
東京・江戸川河川敷の江戸川区花火大会で世界一高く上がる花火「富士の大仕掛け」が夜空を飾った8月1日の昼、河川敷から南西15キロの東京・江東区若洲の野球グラウンドでは、日仏の野球少年60人余りが、大きな飛球を追って、共に青空を見上げていた。この日、パリの少年野球チーム「パリ大学野球倶楽部」が、江戸川北と江東の両リトルシニアとの初めての“野球交流”のためグラウンドを訪れていた。
パリ大学野球倶楽部の一行は、中高生選手14人と保護者の計20人余り。日本到着は7月30日で、一部の人を除き8月13日に帰国する。7月31日は神宮球場でプロ野球のヤクルト対阪神戦を観戦。8月1〜2日は江戸川北、江東の両リトルシニアチームと合同練習や練習試合を行った。8月5日は夏の全国高校野球の開会式も見学。2週間の滞在中には甲子園目指して日本の高校に在学する元チームメイトとの再会も予定されているという。
▼日仏文化の違い
8月1日は午前10時過ぎ、江戸川北リトルシニア野球協会事務局長・堀江康之さんや江東リトルシニア野球協会事務局長・大竹努さんらが新木場駅で一行を出迎えた。一行は予定より20分近く遅れて到着。共通の知人を介して日本側の堀江さんと一緒に今回の交流会を1年前からパリ側で企画・準備したダルマーニュ洋子さんは「日本人は時間に正確だから、子どもたちには早く行きましょうと言ったのですが…」と堀江さんに言葉を掛けた。日仏の文化の違いを理解している堀江さんは「万事承知しています。気にしないで」と笑顔を見せて一行をマイクロバスに案内した。
▼日仏野球交流さらに豊かに
日本側は両リトルシニアチームに所属する中学1〜3年生およそ60人と大勢の保護者らが、この日の交流を記念して制作した垂れ幕を掲げた野球グラウンドでパリ一行を待ち受け、交流記念のため制作したタオルを振りながらマイクロバスを降りる選手たちを歓迎した。
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合同練習開始に先立ちあいさつした江戸川北リトルシニア野球協会副会長・青木葉伸さんは、渡仏して野球のフランス代表監督を務めた元阪神監督の故吉田義男氏(1933〜2025年)のフランス野球界への貢献に触れ「吉田さんがパリで育んだ日仏野球交流の絆を、今回のここ東京での交流を通じてさらに豊かなものにしていきましょう」と交流の意義を語った。
8月1日は、江戸川区花火大会の人出で、江戸川北リトルシニアの同区内のホームグラウンド周辺が大混雑するため、堀江さんから、8月1〜2日の会場提供を要請された江東リトルシニア野球協会の平岡勝美会長は「東京の下町のチーム同士です。もちろんOKですし、こちらの中学3年生も参加すればよい経験になるので一緒に交流会を共催することになりました」と話した。
パリ側は家族4人で来日したアレックス監督があいさつ。「盛大な歓迎をありがとうございます。日本の少年野球を見ることができてとてもうれしいです。合同練習や練習試合で学んだ日本の野球の長所を取り入れていきたい」と話した。アレックス監督の仏語あいさつは、ダルマーニュ洋子さんの息子、中学3年のルークさんが通訳した。ルークさんは「今回は一生懸命に通訳して日仏の交流を深めていきたい」と話した。
合同練習後に取材に応じたアレックス監督は「日本チームのピッチングも守備もバッティングも基本がしっかりしています。エラーはほとんどない。反復練習の成果だと思います」と語った。アレックス監督は9歳から野球を始め、父も兄も野球をやっていた野球一家に育ち、セミプロの野球選手としても仏で活躍している、という。「野球は私の人生の一部」というアレックス監督は、プロ野球や甲子園観戦などの日程を組んだ今回の初来日をとても喜んでいる様子だった。
▼江戸っ子「メルシー」で歓迎
勢ぞろいしてパリ一行の正面に並んだ江戸川北、江東の両選手60人余りは脱帽した上で、キャプテンの掛け声に応じて、セミの声にも負けない大きな声で「メルシー」(ありがとう)と唱和。日本側の少年の元気で純朴な仏語のあいさつは、初対面のぎこちないグラウンドの雰囲気を一瞬で変え、大きな拍手がパリ一行から起きた。
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▼シートノックの合間に会話
合同練習は選手が定位置についてのシートノックとバッティング練習。サードでノックを受けたのは日本側3人と仏側2人。5人はノックを受ける順番などを身振りで確認し合ったり、お互いの上手な守備(捕球、送球)に対してはグローブでハイタッチして相互のプレーをたたえ合うなどして徐々に距離を縮めていった。待機時間になると「ハウオールドアーユー」「サーティーン」と英語で簡単に自己紹介したり、「ナルト」「ドラゴンボール」など日仏両国で人気の漫画・アニメ名を言い合い、親交を深めた。
バッティング練習では日本側がバッティング投手を務め、仏側の体の大きな少年は快音を次々と飛ばした。大きな当たりを連発した高校1年生のリュカさんは、母親が日本人で日本語を話せる。「パリの生活のことなどを日本の選手から聞かれてうれしかったです。学校生活のことなども聞かれました」と述べ、お互いが双方の普段の生活に関心を持ち、質問し合ったという。
リュカさんの母親の千葉恵子さんは「私の地元に帰った際は、地元の野球チームの練習に息子は参加させてもらっています。今回の交流も含め、息子は日本でとても貴重な経験をさせてもらっています」と喜んでいた。
江戸川北リトルシニアの中学2年、菊池竜槙さんは「野球のことは手などを使った身振りで意外に通じました。知っている英単語を使ってお互い好きな漫画・アニメが一緒であることを知ってうれしかったです。フランス人と話したのは初めてだったので僕にとってはとても貴重な経験でした」と話した。
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▼夏祭りの気分味わって
選手たちが合同練習に精を出している間、日本の保護者は、飲み物を選手に手渡したり、鉄板の上で焼きそばを作ったり、肉を焼いたりして大忙し。
さらにパリ一行に少しでも日本の夏祭りの雰囲気を感じてもらおうと、昼食後にスイカやかき氷を振る舞ったほか、ビニールプールに張った水にヨーヨーとスーパーボールを浮かべ、ヨーヨー・スーパーボールすくいの“模擬屋台”を設けて、パリの少年たちに体験してもらった。
パリの少年たちは勝手が分からず当初悪戦苦闘したが、日本の少年の手ほどきですぐコツをつかみ、獲得したヨーヨーを手の平でたたいて遊んでいた。
▼国際平和につながる草の根交流に
野球の合同練習だけでなく漫画アニメの話、ヨーヨー遊びでも交流した日仏両国の少年たちの姿を見ていた、夫と息子の3人で来日したダルマーニュ洋子さんは「日本の皆さんがここまで準備して歓待してくれたことにパリ側はみんな感激しています。ここにいる子どもたちが仲良くする姿を見ていると将来に明るい希望が持てます。ヨーロッパに住んでいるとウクライナなど戦争と平和の問題が身近なこととしてあります。今回の小さな子どもたちの草の根交流が、日仏両国の交流、将来の国際平和を築く上で必ず役立つと信じています」と民間交流の重要な役割を語った。
今回の交流会を1年前から準備した江戸川北リトルシニア野球協会事務局長の堀江さんは「パリ側は、あいさつや野球用具の整理整頓など日本の少年、学生野球に昔から伝わる野球文化をパリの同年代の子どもたちに体感してほしいという思いがありました。今回の交流会が、こうした野球文化をはじめ、日仏の少年がお互いの国の文化に関心を持つきっかけになってくれたらうれしいです」と話した。
