
「AIエージェントの導入で、カスタマーサポート人員を9000人から5000人規模へ縮小する――」。
米Salesforceのマーク・ベニオフCEOは2025年8月末に配信されたポッドキャスト番組で、グローバルのカスタマーサポートの人員を9000人から約5000人に減らしたと述べた。AIエージェントが問い合わせ対応を担うようになったためだ。
同社はその後、これは人員削減ではなく「再配置」であり、対象となった社員はプロフェッショナルサービスや営業、カスタマーサクセスへ異動したと説明している。
AIエージェントが業務を担うようになれば、人は別の仕事に移ることになる。その際に、人は新たな仕事をどう覚えるのか。みらいワークス総合研究所が2026年5月に公表した調査で、リスキリングに取り組む従業員500人以上の企業の担当者321人にリスキリングの阻害要因を尋ねたところ「指導者・メンターが不足している」が25.9%で最も多かった。AIを扱う人材を誰がどう育てるのかという問題は、まだ答えが出ていない。
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セールスフォース・ジャパンでも、社内でのAIエージェント活用に伴い、営業組織の役割やキャリアパスが変わり始めている。同社は全社員へ「AI免許」の取得を義務付け、人とAIの両方を率いる新マネジャー像や、顧客の現場に潜り込む新職種「FDE」(フォワード・デプロイド・エンジニア)を生み出し始めた。田中遼太専務執行役員COO(最高執行責任者)に、人とAIエージェントが並んで働く組織で、人材の育成と評価をどう設計しているのかを聞いた。
●単なる人員削減? AI時代の「人員整理」が意味するもの
――AIエージェントによる効率化を進める中で、人員削減という話も当然出てくると思います。同業他社では新卒採用を停止する企業も出てきていますが、こうした人員整理の問題に、どう向き合うべきだとお考えですか。
まず何を人が担い、何をエージェントに任せるかという業務の設計から考えるべきだと思っています。その結果として、採用する役割の特性は変わっていく可能性があります。例えば、これまでインサイドセールスとして採用していたポジションが、別の形での新卒採用に変わっていくことはあり得ます。
ただ、それによって単純に人が減る、いらなくなるわけでは決してありません。ロール(役割)が再定義される中で、新卒採用のルートやポジションも変わっていきますし、既に社内にいるメンバーについても、これまでになかった新しいロールが生まれています。
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顧客との接点を増やし、営業活動の質と量の両方を高めたい。その目的のもとで、新しいキャリアパスで仕事をする機会が生まれており、こうした流れは今後さらに加速していくと考えています。IT部門と人事部門の垣根も近くなり、人材戦略の一環としてエージェントをどう扱うかという発想も出てくるはずです。
●顧客の現場でAIを実装する新職種「FDE」 営業のキャリアが高速化
――ではAI導入によって、社員(人)の仕事はどう変化したのでしょうか? これまでの仕事がAIに置き換わったメンバーは、その後どんな形で価値を発揮していますか。
営業改革の話が分かりやすいかもしれません。これまでインバウンド対応を中心に担っていたインサイドセールスのメンバーが、より早い段階でアウトバウンド業務に携われるようになったり、アウトバウンドを担当していたメンバーも、各自がエージェントを使いこなす中でスキルを上げ、よりフロントに近い仕事にシフトする機会が増えていったりしています。
そうした意味で、キャリアが進むスピード自体が上がっていると感じています。役割そのものは大きく変わらないケースがある一方で、キャリアの方向性そのものが変わっていくケースもあると思っています。
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近年、AIエージェントを提供する手法は変わりつつあります。従来のように大掛かりなプロジェクトを立ち上げて要件定義に時間をかけるのではなく、シンプルなユースケースであれば、顧客の現場に直接入り込み、数日〜数週間で即興で組み上げる実動部隊が求められています。それがFDEという新たな役割です。自社プロダクトを知り尽くした営業やエンジニアが、顧客の隣で一緒にAIを作り上げていくスタイルへと役割が進化しているのです。
顧客がより早く価値を実現したいと考えている現在、フロントに立つ人間にとっても、営業活動にとどまらず、顧客の求める形を実際に作り上げて提供していくことが求められていると思います。
当社はAIエージェント以前から長くCRM(顧客関係管理)のサービスを扱い、レポートやダッシュボードによって営業活動を「見える化」する取り組みを続けてきました。セールスフォースの強みは、データがきちんと格納された状態で、誰でも簡単にレポートやダッシュボードを作成し、そのまま業務に活用できる点にあります。
当社の営業も、AIエージェントを顧客にデモンストレーションとして見せるだけでなく、状況に応じて顧客と伴走しながら一緒に作り上げてきました。こうした動きが発展していく先にFDEという役割があると考えると、今後はツールを活用しながら、営業活動だけでなく、顧客にどう価値を届けていくかという領域そのものが広がっていくと考えています。
●全社員に「AI免許」義務化 マネジャーは「人とAI」を束ねる時代に
――AI活用を組織全体で進めていくにあたって、社員のスキルアップを制度として支える仕組みもあるのでしょうか。
当社ではリスキリングの一環として、全社員がAIエージェントプラットフォーム「Agentforce」に関する資格を、取得しなければならない仕組みがあります。同資格を取得すると、バッジが得られる制度で、社外の一般の方も無料で受講可能です。エージェントの作り方をステップバイステップで学べる内容になっています。
レベルは、チャンピオン、イノベーター、レジェンドの3段階があります。社員は営業や技術といった職種にかかわらず、全員が最初の「チャンピオン」を取得する必要があります。グローバルのリーダーシップミーティングに参加するようなリーダー層は「イノベーター」の取得を必修としていて、既に「レジェンド」を取得している社員もいます。いわば運転免許のようなもので、毎年更新が必要な制度になっています。
内容としては、クイズ形式のテストに加えて「サンドボックス」と呼ばれる本番環境に近い検証環境で、実際にエージェントを作成してテストするという実技も含んでいます。
――なるほど、AI活用を当たり前にする制度を設けているのですね。AI時代におけるリーダーの役割は、今後どのように変わっていくとお考えですか。
人だけを管理する時代は、少しずつ変わっていくと思います。エージェントには、ある程度規模の大きいものもあれば、個人が使うレベルのものもあり、粒度はさまざまです。ただ、人がエージェントを使い、自分が業務に充てられない時間帯に代わりに仕事をしてもらい、それを管理していくような流れは、今後さらに進んでいくと思います。
人を管理することと、エージェントを管理することは全く同じではありません。ですが、規模の大きいエージェントを扱う場合、新入社員を育成するように運用を教え、試行錯誤を重ねていく考え方は、必ずしも人を管理するマネジャーでなくても、現場の担当者も担えると思います。そうした意味で、エージェントを管理するマネジャーは今後増えていき「人とエージェントの両方を管理する人」も増えていくでしょう。
●「成長の型」は同じ AIエージェントの正しい“しつけ方”
――エージェントを管理するマネジャーは、どんな点に気を付けるべきでしょうか? これまで試行錯誤されてきた中で、勘所のようなものはありましたか。
エージェントはあくまでシステムですので、その特徴をまず把握することが必要です。気を付ける点は「人とは違う」と認識することではないでしょうか。例えば、エージェントにとって読みやすいデータの形式と、人間にとって見やすいダッシュボードとでは、根本的な仕組みが異なります。
ダッシュボードの使い方をそのままエージェントに教えても、実際にはデータベースから直接データを取得させる方がエージェントにとっては扱いやすいようなケースが起こります。ですので、何を教えるべきかというタクティクス(具体的な手法)自体は、根本的に異なると思います。
一方で、パターンを見つけ、それに合わせて改善していく点は、人とエージェントに共通する部分があると思います。人であれ機械であれ「こういうやり方をすると、こういう傾向が出やすい」ことを認知し、それに合わせて教育や改善を重ねていく考え方は共通しています。両方をできるようになれば、人とエージェントの両方を管理する上で「いいとこ取り」ができると思います。
●AIの判断を「誰が評価」する? 自動化が進むほど問われる人の力
――貴社はAIエージェントによる顧客対応に注力していますね。それ以前は、問い合わせのどこまでを自動化していて、どこから人が対応していたのでしょうか。
段階を追って発展してきています。現在展開しているエージェントは、テキストだけでなく音声も含めて自然言語で対応する、現時点で最も新しい形です。その前の段階でも自動化はしていましたが、同じようにテキストベースでナレッジ(蓄積された知識情報)をやりとりするものにとどまり、今ほど多くの情報量を扱うものではありませんでした。
さらにその前の段階にさかのぼると、いわゆる「bot」(ボット)と呼ばれていた時代があり、決まった問いかけに対して決まった答えを返すだけで、その後の対応や処理を代行する機能はありませんでした。さらにその前は、フォームに名前を入力すると裏側で一定の処理が動くものの、最終的には人が回答するという形でした。
こうして段階を踏んで発展していく中で、人が対応する範囲が少しずつ自動化され、人が担う仕事の内容自体も、より高度なものへと変わってきています。そういった流れと捉えていただくとよいと思います。
――AIによる対応の内容が適切かどうかを判断する場面では、経験の浅い若手のメンバーがマネジャーとして評価する場面もあるかと思います。そうした教育や評価の面ではどのように対応しているのでしょうか。
例えばメール対応であれば、エージェントが作成した文面が適切かどうかを判断する力は、エージェントの管理以前に、インサイドセールスという役割そのものに求められるものです。まずはその教育が土台になります。人が対応する場合とエージェントが対応する場合とで、評価すべき内容自体は変わらないという前提で、エージェントの対応が正しいかどうかを見ていくことになります。
実際には、現場の担当者が全てを評価して直接AIに反映させるような運用はしていません。まずマネジャーが評価内容を確認し、自社実践(カスタマーゼロ)を推進する私のチームへフィードバックします。そこからグローバル開発チームと連携して精査を重ねた上で、AIの精度向上につなげる二重のチェック体制を敷いています。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
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