
次代を担う逸材たち〜アマチュア野球最前線
第22回 豊川・長坂慶大
今年のドラフト会議もまだだというのに、早くも2027年のドラフト戦線が動き始めている。高校生投手では川本晴大(大阪桐蔭)、岩見輝晟(九州国際大付)、小林鉄三郎(横浜)の左腕3人が、すでに全国区の知名度を獲得している。
そんななか、今夏に強いインパクトを残した右投手が愛知県にいた。
「豊川の2年生・長坂慶大(ながさか・けいた)が150キロを計測したらしい」
そんな噂を聞きつけて、岡崎レッドダイヤモンドスタジアムへと足を運んだ。長坂は6月に開催された招待試合で、名門・横浜を相手に6回2安打6奪三振1失点と好投。一躍名を上げた新星である。
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【中学時代は外野手】
7月19日の夏季愛知大会4回戦・大成戦。4対0とリードした8回裏から、長坂はマウンドに上がった。
身長178センチ、体重78キロと特別に大柄というわけではなく、斜め上の角度から右腕を振るスリークオーター。だが、投球練習の段階で、猛烈な勢いのストレートが捕手のミットを激しく揺らした。スコアボードのスピードガンには、その時点で「148キロ」という球速が表示された。
打者が打席に入ってからも、長坂はほとんどストレートで押していく。しかも、打者が差し出したバットの上を通過するような、空振りを奪える球質だ。球速は150キロどころか、152キロを2回も計測している。長坂は2回を投げ、4個の三振を奪って試合を締めくくった。
試合後、豊川の長谷川裕記監督は報道陣から長坂について問われると、満面の笑みで「秘蔵っ子」であることを明かした。
「中学までピッチャーをやったことがない子なんです。1年間かけて、よくなってきました」
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長坂もまた、充実した表情で手応えを語っている。
「監督にはマンツーマンで教えてもらってきました。もともと中学では外野をやっていて、肩には自信があったんですけど、高校で体をうまく使う練習をしてきました。今日はやってきたことを全部出せたと思います」
【ブルペンでの投球は週1回】
豊川は2年前のドラフト会議でモイセエフ ニキータ(ヤクルト)が2位指名を受けたが、近年は投手育成力も目立っている。昨年は中西浩平(上武大)や平野将馬(日本大)ら本格派右腕が話題になった。今夏も3年生右腕の皆川瑛翔(えいと)ら、複数の好投手を擁していた。
投手の指導は、基本的に長谷川監督と清水翔太コーチのふたりで担っている。長谷川監督は名城大で栗林良吏(広島)とバッテリーを組んだ経験がある捕手で、投手の心構えや肉体強化をメインで担当。清水コーチは社会人の名門・日本生命でプレーした投手で、おもに技術面を担当している。
特徴的なのは、キャッチボールを重視する点だろう。ブルペンでの投球練習は週1回程度だと長谷川監督は語る。
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「ウチはキャッチボールをめちゃくちゃ大事にしています。特別なことはしていませんが、その点を理解してやれるかが大事だと思います」
スリークオーターの腕の振りについて、長坂は「自然と腕が出やすい角度」と、自分の個性ととらえている。
一方で、出力を高めるための肉体強化にも力を入れた。高校入学時点で67キロだった長坂の体重を増やすため、長谷川監督はこの冬に一計を案じた。
「投手陣に直談判したんです。『この冬は長坂を太らせるから、あまり走らせないようにする』って。夏は長坂の力が必要になるからと」
ボックスジャンプなど瞬発系のトレーニングにも注力した結果、長坂のストレートはどんどんスピードアップしていった。
【プロを見据えた新たな決意】
長坂が思い描く「理想のストレート」は、どんなボールなのか。そう尋ねると、長坂はこう答えた。
「わかっていても打てない真っすぐです。手元でクッと伸びて、バッターが狙っても打てない真っすぐが理想ですね」
長谷川監督も、長坂の球質には太鼓判を押している。
「手元ですごく伸びているので、バットに当たらないですよね。ほかのピッチャーにはない特徴なので、もうそれを『変化球』と思って磨こうと言っています」
大きな自信をつけたのが、前述の横浜との招待試合である。ドラフト候補の池田聖摩と対峙した長坂は、自慢のストレートを内角に投げ込んだ。
「池田選手から空振りが取れたり、詰まらせたりできました。インコースをうまく使えたのが、抑えられた要因だと思います」
あくまで高校2年夏時点での希望ではあるが、長坂は高卒でのプロ志望を公言した。中学まで外野手だった選手が、高校で152キロを投げてプロを目指す。世界が激変したように感じられても不思議ではないが、長坂は決然とこんな思いを語っている。
「監督から『もっと上のレベルを目指していけ』と言われて、自分の意識も変わりました。テングになることもなく、とにかくチームを勝たせられるピッチャーになっていきたいです」
今夏の豊川は愛知大会ベスト8に進出したものの、愛工大名電との準々決勝では今大会初先発の長坂が立ち上がりから乱調。守備の乱れもあって1回0/3を投げて5失点で降板し、チームも0対7(7回コールド)で敗れた。長坂にとっては、手応えと悔恨が混じり合う夏だった。
まだまだ歩みを止めるつもりはない。これから1年の間、野球ファンには「長坂慶大」の名前を覚えておくことをお勧めしたい。
菊地高弘●文 text by Takahiro Kikuchi