
生きながらにして死んでいるゾンビのような人もいれば、反対に死んだのに生きている人もいる…。そんな不思議な境地について考えさせられる映画「軍服を着た神様」。戦争関係のまじめなドキュメンタリーだと思っていたら、試写を見て意表を突かれました。人情と感動渦巻く、ちょっとホラーな内容だったのです。
台湾には戦時下に亡くなった日本兵を神様として祀る廟が50カ所以上あるそうです。「飛虎将軍」として祀られているのは、日本海軍の兵曹長だった杉浦茂峰氏。米空軍に撃墜され、集落の上を避けて畑に墜落。村人の命を救ったと後にたたえられ神様として敬われるように。それまでは白装束で彷徨い、村人の夢枕に立ち、不吉なできごとを起こすなど幽霊的な活動をしていたのが、神様にステップアップ。人々の願いごとを日々聞かされています。シャーマンの女性が彼の思いを取り次いで、ヘビースモーカーの飛虎将軍の像に大量のタバコを吸わせていました。旧日本軍では、兵士の士気高揚のためタバコを配布していたようなので、死んでからもやめられないのかもしれません。
元少年兵の飛虎将軍に台湾の人は親近感を持っていました。高次元の神様にはできない世俗的なお願いもしやすいようです。願いごとで多いのは「宝くじやロトが当たりますように」。「ロトの数字を教えて」というのもありました。実際に当たった人もいるようですが…。「軍人だしロトなんてわからないよ。勘弁してくれ」なんて心の声が聞こえてきそうです。像はまるで生きているかのように表情豊かに見えました。
格式の高い神様の廟にお神輿に乗って表敬訪問するときは緊張した面持ちです。映画には飛虎将軍以外にも田中将軍、北川将軍などの軍服姿の神様の像が何柱か出てきましたが、皆さん生きているような存在感で、魂が宿っているのを実感。
|
|
|
|
飛虎将軍は2016年に日本人参拝者の夢枕に立ち「故郷に帰りたい」と訴えて、一時的に水戸市に里帰りを果たしました。日本の航空会社は貨物で神像を運ぼうとしたところ、台湾の航空会社は神様の作法を分かっていて座席を用意したとか。もし貨物で運んでいたらどんな災いが起きたか、想像すると恐ろしいです。そもそも軍服姿の幽霊が出たら、日本だったらお祓いされるか怪談師のネタになるかですが、台湾では神様として祀るという厚遇で、優しい国民性に感動しました。飛虎将軍も居心地がよくて、この地で神様としての死後の人生を全うされそうです。「また宝くじか」と思いながら…。
しんさん・なめこ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に『女子校育ち』(筑摩書房)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『電車のおじさん』(小学館)、『大人のマナー術』(光文社新書)など多数。近著に『この人生、前世のせいってことにしていいですか』(幻冬舎文庫)がある。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.32からの転載】
|
|
|
|
