
クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。第80回目・81回目のゲストは、エリックサウス総料理長/料理人/文筆家の稲田俊輔さんです。
南インド料理専門店「エリックサウス」の総料理長にして料理人・文筆家の稲田俊輔さん。本が15冊を超えてもなお「書きたいだけ」と言い、クックパッドで1時間遊んで仕事が進まなくなる。そんな稲田さんの頭の中を、クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」で語ってくれました。
稲田さんが発明!「クックパッドぎりぎりチャレンジ」
前編で紹介したように、批判派から一転、プレミアム会員登録をしてクックパッドを研究し始めた稲田さん。その延長線上で生まれたのが、「クックパッドぎりぎりチャレンジ」という遊びです。
「先ほどお話した検索窓の『使いたい食材』にヒントを得たものです。食材を3つ考えるんですよ。この組み合わせはさすがにないだろうと思うような、でももしかしたらあるかな、みたいなギリギリの組み合わせを考えるんですね」
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ルールはシンプル。ありえなさそうでギリギリあるかもしれない食材3つをクックパッドで検索し、1件でもヒットすればビンゴ、0件はバーストというゲームです。お弁当など複数食材が入るものは除外、1つの完成された料理でなければならないという厳格なルールもあります。
稲田さんが過去の履歴から出してくれた組み合わせが「ひじき・赤ワイン・高野豆腐」。収録中に実際に検索してみると、1件だけヒットしました。しかもそのレシピ名にはクエスチョンマークがついていたといいます。
「本人もギリギリだから、ほんとにこれは際どい。ビンゴですね」
このゲームを思いついたとき、稲田さんは1時間ほど没頭して仕事が全然進まなかったとのこと。新しいクックパッドの楽しみ方が、世に放たれた瞬間でした。
食を語る言葉が足りない。だから造語を作る
稲田さんはこれまで「周縁の民」「まずみ」など独自の造語をいくつも生み出してきました。なぜ造語が必要なのか。その理由を聞くと、食を語る言語体系そのものへの問題意識が出てきました。
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「食べ物に関して語られるボキャブラリーは、90年代以降のグルメ文脈の中で生まれた。でも、残念なことにそこで止まっちゃったんですよ。味を語る言葉がほぼイコールグルメ文脈になって」
その象徴がテレビの食レポだといいます。「旨味が溢れ出す」という表現が今も使われ続けていますが、旨味たっぷりの食べ物はすでに世の中に溢れ返っています。そこからこぼれ落ちるものを語るために、新しい言葉を作らざるを得ないというのです。
「美味しさは旨味とまずみが足されたものである。そうなると、まずみという言葉が必要になったぞ、みたいになって」
「周縁(しゅうえん)の民」はその最たるものです。90年代グルメ文脈はピラミッド型で、頂点に食通がいて庶民を導くという世界観でした。稲田さんはそのピラミッドをパタッと水平に倒すイメージを持っています。真ん中にみんなが美味しいという最適解があり、その周辺にはマイノリティが熱狂する食べ物がある。その周縁に住む人々を「周縁の民」と呼んだのです。 稲田さんはエリックサウス自体も「周縁の都」を目指していると言います。超メジャーにはなれないけれど、わかる人たちが集まってくれる場所として。だからこそ稲田さん自身も周縁の民の一人というのです。
「我々、周縁の民は少数派として、やっぱりちょっと仲良くしていこうじゃないですか」
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具体的な解決策を提示する「空気の読めない男」
稲田さんとは何者なのか。その問いに一言で答えるなら「常に料理人」だと本人は答えます。本が15冊を超えたあたりから文筆家も名乗り始めましたが、軸足は料理人から動かさないようにしているとのこと。
料理人という仕事は、常に追われています。お客様のペースがベースになるから、マイペースが許されません。最短距離、最小コストでベストパフォーマンスを目指すことを常に意識せざるを得ないといいます。制約でがんじがらめになりながら、結果的にベストなパフォーマンスが出てくるのが料理人なのです。ただ稲田さん本人は、その制約をゲームとして捉えているといいます。
「ゲームはルール厳しい方が面白いよねみたいな感じで楽しめるし」
そんな稲田さんのスタイルは、レシピ本でも独特です。料理家と呼ばれる人たちの多くが「寄り添うこと」を仕事と捉えているのに対し、稲田さんには違和感がありました。
「僕がレシピ本でやってることは、愚痴に対して具体的な解決策を提示する空気の読めない男みたいなことを多分やってるから」
これは自己批判ではありません。向かっている方向は同じでも、アプローチが違うという話です。共感や励ましより、「自分だったらこうやるのがベスト」という考え方の提示をする。それが稲田さんのやり方です。
「今後とも具体的な解決策を提示してまいります」
次にやりたいのは「段取りの本」家庭料理が楽にならない理由
今後の野望を聞くと、新しい店や出したい本が盛りだくさんとのこと。そのなかでも近々取り組みたいとして挙げたのが「段取りの本」でした。
プロの料理人が当たり前にやっていることが、家庭に伝わっていない。その最たるものが段取りだといいます。たとえば、プロはボウルやバットをどんどん使います。使ったらその場ですぐ洗ってひっくり返す。だからシンクは常に空に近い状態です。ところが家庭の多くの人はそれを知らないから、洗い物が溜まる情景を想像して道具を使うのを避けてしまう。
「その洗い方にしても、洗い物の振り分け方、両手の使い方みたいな部分で、我々がものすごく当たり前だと思って、それによって作業が圧倒的に楽になっていることが、実は知られていないから」
さらに料理中の両手の使い方も同様です。右手は乾燥した状態をキープし、食材や水に触れるのは左手だけ。それが当たり前のプロと、両手で食材を触って洗い物を増やしてしまう家庭の間には、大きな溝がある。その溝を埋めることができれば、家庭料理は劇的に変わると稲田さんは言います。
「難しいけど、それを考えるのが楽しいんです」
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【ゲスト】
第80回・第81回(6月5日・12日配信) 稲田俊輔さん
料理人・文筆家/南インド料理専門店エリックサウスでは総料理長を務める他、様々なジャンルの飲食店をプロデュース。レシピ本を始め、エッセイ、小説など食にまつわる著作も多数。近著は『稲田俊輔のおそうざい十二ヶ月』(暮しの手帖社)、『東西の味』(集英社)
X: @inadashunsuke
Instagram: @inadashunsuke
【パーソナリティ】
クックパッド株式会社 小竹 貴子
料理愛好家・ 料理の楽しみ共創室 部長/創業期から参画し、初代編集長としてメディアづくりに携わる。現在は、料理家や生産者といった食のつくり手の声を届ける活動を行っている。「日経ウーマンオブザイヤー2010」受賞。プロの技術や食材の背景にある物語を、暮らしに馴染む言葉で伝えることをライフワークに、生活者の目線で食の楽しさを探求している。
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