
掛布雅之インタビュー 前編
三冠王を射程圏内にとらえている佐藤輝明。その佐藤を上回る25本塁打(成績は8月3日時点。以下同)を放つなど、さらなる成長を見せる森下翔太。ふたりに続こうと一定の活躍を見せるも、プロの壁にぶち当たっているゴールデンルーキーの立石正広。
阪神の現在と将来を担うバッターたちに対して、球団のレジェンドはどう見ているのか。1985年に4番打者として球団初の日本一に貢献するなど、長らく阪神の4番を務めた掛布雅之氏に、各選手のバッティングを分析してもらった。
【佐藤が打率も残せるようになった理由】
――ここまでの佐藤輝明選手のバッティングをどう見ていますか?
掛布雅之(以下:掛布) 今まではホームランのイメージが非常に強かったと思いますが、やはり確実性も求められます。では、どうすれば打率を上げていけるかと考えた時、"引き算"をして無駄なものを排除していったんじゃないかと。
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だから、テイクバックをはじめ、全体の動作がコンパクトになりましたよね。昨季に40本の本塁打を記録したことで、「それほど力を入れなくても、ボールの飛距離は変わらない」という手応えをつかんだのではないでしょうか。
――阪神の生え抜き選手でシーズン40本塁打を達成したのは、掛布さんと佐藤選手を含めて4人だけです。やはり、自信がついたことが今季のさらなる活躍につながっているんでしょうか?
掛布 昨季に本塁打と打点(102打点)の二冠を達成し、チームをリーグ優勝に導いたわけですから、自分が取り組んできた野球に対しての自信も深まったと思います。「足りないのは3割だ」というように、明確な目標ができたとも言えますよね。
――バッティングがコンパクトになっても、相変わらず飛距離が出ていますね。
掛布 コンパクトになると打球が飛ばなくなる、と考えがちなのですが、コンパクトになればバットの芯にボールが当たる確率は上がります。今季、三冠王を狙える数字を残せているのは、コンタクト率が上がったことが大きな要因だと思います。
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――三冠王を達成する可能性はどのくらいあるでしょうか?
掛布 大いにあると思います。僕らの時代は.350くらい打たないと首位打者を獲れませんでしたが、今3割打てば獲れるわけですから。前半戦の最後のほうは状態が落ち気味でしたが、三冠王の可能性は十分あります。球宴前最後の試合(7月26日の巨人戦)でいいホームランが出ましたし、いい手ごたえがあったはずです。それをきっかけに復調してくれればいいですね。
【森下の「右手首」、立石の「左足」の使い方を分析】
――3番を担っている森下翔太選手に関してはいかがですか? 昨季から、バッティングでよくなっている部分があれば聞かせてください。
掛布 右手首の使い方がすごくうまくなったんじゃないですか。右手首を"返さない"ままバットを振れているんです。実際に返さないということでなく、もちろん最終的には返すのですが、体の回転と連動して自然に返すことができているということです。あまり早く返してしまうとゴロになってしまうのですが、そこを我慢できているので、あれだけ打球が上がってホームランが増えているんだと思います。
――逆に、森下選手の状態がよくない時のバッティングの特徴は?
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掛布 彼は入団当初から強く振る力はありました。ただ、強く振ろうとすることによって、右の肩が下がりすぎてしまうんです。「右サイドが潜る」とも言いかえられますが、強く振ろう、打球を上げようとすると、そういった彼の悪い癖が出てくる。
それでも年々キャリアハイを更新していっているわけで、十分な働きをしてくれています。森下と佐藤の3、4番と、そのうしろを打つ大山悠輔は立派ですよね。
――ルーキーの右打者、立石正広選手のバッティングはどう見ていますか? 一軍の30試合に出場し、打率.206、2本塁打、10打点。8月2日にベンチメンバーを外れました。
掛布 左足の使い方が気になるんですよ。独特な使い方で、アマチュア時代はそれで打ってこられたからいいと思うのですが、課題はあるような気がしますね。
あの左足の踏み込みでは、インコースの速いボールに対して対応するのが厳しいと思うんです。ちょっと左足の膝が伸びるような形で前に踏み込んでいくので、体の軸が「前上がり・後ろ下がり」みたいな形でボールをとらえにいくことになる。そこが気になるんです。
長年染みついた彼の打ち方があるでしょうし、プロでもそれで打てればいいんですけどね。外国人の右バッターに対して、よくインコースの高めの速いボールと外の変化球のコンビネーションで攻めたりしますが、そういった攻め方をされた時にもろさが出るような気がします。
――そこの対応は、打席数をこなしていくしかないのでしょうか?
掛布 そうですね。いろいろなピッチャーとの対戦経験を積んで、たくさん失敗をすることです。そのなかで自分の課題が明確になるはずなので、打撃コーチやデータを分析するスタッフたちと話をしながら改善していくしかないです。
バッティングフォームを変える勇気は、失敗しないと生まれません。失敗することがなく打てるのならば、それはそれでいいんです。でも、今の立石は自分がやってきた野球にやや壁を感じているでしょう。そうであれば、怖いことかもしれませんが、勇気を持ってバッティング改造に取り組んでもいいのかなと思いますね。
(後編:阪神がリーグトップの「死球」について掛布雅之が見解 ピッチャーとバッター、双方に必要なこととは?>>)
【プロフィール】
掛布雅之(かけふ・まさゆき)
1955年5月9日、千葉県生まれ。習志野高校を卒業後、1974年にドラフト6位で阪神に入団。本塁打王3回、打点王1回、ベストナイン7回、ダイヤモンドグラブ賞6回、オールスターゲーム10年連続出場などの成績を残した。球団初の日本一になった1985年は不動の四番打者として活躍。1988年に現役を引退した後は、阪神のGM付育成&打撃コーディネーター、2軍監督、オーナー付シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、HANSHIN LEGEND TELLERなどを歴任。野球解説者や評論家、YouTubeなど活躍の場を広げている。
浜田哲男●取材・文 text by Tetsuo Hamada