
かねてより予告されていた通り、「Rokid スマートAIグラス」の一般発売が7月10日より開始された。今年2月26日から5月末まで、Makuakeにてクラウドファンディングを行っており、応援購入総額6億円超えでMakuake歴代ランキング1位を獲得した製品だ。
今回はRokid スマートAIグラスをお借りすることができたので、1週間ほど試しているところだ。実際にAIグラスは、何を可能にし、何を可能にしないのか。現在地の評価と、未来の可能性について考えてみたい。
●構造と現在提供されている機能
現在AIグラスと呼ばれる製品にはいくつかのパターンがある。Rokid スマートAIグラスのようにディスプレイとカメラを搭載した製品、カメラを搭載するがディスプレイは搭載しない「Ray-Ban Meta」や「Oakley Meta」のような製品、ディスプレイは搭載するがカメラは搭載しない「Even Realities」のような製品と、だいたい3つに分類される。
|
|
|
|
今回、日本で発売されたRokid スマートAIグラスは、カメラとディスプレイを搭載するが、同社には「Rokid AI Glasses Style」というディスプレイを搭載しない製品もある。ただこちらは日本では発売されていないようで、日本向けにはディスプレイ付きのハイスペックモデルで勝負するようだ。
メガネとしては1サイズ1カラーしかなく、色は黒である。またデザインも1種類しかない。昨今メガネとしてこうした黒縁のガッツリしたものを装着している人はかなり少ないため、使っている人を見つけるのはそれほど難しくなさそうだ。
ディスプレイはグリーンの単色で、両眼で見た場合、だいたい目の前5mぐらいの位置に文字が浮かんでいるように見える。近視の人はそれぐらいの位置にある文字は見えないので、別途視力矯正用のレンズを装着する必要がある。
ディスプレイの輝度は15段階に調整できる。本来なら周囲の輝度に合わせて自動的に調整してほしいところではあるが、現時点ではそのような機能はない。スピーカー音量も15段階で、音質モードとして音楽再生などにも向く「リズム」、話し声を聞くのに適した「ポッドキャスト」の2モードがある。
次ページへ
|
|
|
|
「ChatGPT」か「Gemini」
使用可能なAIは「ChatGPT」か「Gemini」の2種類である。読み上げの日本語音声は、女性と男性の2種類が選べる。
基本的にはスマートスピーカーのように常時AIが待機しており、「Hi Rokid」というウェイクアップキーワードでAIとの会話を開始できる。今日のニュースや天気、カメラに写っているものなどを問い合わせることができる。また専用に特化した機能が用意されており、「モード」で切り替えできる。
機能としてはスマートフォン側の専用アプリと紐づいており、スマホ接続が切れるとできることは限られる。アプリからモード変更や機能拡張などができるほか、スマホに届いた通知もグラス側にポップアップする。
AIグラス側で選択できる機能には、「翻訳」「テレプロンプター」「音楽再生」「カメラ撮影」「VisionAI」「字幕」がある。加えてアプリ側から起動できる機能としては、「ノート」「ナビゲーション」「会議メモ」「ライブ配信」などがある。
|
|
|
|
機能はエージェントストアからダウンロードしてインストールすることもできる。現在はライフスタイルやエンタテイメント系のエージェントは多数あるが、ビジネス向けのエージェントは数が少なく、今後はこのあたりの開発に期待がかかるところだ。
次ページへ
実際何ができるのか
●実際何ができるのか
AIグラスはAIをウェアラブルにするもの、つまりいちいちスマホを取り出さなくてもすぐに使えるものとして開発されているものだ。声をかけてすぐに呼び出せるスマートスピーカーに近いが、モバイルでも使用できるところが強みになる。
例えば「翻訳」は、外国人のスピーチを聞いたり、コミュニケーションをとる必要がある人には便利な機能だ。スマートフォンでも同様の機能を提供するアプリはあるが、目をスマホに向けていないと使えないのに対し、AIグラスなら相手を見ながら、あるいはプレゼン資料を見ながらでも対訳が得られるところがポイントである。
「字幕」は「翻訳」と似たような機能だが、翻訳するのではなく、聞き取った言語そのままで文字起こしする。日本語で話せば、その通りの文字が表示されるわけだ。
これは話が聞き取りづらいうるさい場所での会話に役に立つだけでなく、難聴などの聴覚障害者にとっては、補聴器に代わる重要な機能だ。
「テレプロンプター」は、長尺のスピーチやプレゼンを行う際に、グラスに原稿が表示できる。原稿に合わせてしゃべるとその部分がハイライトされ、自動的にスクロールしていく。原稿を読み上げるようなスピーチやプレゼンではなかなか人の心を動かせないが、観客を見ながら話すことで説得力が生まれる。
ナビゲーションは、簡単な地図と音声ガイダンスによって、目的地までサポートしてくれる機能だ。スマホの地図を見ながら歩いている人も多いが、周囲の注意がおろそかになって段差につまづいたり人にぶつかったりする懸念があるところだが、周囲を見ながらでも使えるのが強みだ。
このように、ビジネスシーンでは結構使いでのある機能が多いと感じる。スマホでも同様のことができるが、いちいちスマホを取り出さなくても、相手を見ながら実行できる。
これは確かにスマートではあるが、AIを使ってこちらが何かをしているということが相手に認識されないことが問題になるケースも出てくる。
例えば「会議メモ」という機能は、しゃべっている内容を録音して文字化する機能だが、録音中は特にメガネに録画ランプなどが点灯するわけではないので、無断で録音されていても相手にはわからない。
次ページへ
日常使いには限界が
●日常使いには限界が
一方で、日常的な使い方と言われると、はたと困る。例えば「VisionAI」はカメラに写った花を知りたい時には役に立つが、そんなにいつもいつも花の名前を知りたいわけではない。
また日常生活でそんなに山ほどわからないことがあるかというと、そういうこともない……というかそんなにわからないことだらけなら日常生活ができてないだろうということである。例えば急に海外で暮らすことになった、現地語が全然読めない、みたいなケースでは役に立つとは思うが、それは自分にとっての日常生活から離れたということである。
AIグラスでは「AIを日常のものへ」というコンセプトが重要視されるが、日常生活はこれまでもAIなしで回っている。そして日常生活の中心は、主に人間のフィジカルな活動で構成される。手足を持たないAIをそこに足しても、結局動き回れるのは人間しかいないので、余計なことが増えるだけである。家電をAIでコントロールできるようになればまた違うのかもしれないが、それはスマートスピーカーがやろうとしたものの、普及率は大きくない。
もう一つの難点は、グラス上に表示された文字は、人間が動き回っているときには読めないということである。頭部の動きに文字がくっついてくるので、歩きながら、あるいは片付けしながらといった動き回っている状態では、テキストがグラグラして読めない。歩きながら本が読めないのと同じ話である。
むしろそうした使い方をするなら、ディスプレイの文字に頼らず音声読み上げを聞き取ったほうがいい。ただ音声は、重要な部分をもう一度確認したい時に不便である。文字ならその場にとどまっているので、もう一度読むことが可能だが、音声は消えてなくなってしまう。
目と耳から入れる情報の種類をどのように使い分けるのか、そこはまだ完全な解が見つかっていないと感じる。
●現時点でのカメラの存在
AIグラスで問題となっているカメラ機能は、写真を撮るためにボタンを押すというアクションがあり、カメラ横にLEDが点灯するので、撮影の有無が把握できる。また動画に関してはLEDが点きっぱなしになるので、録画されているのが相手方にもわかる。Rokidの場合、動画の連続撮影時間は10分に制限されている。
無断撮影は、それを嫌う人々から強制排除や出入り禁止といった強い抵抗に遭うということは想像に難くない。無用なトラブルを避けるために、飲食店や撮影が禁止されているショップなどではAIグラスを外すなど、社会的なコンセンサスが得られるまでは使用者側で配慮したほうがいいだろう。
カメラの用途としては、今のところ写真や動画を撮るとか、ものの名前を教えてくれるほか、紙の論文を写して要約させるといった機能がある。カメラはAIの目として必要とされているが、本格的な脅威はこれからだろう。
例えば顔を見ただけで名前が出てくるみたいな機能を実現するためには、背後に顔のデータベースがなければならないわけだが、そうした顔と名前が紐づけられたデータベースを所有するのは、マイナンバーを所管する官公庁か、Facebookのような実名顔出しSNSを運営するMetaのような一部企業に限られる。
RokidはそうしたSNSを運用しておらず、そうした機能を実現するなら何らかの顔データベースと接続しなければならない。そうした機能の実現性がもっとも高いのはMetaだろうが、Facebook等SNSでの利用規定とAIの利用規定は別になっているので、そのままそれが接続されるわけではない、と思いたい。
一方でAIグラスで撮影した顔に関しては、AI側での利用規定に限られるので、学習に使われる可能性はある。とにかく、カメラ付きAIグラスと何らかの顔データベースが接続される時が、一番警戒すべき瞬間だろう。
次ページへ
警戒もされる近未来的デバイス
AIグラスは、近未来的デバイスとして賞賛されている。だが、全人類がこうしたメガネをかけることが本当に未来の姿なのか。こうした疑問を、7月8日に開催されたRokidの発表会の際に、Rokid グローバル広報・ブランド責任者のBen Liu氏に聞いてみた。
「創業チームは10年後の人間とAIのインタフェース形態について、長期的に議論しています。現時点でメガネは、人間の感覚器官である目と耳、そしてしゃべる口の3点にアクセスできるもっとも優れた形態であるため、今後5〜10年は主流であり続けると思います。しかし技術の進歩は速く、30年前には現代のスマートフォンの形は想像できなかったように、現時点では次の形態を正確に描くことは難しいです。眼鏡を超える新デバイスの出現の可能性は否定できません。我々は人間とAIのインタフェースを継続的に探索していきます」
メガネは、視力矯正のためだけでなく、日差しを遮ったり、ファッションアイテムであったりといった、様々な用途で使われている。また素材やデザインにも流行があり、バリエーションも多い。軽量化もかなり進んでいる。
一方でメガネにAIによる情報端末としての機能がプラスされると、メガネ自体は画一的になる。メガネという存在にAIが相乗りした状態は、メガネが発展したように見えるが、多様性という点では逆行することになる。
またAIグラスに対して視力矯正レンズを追加する場合、毎回特注のレンズを制作しなければならず、メーカーが違ってしまえば互換性がない。AIグラスを乗り替えるたびに2万円から4万円の追加投資が必要になることが、正解だとは思えない。
「メガネの次」が発明されるまでは、AI機能は既存のメガネにくっつけるような形態が望まれるようになるのではないだろうか。
AIグラスは、今この発展途上の時が一番面白いともいえる。かつてのPC、ガラケー、スマホの黎明期を思い出してみると、今経験しておけば先行者利益が得られる可能性はある。
一方で無邪気に面白い面白いだけでは済まされない、社会問題に巻き込まれる可能性もある。AIグラスに乗るか反るか、ガジェット好きの人の間でも、揺れている。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。