日本発の「夢の電池」はどうなったのか 動き出した再生計画

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2026年08月14日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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普通の電池と何が違う?

 次世代リチウムイオン電池として、世界から注目を集めていた「全樹脂電池」。その旗手であった福井県越前市のスタートアップ、APBが負債34億8500万円を抱え、福井地裁から破産手続き開始決定を受けたと報じられたのは、2025年4月だった。


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 同社は、かつて日産自動車でEV「リーフ」のバッテリー開発を主導した堀江英明氏が創業。日本の技術力を象徴する存在だったといえる。しかし一方で、「夢の電池」といわれた全樹脂電池の開発・量産化の難しさ、そして資金繰りなどを含む経営体制の混乱、さらに国家の安全保障をも揺るがす「技術流出」の懸念もあった。


 そんな「夢の電池」がその後どうなってしまったのかと気になっていたが、2026年6月、米スタンフォード大学で行われた「日米研究連携ウイーク」というイベントにおいて、全樹脂電池に関する発表が行われていたことが分かった。その発表の映像を見ると、「夢の電池」の開発は、実はまだ続いていることが分かる。


 そこで、破産という“どん底”を見た「夢の電池」が今、どのような状況になっているのか探ってみた。


●再び動き始めた「夢の電池」開発計画


 そもそも、APBが直面した危機は、単なる資金繰りの悪化にとどまらない。事の発端は、同社が「実態不明な企業」とされる福岡県のトリプルワンによって、事実上、経営権を掌握されたことにあった。


 堀江氏は、通常の蓄電池より安全性が高く、2倍の蓄電能力を持つ全樹脂電池の量産化を目指していたが、2024年に突如、代表取締役を解任された。筆頭株主となったトリプルワン側は、中国の通信機器大手ファーウェイの幹部をAPBの工場に招き入れるなどしていたとされる。


 国策としてNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から75億円もの助成金が投じられた事業で、軍事転用も可能な重要技術が中国へ流出した可能性は、国会でも指摘された(2025年2月27日衆議院・予算委員会)。


 この経営体制の混乱によって、APBは破産へと追い込まれた。国の助成金も活用されている事業における経営陣の交代劇と係争は投資家の不信を招き、「次世代電池の量産化」という膨大な資本を必要とするプロジェクトは勢いを失った。


 しかし、「夢の電池」のポテンシャルを信じる動きは途切れていなかった。最新の資料によれば、破産したAPBの技術は現在、新会社「クリティカルパス」に移り、新たな投資計画とマイルストーンを設定。再生に向けて動き始めている。


 特筆すべきは、2026〜27年の具体的な量産計画だ。2026年中には、福井県の武生工場において先行実証ラインを再稼働させ、商業出荷の開始を目指している。さらに、2027年には、長崎県佐世保市で量産工場を稼働させる計画で、年間売上高5億6000万ドル(約840億円)を目指すという。


 この再生計画を支えるのは、累計2億3300万ドル(約350億円)におよぶ過去の研究開発投資と、国内外で取得した338件の重要特許などの知的財産である。投資家の評価も回復の兆しを見せており、今後は1億ドル以上の資金調達を計画している。


●なぜ「全樹脂電池」が期待されるのか


 「全樹脂電池」がこれほど注目され続けるのは、やはり、従来型のリチウムイオン電池が抱える課題を解決するという期待があるからだ。


 というのも、現在、モバイルバッテリーによる事故が後を絶たない。2025年には、JR山手線や水戸駅、東海道新幹線、上越新幹線でモバイルバッテリーが発火したケースが報告されている。さらに2025年1月、埼玉県川口市のごみ処理施設において、一般ごみを貯留する「ごみピット」で火災が発生し、施設の一部が損壊して一般ごみの受け入れが長期間停止した。現地調査では、リチウムイオン電池が原因との見方も出ている。


 海外でも、2025年9月には韓国でリチウムイオン電池が交換の際に出火し、公務員向け文書保管基盤「G-Drive」が焼失。最大858テラバイトの保存文書が喪失したと政府当局が明らかにした。税務、郵便、行政ポータルなどのオンライン政府サービスに重大な障害が生じた。


 このように従来型バッテリーの最大の弱点は、熱暴走による火災リスクだ。集電体に金属箔を使用する限り、電流急増による発火は物理的に避けられない。これに対し、APBが開発してきた電池は樹脂集電体(オールポリマー)を採用するため、発火リスクを抑えられる。


 また、電池を単なる消耗品とせず、安定して使用を続けられるのも「夢の電池」の特徴だ。独自の「真空製造プロセス」により、電池劣化の元凶である水分を徹底的に排除。これにより、サイクル寿命は従来比3倍となる1万5000回以上に達し、30年間の物理的寿命を実現するという。


●開発者たちの熱意は消えていない


 さらに、こうした技術は日本の経済安全保障においても極めて重要だ。


 現在のサプライチェーンは、リチウムイオン電池の主流な負極材である黒鉛(グラファイト)をはじめ、中国製材料への依存度が高い。しかし、全樹脂電池はグラファイト負極を必要とせず、日本、米国、欧州などから材料を調達できる。これにより、地政学的な供給中断や輸出規制のリスクを大幅に軽減できる。


 一度は経営体制の混乱と破産に追い込まれた「夢の電池」。しかし、「この技術をなんとしても量産化させたい」という開発者たちの熱意は今も消えていない。彼らが開発してきた技術は、単なる効率の良い電池ではなく、人類がエネルギーを安全に扱うための重要な技術となり得る。


 福井の地から始まった「第二の電池革命」が、再び日本を代表する技術として世界を席巻できるだろうか。逆境をはね返し、国内の工場で新たな電池の量産化を実現できるまで、日本発の「夢の電池」の再生を注視したい。


(山田敏弘)



このニュースに関するつぶやき

  • ま、いくら素晴らしい技術を開発しても、それをマネるのは簡単なんだよね。特許だけではもちろん守れない。そこのところをどうするか。
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