
「会議で分からないことを聞きたいだけなのに、結局質問できずに終わってしまう」
「ミスを報告するとすぐにとがめられるため、まだ言えていない」
「職場で息抜きのために雑談したら“むだ話だ”と注意されそうで、一言も話せない」
心理的安全性が低い職場では、このようなことが起こりやすい。
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心理的安全性の概念を1999年に提唱したハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー・エドモンドソンは、人が職場で感じる対人リスクを、無知と思われる不安、無能と思われる不安、ネガティブと思われる不安、邪魔者と思われる不安の4つに整理した。
心理的安全性が高い職場では、問題を黙って抱え込みにくくなり、学習行動も起こりやすくなるが、「仲の良い職場にすれば良い」といった単純なものではない。
本稿では、心理的安全性に関する誤解を整理したうえで、心理的安全性の正しい測り方と、その重要性について解説したい。
●心理的安全性はなぜ高める必要があるのか
そもそも、なぜ心理的安全性を高く保つ必要があるのか。その理由として、心理的安全性が高い職場では、主に2つのことが確認されている。
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悪い報告を黙って抱え込まなくなる
「従業員の沈黙」に関する6万3134人分のデータを分析した研究では、心理的安全性が高い職場ほど、従業員が問題や懸念を黙って抱え込まないことが確認されている。そのため、ミスや問題が起きたときにも、早い段階で周囲に共有されやすくなる。
学習行動が増える
2万2000人を超えるデータを分析した研究では、心理的安全性と「チームの学習行動」に強い関連があることが確認されている。心理的安全性が高いと分からないことを質問したり、失敗について話し合ったり、周囲に助けを求めたりする行動が起きやすくなるためだ。
研修も1on1も評価制度の刷新も、きちんと機能させるためには、従業員が安心して発言し、行動できる環境が必要であり、心理的安全性はその重要な条件の一つだ。
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心理的安全性を高める目的を「イノベーションのため」と解説しているのをよく目にするが、確かに相関関係はあるものの、因果関係とまでは言えない。心理的安全性そのものがイノベーションを生むのではなく、発言・情報共有・学習といった行動を通じて新しいアイデアが生まれると整理するのが妥当だ。
心理的安全性が高まることで、問題や疑問を口にし、互いに学び合う行動が起きやすくなる。その積み重ねが、結果的に組織に良い影響を与えるのである。
●「仲が良い職場=心理的安全性が高い」という誤解
心理的安全性の議論でよく見られるのが、「仲が良い職場のことだ」という誤解だ。
冒頭に紹介した、無知だと思われる不安、無能だと思われる不安、ネガティブだと思われる不安、邪魔者だと思われる不安が起きる職場は、必ずしも雰囲気が悪いとは限らない。歓送迎会もあれば、休憩室での雑談もある。
問題なのは「言いたいときに言えない」ことだ。エドモンドソンは、心理的安全性を「対人リスクを取っても安全だと感じられる、チームで共有された信念」と定義している。つまり、「居心地が良いこと」よりも、間違いを認める、異論を唱えるといった、「対人関係上のリスク」を安心して取れるのが心理的安全性の高いチームなのである。
これは「上司との信頼関係」とも異なる。「信頼」は自分から弱さをさらす意思にすぎない。一方で心理的安全性は、「自分がリスクを取って発言しても、好意的に受け止めてくれるだろう」という期待であるためだ。
そのため、上司を信頼していたとしても、会議で異論を言えば周囲から浮く、失敗を報告すれば評価が下がると感じていれば、そのチームは心理的安全性が高いとは言えないのである。
●「平均値」を見るだけでは不十分
HRビジョン(東京都港区)がまとめた『日本の人事部 人事白書2025』で、自社の心理的安全性を「高い」と答えた企業は5割を超えた。ただ、これは企業側の回答による自己評価であり、現場の一人ひとりの心理的安全性を測ったものではない。
心理的安全性を見る際に注意したいのが、「平均値」だけでは現場の実態が見えづらいことだ。心理的安全性はチーム単位で成立するものであり、同じ会社でも部署や立場によって感じ方は異なる。また、同じチームの中でも人によって感じ方にはばらつきがある。
例えば、管理職と一般社員、正社員と非正規社員など、さまざまな役職や立場の人が混在するチームで数値を平均化すると、一部の人の心理的安全性が低くても、全体としては問題なく見えてしまう可能性がある。
そのため、心理的安全性を測る際には、部署や職位、雇用形態などに分けて、「誰が低いのか」を見る必要がある。
●現在地の測り方
では、心理的安全性はどのように測るべきなのか。筆者が提案したいのは、以下の3つの見方だ。
「黙らないかどうか」で測る
心理的安全性が高まったかを判断する上で重要な視点になるのが、「従業員が黙らなくなったかどうか」だ。
エドモンドソンの心理的安全性の尺度には、「ミスをすると責められる」「他のメンバーと異なるという理由で拒絶される」「助けを求めにくい」といった項目が含まれている。裏を返せば、ミスや異論、困りごとを隠さずに口にできるかどうかを見ることで、心理的安全性の状態を測ることができる。
平均を見ない
前述のように、平均値だけを見てしまうと、心理的安全性が著しく低い人を見逃してしまう。データを見る場合は、チーム別、職位別、雇用形態別、勤続年数別などに分けて見ることで、どの層の心理的安全性が低くなっているのかを把握しやすくなる。
意識に加え、行動を測る
アンケートで本人の意識を尋ねるだけでなく、実際の行動にも目を向けたい。
例えば、ヒヤリハットや不具合の報告件数、問題が現場から上司に届くまでの日数、退職者面談で初めて明らかになる問題の数などだ。こうした数字を見ることで、心理的安全性が高まり、報告しやすい職場になっているかを確認できる。
ただし、数字の解釈には注意が必要だ。例えば、不具合の報告件数が増えたとしても、それだけで職場の状態が悪化したとは限らない。心理的安全性が高まり、これまで黙っていた問題を報告できるようになった結果とも考えられるため、件数の増減の背景まで見る必要がある。
この3つの見方に加え、心理的安全性だけを単独で評価しないことも重要だ。エドモンドソンは、心理的安全性の高低と、仕事に求める基準の高低を掛け合わせて職場の状態を整理している。
心理的安全性と仕事の基準がどちらも低い「無関心」、仕事の基準は高いが心理的安全性は低い「不安」、心理的安全性は高いが仕事の基準が低い「快適」、両方が高い「学習」である。
心理的安全性だけを高めようとすれば、単に居心地が良いだけの職場になってしまう可能性があるため、目指すべきは「学習」の状態である。
●施策よりも、まずは正確な数値の把握を
世界最大かつ最古の人事・人材開発の専門機関、英国CIPDのエビデンスレビューでは「心理的安全性を高めることを目的とした介入の効果を定量的に測定した実証研究は見つかっていない」としている。つまり、研修や1on1など、心理的安全性を高めるために行われている施策は、「導入すれば心理的安全性が高まる」と言えるほどの根拠が十分に蓄積されているわけではないということだ。
だからこそ、「心理的安全性を高めるにこの施策が必要だ」と安易に飛びつくのではなく、自分たちの職場の心理的安全性の高さを正しく把握することが必要なのである。
著者プロフィール:村上 ゆかり
コラムニスト。1児の母。リクルートにて人材業界で法人営業、面接、面談フォロー実績数百件を経験。人事役員などと伴走しさまざまな人事課題に向き合う。広告業界にて5000人集客イベント企画&事務局経験、福祉業界では人事管理職として新卒及び中途採用を1人で設計から実務まで担当し年間約120人採用を達成。国会議員秘書約4年半を経験後、フリーで活動を始め、執筆のほか企業の人事採用コンサルタントなどを手掛ける。アンガーマネジメント講師。
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