になると思います。
『男に二言はない』ではありませんが、言ったからには求め続けるし、絶対に甘えを生じさせない。コーチ陣にも、甘い習慣を排除し、緩い環境だけは絶対に作らないでほしいと伝えています」
【勝てない時と、勝てる時のチームを比較できるのが自分のメリット】
――選手の目線がそれだけ上がり、厳しい要求をしやすくなったのでしょうか?
「方向性が決まって、こっちにブレる意思はまったくないので導きやすくなりましたね。簡単な目標を立てて、それを達成できたほうがいいというやり方もあるかもしれないけれど、それではここに来た意味がありません」
――青森山田で築いた常勝チームを、プロの舞台でも築き上げられるかというのは、多くの人が注目してきたことですね。
「全国で何度も優勝した監督が来た意味や目的を理解した時に、プロの世界は甘くないと言われようと、やっぱりそこを目指さなければ黒田ではない。他チームとは違うマネジメントかもしれないけれど、それは全国で7度の優勝を経験したなかで築き上げてきたマネジメントでもあります。
青森山田で最初から勝てたわけではありません。なかなか勝てず、挫折をした20年があったからこそ、その後の勝ち続けた10年を知っているわけです。勝てない時と、勝てる時のチームを知り、その比較ができることが自分のメリットだと思っています。
ただ、そのマネジメントの肝は目に見えないところにある。選手たちにそれをしっかりと示しながら、コーチ陣にアプローチさせるのはすごく難しい部分ではあります。だからこのキャンプで時間をかけてコーチ陣に理解してもらい、同じ論調、同じ空気感で選手たちにコーチングできるようにしていきたいと思っています」
【ゴール期待値を上げていく】
――今季を迎えるにあたって、よりチームをアップデートするために必要なことはなんですか?
「これまで失点アレルギーというワードを謳っておきながら、百年構想リーグの前半戦に多くの失点を重ね、後半戦ではその失点を抑えることができました。ここが今回のキャンプのテーマでもあるんですが、前半戦よりも後半戦のゴール期待値が下がってしまったと。つまり、後半戦の守備をしながら、下がったゴール期待値をどう上げていくのかが大きなポイントです。
それは守勢ということではなく、どうやって押し返し、相手陣内でサッカーをするか。そういう時間帯を勝っている展開のなかでも作っていけるかがすごく重要になります。それはカウンター対策でも大事な部分。見えてきたポイントは明らかで、そこを改善できれば必ずや結果はついてくる。そう信じています」
――百年構想リーグの後半戦に守備が改善された要因はなんだったのでしょうか?
「ターニングポイントは第11節(4月1日)、第9節(4月4日)で2連戦となったFC東京戦です(※変則日程のため第11節が先に開催)。第11節で0−3の大敗を喫しながら、中3日の第9節では再び対戦して0−0でPK勝ちしました。ほぼパーフェクトなゲーム展開をして、ここが分岐点になりました」
――その中3日で何があったんですか?
「0−3で敗れて、守備から攻撃のところで、できなかったことが選手たちのなかではっきりと見えたのが大きかったですね。そこからそれ以前と以降の比較で、何が改善できたのかを言語化する作業もミーティングでかなりやってきました。それは今日のミーティングでもやります。そうやってみんなが理解し、意識してトレーニングできることが重要でした」
――ここからポイントであるゴール期待値を上げるために何を求めていきますか?
「リスタートも含めて、攻撃に関してなんでもできるようにする。どの局面でも相手にとって脅威となる局面を増やしていけるように洗練されていく必要があります。そのためにいろんなパターン練習をしたり、理解を深めさせるアプローチもしています。ただ、最終的にはそこは各々のスキルやクオリティが求められます。
チャンスの時に、どこにコントロールすることが一番ゴールに直結するのか。前を向いた時にコースに蹴り込めるか。これはすべてスキルです。パスやトラップがちょっとズレたり、ターンができるか、できないかもスキルの部分。精度ではなく質の追求こそゴールへの可能性を広げられるのです。
それをできる選手を確保するのもひとつだし、苦手な選手であってもその選手の長所を生かせるような攻撃の形を見出していくこともひとつです。そのやり方の整理は必要だと思います。チームとしての理想はあっても、現実にはできることと、できないことがあるので、そこを調整しながら選手の組み合わせのパターンを見極めていくのも、やり方のひとつではあると思います」
――百年構想リーグでは、90分間での引き分けが多かったことが、町田の課題のひとつでもあったと思います。
「そこもミーティングで何度も話していることですね。我々は75分以降の失点が多く、リードしながら同点に追いつかれ、PK戦にもつれるというケースが少なからずあったと。なぜ75分以降の失点が多かったのか。
それは時間と流れのなかでの思考という心理的な部分もあります。そこをどう克服し、勝点3に持っていくか。今回のキャンプでもそれをテーマにミーティングをしました。押し込まれている局面であっても確実に押し返していけるようにしっかりトレーニングしていきたいと思っています。
その時間における試合の進め方は、みんなで理解していくことが重要で、シーズンが始まるまでにしっかりと浸透させていく必要があります」
【自分たちを見失うことなく、強くあり続けられるか】
――今季、優勝を目指す上でライバルになってくるクラブはどこだと考えていますか?
「具体的にチーム名を挙げるのは難しいですが、どのチームもかなりの補強で強化されていると思います。チームによっては、いったい何人の選手を補強したんだろうというところもあります。だからすべてが拮抗する試合になってくると、そう覚悟しています。
ただ、拮抗しながらも百年構想リーグとACLEを含めて、90分間の負けを喫したのは鹿島アントラーズ戦とFC東京戦の2試合のみ。サウジアラビアで戦ったACLEファイナルズからの9連戦で負けなかった。あれは選手たちにとって必ずやいい経験になっていると思います」
――連戦をどう乗りきるかは、タイトル争いにおいて大きなポイントになりそうですね。
「そのために誰が出ても同じ強さを維持できるように、選手層も含めて準備しているところです。我々もまだ一度経験しただけなので、わからない部分もあります。でもACLに出場するというのは、厳しい日程を覚悟しなければいけない。
今季ACLEに出場する鹿島アントラーズやヴィッセル神戸、柏レイソル、京都サンガF.C.もリーグと並行して戦うことで、間違いなく苦しむ時期が来るはずです。逆に、そこが我々にとってのチャンスになってくる。そこで崩れることなく、自分たちを見失うことなく、強くあり続けられるか。そういう勝負になってくると思っています」
――では最後に、開幕を迎えるにあたってサポーターにどんな期待をしてほしいですか?
「町田に就任してから3年半、今まで見たこともなかった景色を見てきて、そこに人生や夢を重ね、期待感を持って熱く応援してくれるファン・サポーターの方が非常に増えてくれました。町田に来たからには、もっと彼らの生活や人生のなかに溶け込み、この街にFC町田ゼルビアが"なくてはならない存在"になっていければと思っています。
そして常に高いレベルでサッカーを披露できる我々の土壌、文化を築いていきたいと思うし、その期待に応えていきたいと思っています。
全力で優勝を目指して、ファン・サポーターのために戦い続けたいと思います」
>>後編「黒田監督が見たサッカー日本代表とワールドカップ」につづく
篠 幸彦●取材・文 text by Yukihiko Shino![FIFAのインファンティーノ会長 [写真]=Getty Images](https://news-image.mixi.net/article/138/138_20260729_2187948_001_70x70.jpg)