自作沼への入り口か? ロジクールGの新ゲーミングキーボード「G512 X 75」は“盛り込みすぎ”な意欲作だった

0

2026年08月25日 12:11  ITmedia PC USER

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia PC USER

新モデル「G512 X 75」のホワイトモデルと別売の「PALMREST 75」

 ロジクールのゲーミングブランド「ロジクールG」シリーズに、新モデルが追加された。「G5シリーズの新たな伝説」と銘打って投入した「G512 X 75」は、ガスケットマウント、デュアルスワップ、True 8Kポーリングと、「初」のタグが3つ並ぶ意欲作だ。


【その他の画像】


 プレスリリースを目にした編集部からは「ロジからゲテキワモノキーボードが出てきた」という声も漏れたという。数多くのキーボードに触れてきた編集部の言う「キワモノ」とはどういったキーボードなのだろうか。


●カスタムキーボードカルチャーからのインスパイア


 販売が始まったロジクールGの新しい有線ゲーミングキーボード「G512 X 75/98」だが、ロジクールのキーボードといえば、MXシリーズに代表される“洗練された工業品”という印象が強い。配列や接続性、ソフトウェア連携といった生産性の領域で堅実に製品をリリースする一方、ガスケット構造や多層フォーム、ホットスワップ対応といった自作キーボード愛好家がこだわる領域とは一線を引いていたように思う。


 その領域は、KeychronやWobkeyといった中国・広東省を拠点とするブランドの主戦場であり、スイッチを供給するGateronやKailhを含め、部材から完成品までが同じ珠江デルタ圏(深セン、恵州などを含む広東省の珠江河口一帯に広がる電子機器工業地帯)の内側で回っている。


 その距離感が変わり始めたのは、2月の「Alto Keys K98M」(以下、Alto Keys)からだ。Alto Keysでは、同社初のガスケット構造として新規開発された「UniCushion」を投入し、コトコトとした柔らかいタイプ感を提示してきた。


 Alto Keysが一般向けラインからの一歩だったのに対し、今回のG512 X 75はゲーミングブランド「ロジクールG」からのアプローチとなる。


 G512という銘こそ継承しているものの、G512 X 75/98による「ロジクールG初」はガスケットマウントとデュアルスワップ、そして「日本初上陸」のTrue 8Kポーリングと、3つにも及ぶ。


 公式資料にも「カスタムキーボードカルチャーから着想を得た」とまで書かれている。果たしてG512 X 75/98は、どこまでこの領域に踏み込んだのだろうか。


●爽やかなカラーリングと高品質なキーキャップを採用


 G512 X 75は、ブラック/ホワイトの2色展開だ。評価機はホワイトで、白いボディーにターコイズグリーンが差し色としてあしらわれている。箱から取り出して机に置いたとき、白×緑のコントラストにどこか見覚えがあると感じたのは、ユニコーンガンダムのサイコフレームを連想したからかもしれない。


 ホワイトモデルに関して言えば、ゲーミングキーボードにしてはずいぶん明るく、爽やかな仕上がりだ。


 本体サイズは約330.2(幅)×155.2(奥行き)×46.6(厚さ)mm、重量は約850gだ。接続はワイヤレス全盛のこのご時世に、あえてのUSB有線専用だが、そのおかげでロジクールGの有線ゲーミングキーボードとして日本初上陸となる0.125ms(8000Hz)の「True 8K」に対応している。


 これはキースキャンからOSが受け取るまでのエンド・トゥ・エンドでの8000Hz実現ということのようだ。


 メカニカルスイッチはタクタイルとリニアが選択でき、同社直販のロジクールオンラインストア価格は、2年間無償保証付で3万2780円だ。リニアの場合は、割引価格となる1年間無償保証も選択できる。


 また、兄弟機として98%レイアウトの「G512 X 98」(同3万6080円/2年間無償保証の場合)も同時に発売されている。


 キーキャップはダブルショット成形のPBTで、消灯時のレジェンドは白地に薄いグレーに見える。ところがバックライトを灯すと、文字がくっきりと抜ける。


 後述のライトバーの影響もあるのか、G512 X 75の透過光は非常に鮮やかだ。書体も、2色成形にありがちなステンシル風ではなく、OやPなどの文字もきっちりと表現されている。


 かな印字なしの日本語配列ではあるが、右側には最大3つ([, {, 「など)の印字がキーキャップ上部に並ぶキーが多く、やや渋滞した印象もある。「、」や「。」は他社製かな印字なしキーキャップでは省略されていることも多いので、ここはロジクールのこだわりなのかもしれない。


 なお、工場出荷時にはEscと矢印キーにはターコイズグリーンのキーキャップが装着されており、交換用の白いキーキャップが5つ付属している。


●24段階の切り替えが可能なラチェット・ダイヤルを2基装備


 本体右上に、プログラマブル・ダイヤルが2基並ぶ。F12キーの脇に張り出すように配置された24段階ラチェットのダイヤルで、双方向の回転とシングル/ダブルクリックに対応する。


 本体奥側、USB Type-C端子の脇には2つの物理ボタンが並んでいる。貴重なトッププレート領域を占有せず、独立したボタンは思いの外に操作性がよい。左のジョイスティックアイコンはゲームモードボタン、右のスキャナ風アイコンは後述するスキャンボタンだ。


 本体には磁気式アナログスイッチ、SAPPリング、交換用キーキャップ、引き抜き工具、それにUSB Standard-A→USB Type-Cケーブルと保証規定が付属する。


●デュアルスワップ対応――キワモノ機構の核心


 G512 X 75で最も目を引くところは、半透明カバーから透けて見えるキースイッチ群だろう。


 冒頭でロジクールG初が3つもあると記したが、キースイッチストッカーの搭載はキーボード史上初かもしれない。これだけで“イカレっぷり”が伝わってきそうだが、これはけっしてイキったデザインのみのものではない。


 各キーキャップの下にはメカニカルスイッチが装着された状態で出荷されているが、ここに並ぶターコイズグリーン軸のスイッチはアナログスイッチとなっている。本機はCherry MX互換のメカニカルスイッチとのホットスワップだけでなく、WASDキーを含む左側のキーと矢印キー、合わせて41キーをTMR磁気式アナログスイッチと物理的に入れ替えることができる。


 従来のゲーミングキーボードはアナログかメカニカルか、どちらを選ぶかがスタート地点だった。この2つの間には互換性がないからだ。


 タイプ感など理想的なフィーリングの実装には高度な技術が必要だとは言え、メカニカルスイッチの電気的な構造は接触すればオン、離れればオフという極めてシンプルなものだ。


 そのため、メカニカルスイッチ同士は事実上の標準規格による互換性がある一方で、オン/オフで表現できないアナログスイッチとは基板から別物となっている。


 G512 X 75はそこに「どのキーをアナログ/メカニカルにするか」という第3の選択肢を持ち込んできた。しかもこれは何度でも交換可能で、望むならシーンによって使い分けることもできる。G512 X 75が「キワモノ」と称される最大の理由はここで、同社はこれを「デュアルスワップ」と呼んでいる。


 G512 X 75で採用されているアナログスイッチは「Tunnel Magnetoresistance」(トンネル磁気抵抗)を利用したもので、磁気センサー技術としてはホール効果センサーの後継とされる。


 磁石の接近をトンネル磁気抵抗効果の変化として読み取るため、高感度かつ温度安定性に優れるというメリットがある。メカニカルスイッチがセンターポール(中央の軸受け部分)と位置決め用の突起2本、電極2本の計5ピン構成であるのに対し、アナログスイッチの方は位置決め用の2ピンしかなく、電極は存在しない。


 つまり、G512 X 75ではデュアルスワップを実現すべく、(各キーどちらか1つは確実に使われないにもかかわらず)電極ピンによるスイッチ内部での導通を検出する仕組みに加えて、TMRセンサーを基板側に備えている。TMRセンサーがステム直下ではなく近傍に配置されているのは、両方のスイッチが干渉しないための物理的制限によるものかもしれない。


 アナログスイッチのアクチュエーションポイントは0.1mmから4.0mmまでキー単位で設定でき、キー連続入力を高速化するラピッドトリガー、浅押しと深押しに別の入力を割り当てるマルチアクション、AキーとDキーのような相反入力の優先度を決めるSOCD設定と、アナログキーボードに期待される機能は一通り押さえている。


●マルチアクションを助けるSAPPリング


 中でもマルチアクションはユーザーの明示的な意図による操作を拡張するものであり、軽く押して前進、深く押してダッシュ、というような使い方ができる。だが、その2つを思い通りに使い分けるには繊細な指先の感覚が必要だ。


 そこをサポートしてくれるアイテムが小さなゴム製の「SAPPリング」だ。SAPPはSecond Actuation Pressure Point(第2のアクチュエーション加圧ポイント)の頭文字で、磁気アナログスイッチの軸回りに装着して使う。


 SAPPリングを装着すると、その厚みによってトラベル長2.6mmくらいのところで行き止まりとなる。だが、ゴム製なので少し力を込めるとさらに押し込むことができる。この仕組みによって「普通の力での入力」と「そこからぐっと押し込む」の2段階の区別が容易になる。


 一方で、ゴムのリングを挟む分、装着したキーの押し込みの感触は素の磁気スイッチとは変わってくる。通常のキーが底打ちするときにカツンと音が出るのに対して、SAPPリングを装着したキーはキーが戻るときにスポンというような裏拍を打つ音になる。


 物理的にトラベル距離が短くなる違和感はあるものの、個人的にはぐっと押し込むキーという感覚の恩恵の方が大きかった。


 SAPPリングは5個付属するが、用途から考えても十分だと言えるだろう。だが、磁気アナログスイッチの9個は少ないように感じた。


 対応する41キーを全てアナログ化するには全く足りず、WASDキーと矢印キーを置き換えた時点で残りは1個という計算になる。FPSの移動系に絞れば最低限+予備といったところではあるが、「自由に組み替える」というには心もとない。


 ロジクールから別売で販売されていれば「本体に付属しているのは必要最小限で、がっつりやりたい人は追加購入するもの」と解釈できるが、現時点では純正品の販売はない。なお、プレス向け発表会の資料では「主要なアナログスイッチおよびメカニカルスイッチの多くに対応」とあるため、自己責任でトライする価値はありそうだ。


 もっとも、この「一部だけアナログ可」という割り切りを、フルアナログ機の廉価版と見るか、思想の違いと見るかは評価の分かれ目だろう。


 Wootingに代表されるフルアナログキーボードや「Razer Huntsman V3 Pro」、SteelSeriesの「Apex Pro TKL Gen3」といった競合は、全キーをアナログ検知で固める方向に進んできた。


 一方のG512 X 75は、テキスト入力や普段使いはメカニカルのタイプ感で、勝負どころのキーだけアナログで、という使い分けを前提に設計されているのだろう。混在させることこそが他のキーボードにできないことであり、全てをメカニカルもしくはアナログで使いたい、という人がG512 X 75を選択する理由はほとんどない。


 また、スイッチの交換に使用するキーキャップ/キースイッチプラーは非常にユニークな方法で本体に収納できるようになっている。本体底面のゴム足に切れ込みがあり、そこにかぶせることで8度の傾斜を持つスタンド足になる。出先でのカスタムにも死角がない(実際に行う人がいるかは不明だが)。


●ガスケットマウントとライトバー


 デュアルスワップがあまりに革新的すぎてその存在がかすみがちではあるが、確実に効いているのがガスケットマウント構造だ。


 基板とプレートの間にシリコン製のガスケットを挟み込み、タイプ時の振動と音を吸収する。自作キーボード界隈(かいわい)で定番となってきた構造を、ロジクールGはついにゲーミングのメインラインに持ち込んできた。


 ロジクールとしてのガスケット採用は、冒頭で触れたAlto Keysに続く2例目となる。Alto KeysのUniCushionが多層フォームを重ねた一般向けのアレンジだったのに対し、G512 Xはシリコンガスケットによる別系統の実装で、ブランドとしても「ロジクールG初のガスケットマウント」を掲げている。


 実際に打ってみると、底打ちまでの感触はコトコト、というよりはコトンコトンッ、と少し沈み込んで止まる感覚で、ガスケットらしいたわみによって底打ちの硬さがほどよく丸まっている。爪音や金属的な反響も抑えられており、長時間タイピングしても指への戻りが軽い。


 ただ、ボディー全体として見ると質感には若干の違和感を覚えた。ゲーミングらしからぬポップさを感じる理由はそのカラーリングによるところもあるだろうが、大きいのは樹脂製の「軽さ」だ。


 これはAlto Keysのときにも共通して感じたところで、デュアルスワップに有線専用というこだわりであれば、2kgオーバーのフルメタルボディーを期待してしまうのがこれまでのカスタム界隈ではないだろうか。


 ガスケットが生むタイプの柔らかさと、樹脂ボディーの手触りの軽さが、どうも自分の意識の中でうまく整合しない感覚がある。だが、これは先行する中国メーカーの印象によるもので、逆に「新しいスタンダード」を切り開くロジクールの戦略的な狙いがあるのかもしれない。


 その一方で機能的には意味がないながらも、圧倒的な存在感を示すものがライトバーだ。ゲーミングキーボードでカスタム可能なライティングは一般的だが、メインとなるのはキーキャップ下で、それ以外だとせいぜいサイド部分程度だ。


 だが、G512 X 75では本体下部に30センチ以上の幅を持つ巨大なライトバーが配置されている。表面にはルーバー状の溝が刻まれており、33に分割されたライティングゾーンのアニメーションを滑らかに見せてくれる。


 ライトバーは斜めにカットされているため、光の放射が上向きになる。非常に目立つ存在だが、その真骨頂は別売のパームレスト「G512X-75-PR」(6490円)と組み合わせたときに発揮される。


 パームレストはマットUVコーティングを施したアクリル素材で、その内側にライトバーの光が回り込んでパームレスト全体がほのかに発光する。白い機体が緑に光るさまは、いよいよサイコフレームめいてくる。パームレストと合わせた姿こそがG512 X 75の完成形だろう。


●境界線を超えるから「キワ」モノなのかも


 編集部で漏れたという「キワモノ」という言葉は、かなり的を射ていたな、という印象だ。G512 X 75はゲーミングキーボードの枠で評価しても、自作キーボードの枠で評価しても、どちらにも完全には収まらない。


 デュアルスワップ、SAPPリング、スイッチストッカー、True 8K、そしてまぶしいほどのライトバーにパームレスト。この機能の重ね合わせは、ゲーミング側から見ても自作側から見ても前例の少ない混ぜ方になっている。


 視野を市場全体に広げると、この立ち位置の妙がもう少しはっきりする。ガスケットマウントにホットスワップ、アルミ削り出しのボディーといったカスタム機の要件は、この数年で広東省のブランド群がほぼ埋め尽くした。


 入力体験と所有満足を突き詰める方向は彼らが押さえ、競技性能を突き詰める方向は欧米のゲーミングブランドが押さえている。G512 X 75が進出してきたのは、その2つの狭間の「速さのために作られていながら、中身を自分でいじることができる」という一角であるように思える。


 自作沼に深く浸かったユーザーにとって、G512 X 75は「盛り込みすぎの八方美人」という印象を持つかもしれない。だが、G512 X 75の役割をロジクールの安心感をベースにしながら、カスタムキーボードカルチャーによって先行しているカスタム性を新たなスタンダードとする端緒を開くことだと考えれば、この「キワモノ」な構成も理解できる。


 41キーにとどまるデュアルスワップ対応と9個のみの付属アナログスイッチ、別売となったパームレスト、そして樹脂製のボディーはコストとカルチャーを絶妙なバランスで実現した結果と思える。


 スイッチを差し替え、リングを足し、アクチュエーションを詰める。この行為そのものが面白いと感じた人は、いずれ本物の沼に足を踏み入れることになるのかもしれない。その最初の一歩として、保証とサポートの付いた大手メーカー製ほど都合のよい入り口はないだろう。


 既製品のゲーミングキーボードに物足りなさを覚え始めたものの、自作につぎ込む時間があればもっとゲームに費やしたい――そんなゲーマーにとって、G512 X 75は「いじる楽しさ」の扉を開けてくれる1台となりそうだ。



    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定