
大谷翔平が「二刀流」を休止してから1カ月以上が経過した。打者としてもコンディションが万全ではない時期が続いてきたが、投手としての復帰は未定の状況だ。
ひと言で「二刀流」とは言うものの、その負荷は計り知れないものであり、前例もない。
そんな中、ドジャースと大谷は今後、どのような道を選んでいくのか。当事者たちのコメントを中心に探ってみる。
【走塁に表われた左膝に不安を抱える現状】
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平が7月31日(日本時間8月1日)、本拠地でのボストン・レッドソックス戦に「1番・DH」で先発出場し、2試合ぶりとなる24号本塁打を放った。前日30日は左膝の違和感を考慮され、今季6度目の欠場。この日は4回に左中間への二塁打、5回には右翼席へ24号の逆転2ランを放ち、9回にも打球速度104.1マイル(167.5キロ)の鋭いゴロを放つなど、打球の質は依然としてメジャートップクラスだ。
後半戦に入り、東海岸遠征では9試合で38打数7安打、本塁打ゼロと苦しんだ打撃も、本拠地に戻り1日の休養を挟んだことで勢いを取り戻した。ここ3試合では12打数7安打、2本塁打、3二塁打である。
一方で、気がかりなのは投手・大谷の状態だ。7月3日のサンディエゴ・パドレス戦を最後に公式戦のマウンドから遠ざかっている。そして野手としても打撃への影響は限定的としながらも、走塁には不安を抱えている。それを感じさせたのが、31日の4回だった。
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左中間への二塁打で全力疾走すると、一塁を蹴って左膝を下に勢いよく二塁へスライディング。送球がそれたため一瞬、三塁をうかがう動きを見せたが、立ち上がる際には左足の動きがややぎこちなく、苦しそうな表情ものぞかせた。それでもプレーを続け、ミゲル・ロハスの中飛で三塁へ進塁すると、フレディ・フリーマンの中前打で生還した。
試合後、デーブ・ロバーツ監督は「あの走塁は大丈夫だったと思う。特に何か報告を受けたわけでもない」と説明。その一方で、「以前から言っているように、一日一日の状態を見ながら判断するしかない。適度な休養を取り、フレッシュな状態でプレーできることは、多くの場合プラスになる」と話し、今後も左膝の状態を慎重に見極めながら起用していく考えを示した。
確かなことは、7月31日の時点でも、大谷が左膝に不安を抱えながらプレーしているということだ。大谷自身は今季中の投手復帰を望み、球団もその可能性をサポートしている。だが、この日の走塁を見る限り、復帰までの道のりは本人や球団が語る以上に険しいのではないか、そう感じざるを得なかった。
【二刀流復帰は患部や違和感の100%回復が基本】
左膝に炎症を抱え始めたのは6月だった。その頃から投球内容にも変化が表われた。6月3日終了時点では10試合に登板して防御率0.74だったが、その後の4試合では計12失点を喫し、防御率は1.79まで上昇した。もちろん、この数字をすべて左膝だけで説明することはできない。しかし、ドジャースのアンドリュー・フリードマン編成本部長は7月29日の会見で、「コマンド(制球力)、投球の遂行は普段の彼より少しずれていた」としたうえで、「それは膝とデリバリーに関係している。同じ動きを何度も繰り返すことが難しくなっていた」と説明。左膝の影響で投球フォームの再現性が低下していた可能性を認めた。
オールスター期間中には、左膝にヒアルロン酸製剤「オルソビスク(関節液の粘性や潤滑性を補い、痛みを軽減して関節の動きを改善する)」の注射を受け、静養にも努めた。後半戦に入るとブルペン投球を再開し、7月22日に投球練習を実施。当初は25日にもブルペン入りする予定だったが、左膝の状態を考慮して延期された。その後も公式戦復帰へ向けた投球練習は行なわれておらず、慎重な調整が続いている。
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7月28日、大谷は投手復帰について胸の内を明かした。
「まったく問題がなければどんどん進んでいく。100%ならそういう感じですけど、90数%でも残りの数%に違和感があるなら、まだ休もうというのが全体的な方針だと思います」
さらに、左膝だけでなく右上腕二頭筋についても、「二頭筋も100%ではない。どの程度までプッシュするのかという判断になる。まだ7月なので、8月、9月になった時にどうするか、その都度決めたい」と説明。復帰時期を急ぐ考えはないことを強調した。
オールスター休みの注射については「かなりよくなったのは間違いない。ただ、痛みがゼロになることはドクターと話していて、ないのかなという感じではある」と認めた。完治というよりも、痛みをコントロールしながらプレーを続けていかねばならない。
翌29日には、フリードマン編成本部長が、現状についてさらに詳しく説明した。
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「当初は膝の腫れに何とか対応しようとしていました。その途中で上腕二頭筋にも少し問題が出ましたが、それはよくなりました」
そのうえで、球団が最も警戒しているのは左膝をかばうことで投球フォームが崩れることだと説明した。
「着地脚である左脚をかばい、無意識のうちに投球メカニクスを変えてしまうような状況にはしたくなかった。今回の措置は腕の問題というより、左脚に何度も着地することによる負担を取り除くことが目的です」
現在も大谷はプライオボールを使ったスローイングを続け、腕は動かしているという。その上で、フリードマン編成本部長は「膝はよくなり続けています。比較的近いうちにキャッチボールを始め、そこからブルペンへと段階を上げ、復帰に向かっていくことには自信を持っています」と、今季中の投手復帰に前向きな見通しを示した。
【今後の二刀流のカギを握るのは状態の見極め】
しかしながら、大谷自身の会見での話しぶりや、7月31日の試合で見せた走塁を見ていると、少なくとも今季中の投手復帰は決して簡単ではないように感じる。
最後の実戦登板は7月3日のパドレス戦。すでに約1カ月が経過した。しかも7月末の時点で、軽度のキャッチボール再開には至っていない。ここから本格的なキャッチボール、ブルペン投球、打者を立たせた実戦形式、必要であればリハビリ登板と段階を踏まなければならない。
目標を9月末やポストシーズンに置いたとしても、残された時間に余裕があるとは言えない。チーム事情を考えても、投手復帰を急ぐ必要性は高くない。先発陣には山本由伸、佐々木朗希、ジャスティン・ロブレスキーがおり、離脱していたブレーク・スネルやタイラー・グラスノーも復帰へ向かっている。
一方、長打力と出塁能力を兼ね備えた「1番・大谷」の代役はいない。今は投手としてマウンドへ戻ること以上に、不安なく走り、打者として本来のパフォーマンスを維持できる状態を取り戻すことの方が重要ではないだろうか。
実際、大谷も7月28日の会見で現時点の走塁の難しさを語っている。
「100%走れると思ってセーフになると判断したところでも、スピードが出なければ一発でアウトになるケースがある」
フリードマン編成本部長は「今、球団にとってより重要なのは投手・大谷なのか、それとも打者・大谷なのか」と問われると、こう答えた。
「どちらがより重要か、という比較は難しい。どちらも私たちにとって非常に重要です。理想は彼が投打の両方で圧倒的な活躍をすること。私たちが望んでいるのは、できるだけ長く、できるだけ高いレベルで、彼が投打の両方を続けられるように手助けすることです」
それはあくまで基本方針だろう。だがいつも理想どおりにいくわけではない。今回のように、一方への負荷がもう一方に影響を及ぼす可能性も見極め、必要であれば立ち止まり、投打のバランスを調整していかなければならない。
32歳の二刀流に求められるのは、限界まで力を振り絞ることではない。投打の両方をできるだけ長く続けるために、進むべき時と立ち止まるべき時を見極めることだ。30代の二刀流という前例のない挑戦は、今まさに新たな局面を迎えている。
奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda