
福利厚生として「マッチングアプリ」を導入する動きが広がっている。Aill(エール、東京都中野区)が2021年から企業向けに提供している「Aill goen」(エール ゴエン)は、導入企業の独身社員が利用できるマッチングアプリだ。
「共働き・共育て」の価値観に賛同し実践する企業に向けて提供しており、現在は1600社以上が導入している。イトーキやスギ薬局、りそなグループ、NTTグループ、東急、トヨタ自動車といった大手企業での導入も多い。
なぜ、企業が社員の恋愛をサポートするのか。
●Aill goenの仕組み
|
|
|
|
Aill goenの利用者はまず、自分のプロフィールを登録する。一般的なマッチングアプリと異なるのは、写真や年齢、居住地などだけでなく、マッチング後の生活を見据えた「価値観」を細かく設定する点だ。
例えば、転勤の有無やリモートワークか出社かといった働き方、希望する将来のキャリア、結婚や子どもについてに加え、家事や育児をどの程度担えるのかをパーセントで記入する項目もある。
こうしたプロフィールをもとに、AIが1日1人、ワークスタイルやキャリアプランなどを軸に、価値観が近く関係が進展する可能性が高いと判断した相手を紹介する。同じ会社の人とマッチングすることはなく、他社の社員同士でマッチングする仕組みだ。
例えば、全国転勤の可能性がある人と、場所を問わず働けるテレワーク中心の人を組み合わせるといった形で、将来の生活まで考慮して推薦する。仕事と家庭のバランスについても「仕事7割、家庭3割」を希望する女性と、「仕事3割、家庭7割」を希望する男性をマッチングするといった具合だ。
Aill goenの利用者は年代別に見ると、20代が4割、30代が4割、40代以降が2割を占める。結婚後の働き方については男性会員の43%が「共働き希望」、45%が「こだわりなし」と回答。女性会員では「共働き希望」が61%、「こだわりなし」が32%だ。
|
|
|
|
互いの働き方や家庭への考え方を補い合い、交際が成立した後も、2人が社員として働き続けられる関係を作ることを目指している。
●マッチング後の会話もAIがサポート
マッチングした後も、AIが2人の関係をサポートする。例えば、女性側がAIに「そろそろ一緒にご飯に行きたい」と相談すると、AIが男性側に「ご飯に誘ってみるといいかもしれません」とアドバイスする。「そろそろ告白した方がいいのか」といった悩みをAIに相談することもできる。
AIが2人の間に入って、共通の友人のように恋愛をサポートするイメージだ。本人からは直接伝えにくいことをAIが後押しすることで、次の行動につなげやすくする。
相手から見た自分への好感度も、AIが可視化する。好感度が高まるにつれて数値が上がっていくため「相手は自分に好意を持っているのか」という不安を減らし、アプローチのきっかけを作る。
|
|
|
|
Aillの豊嶋千奈社長は「共通の友人が担ってくれていた役割を、AIに置き換えたイメージです。アプリの環境だと、共通の知り合いがいないので、リアルでの恋愛よりも難しいと思うんですよね」と話す。
利用者の多くは日々仕事をしながら、限られた時間でアプリを利用している。そのため、たくさんの人と会うというよりも、相性の良い相手を厳選し、実際に会うまでにつなげやすくすることを重視した。
豊嶋氏によると、近年は衝動的な恋愛ではなく、相手の価値観や将来像をある程度知ったうえで、安心して関係を進めたいと考える人が増えているそうだ。「この人と付き合ったら将来を見据えられるのか」という長期的な安心感に加え、「この人にアプローチしたらうまくいくか」という目の前の安心感。この2つがそろうことで、恋愛に踏み出しやすくなると説明する。
利用料金は導入する企業が負担し、従業員数に応じて月額料金が決まる。一方、利用者が安心して利用できるよう、プライバシーにも配慮している。
どの従業員がAill goenに登録しているかを企業側が把握することはできず、同じ会社の社員同士がマッチングすることもない。取引先など特定の企業を指定してマッチング対象から外すこともでき、グループ会社についても対象に含めるかどうかを設定できる。
利用者の本人確認も徹底する。社員証や給与明細などを使った所属確認は、半年に1回実施している。
●なぜ企業は福利厚生として導入するのか
Aill goenは豊嶋氏自身の経験から生まれたサービスだ。かつて企業の正社員として働いていた豊嶋氏は、社内や取引先の人とは仕事上の関係があるため恋愛につながりにくく、転勤もあり仕事が忙しい中で「共働き前提で、一緒に仕事と家庭を支え合える人と出会いたかった」と感じていた。
「共働き・共育て」をコンセプトとしたサービスを作りたいと考えた一方、一般向けのサービスとして提供する場合、利用者が安心して出会える相手かどうかを確認するのが難しい。そこで、利用者が企業に所属していることを証明できる企業向けのサービスとして提供することにした。
企業では近年、人的資本経営やウェルビーイングの考え方が広がり、社員が働きやすい環境を整えることが重視されている。育児支援や柔軟な働き方など、仕事と家庭を両立するための制度を整える企業も増えている。
しかし、こうした制度だけでは解決できない問題もある。例えば、本人が「管理職を目指して仕事を続けたい」と考えていても、結婚後の家事や育児の負担が一方に偏れば、仕事をセーブしたり、退職したりせざるを得なくなることもある。仕事と家庭のバランスは、本人だけでなく、パートナーの価値観や働き方にも左右されるからだ。
企業が社員の「仕事と家庭の両立」をどれだけ支援しようとしても、パートナーとの関係までは介入できない。
そこで、独身社員が仕事や家庭に対する価値観が近い相手と出会う選択肢とし、Aill goenを福利厚生として導入する企業が増えている。企業にとっても、家庭の事情によって社員が仕事を続けられなくなることを防げれば、人材の流出を抑え、新たな採用や育成にかかるコストの削減にもつながる。
採用活動で、福利厚生の一つとしてAill goenを利用できることを紹介すると、求職者からも好評だという。「転勤があっても家庭と両立できるか」「結婚後も仕事を続けられるか」といった将来への不安を和らげる一つの材料になるためだ。
「恋愛は個人の問題」ともいえる一方、どのような相手と生活を築くかは、社員がその後も働き続けられるかどうかに影響する。社員を支える手段として、企業による「恋愛支援」がどこまで広がるのか注目される。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。