なぜ、カラオケの第一興商が「介護現場のインフラ」に? 10年間の不遇を乗り越え“高収益・安定ビジネス”へ化けたワケ

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2026年08月03日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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なぜ、カラオケの第一興商が「介護現場のインフラ」に?

 通信カラオケ「DAM」やカラオケボックス「ビッグエコー」で知られる第一興商。同社が介護・ヘルスケア領域でも安定した収益基盤を持っていることをご存じだろうか。


【写真】「介護レク専用」カラオケ機 DKエルダーシステムを搭載した「FREE DAM LIFE」


 第一興商が「生活総合機能改善機器」として打ち出している「DKエルダーシステム」は、全国約2万9000カ所の自治体施設、介護施設に導入されている。なぜ娯楽機器であるカラオケが、介護現場の「必須ツール」に近い存在になっているのか。


 事業として芽が出るまでの社内論理との戦いや、収益が出にくい構造的課題を乗り越えた経緯を、大坪直木部長(営業統括部 エルダー事業部)に聞いた。


●介護特化型カラオケ機? 「DKエルダーシステム」とは


 DKエルダーシステムとは、一言で言えば「カラオケの音源・映像技術を活用した高齢者向けの機能訓練・生活機能改善システム」だ。


 音楽に合わせて体を動かす体操コンテンツ、歌唱による口腔機能の維持、認知症予防プログラム「コグニサイズ」など、100種類を超える専門コンテンツを搭載している。単に「歌って楽しむ」だけでなく、高齢者の運動・認知・口腔機能を総合的に向上させるための、医療・介護の補助ツールとして設計されているのが最大の特徴だ。


 このシステムが今、なぜ介護現場になくてはならない存在となっているのか。それを象徴する出来事があった。


●コロナ禍の珍現象? カラオケランキング「Lemon」と「青い山脈」の逆転


 2020年5月、世界中がコロナ禍の真っただ中にあり、カラオケ店舗が休業や時短営業を余儀なくされていた頃、第一興商のデータ集計チームはある異変に気付いた。


 当時、世間のカラオケランキングで首位を独走していたのは米津玄師の「Lemon」だったが、この時ランキングの1位に躍り出たのは、昭和の名曲「青い山脈」だったのだ。


 カラオケ店舗の営業が制限される一方で、介護施設などに設置していた第一興商のカラオケ機は稼働していた。現場では感染対策を講じながら、「歌うことで口を動かす」介護予防が続けられていたのだ。


 長年の営業活動が、介護現場のインフラとして根付いてきたことを印象付ける出来事だったと大坪部長は振り返る。


●「昼の市場」で見つけた商機


 ヘルスケア事業の始まりは2001年にさかのぼる。当時、第一興商における社内の「花形」は、スナックやバーなどにカラオケ機器を納入する「ナイト部門」だった。


 こうした中、昼間のカラオケボックスやホテル、結婚式場などを担当するデイマーケット部門の営業責任者が、介護施設にも目を向けたことがきっかけだった。


 当時の介護現場では、職員が家電量販店で買ってきたテレビ接続用のハンドマイクや、体操のDVDを使ってレクリエーションを行っていた。「高齢者施設にもカラオケの強い需要があるのではないか」――当時のヘルスケア事業責任者はそう考えたという。


 それまで、もっぱら夜の店で歌って楽しむ娯楽だったカラオケの価値を、高齢者の「口腔ケア・誤嚥(えん)予防」や「機能訓練」という価値として再定義する取り組みがここから始まった。


●社内の壁と収益性の壁 10年に及ぶ苦闘


 立ち上げからの約10年間(2001年〜11年)は、苦労の連続だったという。最大の障壁となったのは、外部の競争以上に「社内論理」との戦いだった。


 当時、10社以上のカラオケ機メーカーが夜の繁華街でシェア争いを繰り広げていた。「利益率が高いナイト市場で100%のシェアを取ることが最優先だ。なぜ、未開拓で利益率の低い介護分野にリソースを割くのか」――こうした、経営幹部からの異論を覆すのは容易ではなかった。


 収益構造の差も大きな足かせとなった。ナイト市場では、利用者が100円玉を入れるコインボックス方式(売り上げを設置店と分配する方式)が主流で、1店舗当たり最大で月30万円規模の売り上げを稼ぎ出していた。


 対して介護施設は、利用者ではなく介護施設側に機器レンタル料を支払ってもらうことになる。そのため高額な料金は設定できず、初期はサービスの普及を優先して月1万〜2万円程度の低価格で展開せざるを得なかった。それでも、介護施設はナイト市場とは異なりシェア争いが激しくなく、うまくいけば長期的な収益基盤になる可能性があったため、現場は地道に市場開拓を続けた。


●現場職員の「痛み」を解決するサービス展開


 転機となったのは、2011年に新たに開発したカラオケ機「FREE DAM」の投入と、現場職員の悩みを解決するサービス設計だった。


介護予防専門コンテンツとエビデンスの積み上げ


 単なるカラオケとしての利用にとどまらず、東京都健康長寿医療センターなどが監修した認知症予防プログラム「コグニサイズ」や機能訓練コンテンツを搭載し、大学や研究機関との共同研究で医学的エビデンスを積み重ねた。


社団法人を立ち上げ、「人」で伴走


 「民間企業による売り込み」という警戒感を払拭するため、第一興商自ら「一般社団法人 日本音楽健康協会」を設立。専門資格「音楽健康指導士」を創設し、人材育成環境を整え、資格を持った社員が介護施設へ訪問しデモを行う実演型営業スタイルを確立した。


介護職員の隠れた離職理由「レクリエーション負担」の解消


 介護現場への営業活動やヒアリングを通じて見えてきた最大の課題――それは、職員にかかる「レクリエーション業務の負担」だった。学校教育だけでは十分に学ぶ機会が少ないレクの準備や進行は大きな心理的負担となっており、サービス残業や離職を引き起こす隠れた要因だった。


 そこで第一興商は、画面上のインストラクターが約30分のプログラムを自動で進行する「おまかせレク」機能や、指定時刻にコンテンツを勝手に再生する「スケジュール機能」を開発した。この機能は現場の施設長から「休まない、風邪を引かない、上司の愚痴も言わない、職員2人分の働きをしてくれる」と絶賛されたという。


高い継続率と収益性の両立


 介護現場では、伴奏だけではなく歌も入った「ガイドボーカル入り」の楽曲がよく使用されている。ガイドボーカル入りの楽曲は、寝たきりの利用者であっても耳や目で参加でき、楽しめる。こうした点が介護職員からも評価され、導入施設の継続率は「ほぼ100%」だという。


 導入機材の減価償却が完了すると、月額利用料がほぼそのまま利益になるため、ヘルスケア事業は営業利益率4割弱を確保する高収益ビジネスへと化けたのである。


●行政予算を引き込むエコシステム


 デイサービス事業者の約半数が赤字といわれる厳しい介護業界の中で、第一興商は「自治体・行政施設」への展開にも注力している。


 厚生労働省では「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に基づき、高齢者のフレイル(虚弱)予防や孤立防止を目的とした「通いの場」の全国的な拡充を進めている。こうした国の方針を追い風に、地域住民の集いの場である福祉施設や公民館、地区センターなどの公的施設へDKエルダーシステムの導入を働きかけた。


 既に東京都中野区、長野県松本市、大阪府泉佐野市などの自治体で導入が進み、泉佐野市では市内約50施設で約5000万円規模の設備更新予算が組まれるなど、行政予算を巻き込むことに成功している。


 さらにDKエルダーシステムは神奈川県から優れた未病改善サービスとして「ME-BYO BRAND(未病ブランド)」の認定を受けるなど、自治体からの公的な評価を獲得している。


 こうした行政予算を引き込むエコシステムと、自治体の「お墨付き」を得る戦略は、そのまま同社の安定した収益につながっている。現在、第一興商の業務用カラオケ事業全体の売り上げ(約600億円)のうち、DKエルダーシステムを含むシニア事業が約70億円を占めるまでになった。


 祖業で築いた資産の価値を、時代に合わせて再定義する。この地道だが戦略的なサバイバル術は、成熟市場で戦う企業にとって教訓となるはずだ。



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