
「高市早苗首相の熊本視察のショート動画に対して、SNS上で多くの人が『なんか違う!』と直感的な違和感を抱いているようです。私は映像ディレクターの立場から、この首相官邸が制作した動画の『映像の作り方』を対象にして、専門的な視点から細かく分析・言語化しようと試みました」
こう話すのは、映像ディレクターの牟田高太郎さん(ペパーミンツ株式会社代表取締役)だ。
《プロモーションビデオですか?》
《高市首相のCMみたい》
8月3日に熊本地震の被災地を高市早苗首相(65)が視察した様子を、首相官邸がショート動画として配信したところ、X(旧Twitter)などではこんな違和感を表明する人が続出した。
NHKのドキュメンタリーから企業、大学、文化施設の映像まで幅広く手掛ける牟田さんも、映像のプロとして動画に違和感を覚えたという。そこで映像を詳細に分析。「熊本地震視察動画を、映像ディレクターとして本気で分析する」と題した記事をnoteに投稿したところ、大きな反響があった。
|
|
|
|
改めて、牟田さんと高市首相の被災地訪問動画を振り返った。
■ヒーロー性を強調する映画的アングル
動画は113秒の長さで、防災服を着た高市首相がヘリコプターに乗り込むシーンから始まる。
「気になったのは、高市首相がヘリコプターから地上に降りて登場するシーンのカット割りです。報道や記録を目的とするのであれば、一つの動作をもう少し長いカットで見せればいいところを、あえて1秒くらいずつの短い映像をいくつもつないで編集しています。これは『臨場感』や『躍動感』を強調した手法で、『いまから始まる感』を強く出すSNS的な編集といえます」
その後、高市首相が被災者と対面する場面に移り、優しいピアノのBGMが始まる。
|
|
|
|
「被災地視察の報告動画に感動的な音楽が必要なのか? という疑問を持たれた方は少なくないと思います。
冒頭のヘリの場面では現場の音を生かして、この対話シーンからBGMを入れるという構成は高市首相が被災者に寄り添う印象を強める映像の設計だと感じます」
そこから、ヘリコプターのなかで高市首相が上空から被災地に合掌をするシーン、ふたたび被災者と対話したり避難所を視察したりするシーン、記者会見のシーンと、場面が目まぐるしく移っていくが、牟田さんが気になったのはカメラアングルだという。
「記録用や報道の撮影の場合、一般的にカメラマンは肩の高さでカメラを構えますので、おおよそ高市首相の目の高さに近い位置から撮影されます。しかし、動画にはローアングルから首相を見上げるように撮影している場面が多くありました」
ローアングルは「ヒーロー性や、威厳・存在感を強調する典型的な映画的アングル」だと牟田さんは言う。
|
|
|
|
「本来、政治家の視察という記録性を優先する映像であれば、こうしたアングルを積極的に選択する必然性は低いと思います。たとえば、結婚式の撮影で、新郎・新婦を主役として際立たせる場合や、怪獣映画の登場シーンなどで使われるアングルです。
誰の判断によるものか、どのような事前協議があったのかは、映像だけから判断することはできませんが、こうした画角は撮影段階で意図的に選択されたものだと言うことはできると思います」
さらに、被災者と握手する場面では、スローモーションの技術も使われている。
「スローモーションには、緊迫した場面や感動的な瞬間を強調し、視聴者の印象に残すといった感情を増幅する効果があると言われています。
BGMもスローモーションも、SNSで動画を最後まで見てもらう一般的な手法とはいえますが、公的な視察動画には、首相が現場で何を見て、何を把握したのかを国民に伝える役割があります。その点で、感情を強く喚起する演出とのバランスには慎重さが必要だと思います」
映像上、誰が主役として描かれているかは明確だと牟田さんは分析する。
「動画の大半は高市首相の表情を追っています。しかし本来、被災者の状況や思いを映すなら、被災者の表情を映すのが記録や報道の基本です。
しかも、被災者を撮るときも、高市さんの肩越しに撮るという『対談番組のような構図』を採用し、大半のカットに首相の存在感を滲ませています。つまり『この映像の主役は高市首相である』というメッセージが徹底されているんです」
■トランプ政権の映像を模倣している可能性
牟田さんは、高市首相の被災地訪問動画を、世界的な潮流に沿ったものだと考えている。
「最初にこの映像を目にしたときの印象は、『日本政府もSNS向けの動画を本格的に作るようになったのだな』ということです。『公権力の情報発信に、現代の映像制作の技術が実装され始めた』転換点になるような映像ともいえます。
世界では、第二次トランプ政権に入ってからのホワイトハウスが、映画的・ハリウッド的な“ヒーローとしてのトランプ”を描く映像を積極的に発信してきています。高市さんが訪米した際にも同様の映像が作られ、日本でも反響がありました」
今回の高市首相の被災地視察動画も、そうした世界的なSNS映像のトレンドとして捉えることができるという。
「ホワイトハウスが積極的に発信してきた映画的な政治広報映像と、今回の動画には表現上の共通点を感じました。ホワイトハウス発信の世界的影響力の大きさが、日本政府にも影響を与えていると考えられます」
映像の作り手としては、懸念も示す。
「最大の違和感は、被災地や被災者の状況以上に、一人の政治家が主人公のように見えることです。本来伝えるべき被災地の情報と、政治家を印象付ける映像表現とのバランスには、慎重であるべきだと感じます。映像ディレクターとして、強い不安を覚えました」
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。

外出自粛令も? 2050年の天気予報(写真:TBS NEWS DIG)144

外出自粛令も? 2050年の天気予報(写真:TBS NEWS DIG)144