なぜ吉祥寺駅周辺にスタバが9店舗もあるのか 超過密出店なのに、どこも繁盛しているワケ

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2026年08月31日 05:40  ITmedia ビジネスオンライン

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吉祥寺駅周辺には複数のスタバがある(出典:ゲッティイメージズ)

 スターバックスが、東京・吉祥寺に9店舗も出店していることをご存じでしょうか。2026年7月、8月と新たに2店舗を出店したことで、吉祥寺駅周辺は9店舗がひしめくスタバ激戦区となりました。


【画像】吉祥寺駅周辺のスタバ


 筆者は以前からスタバと吉祥寺は親和性が高いと思っていましたが、同じ街に9店舗も出店し、同じブランド同士で競ってどうするのかは気になります。


 同じ街にこれだけのスタバが出店する意味は何なのでしょうか。特定のエリアに集中出店する「超ドミナント戦略」の狙いについて、流通小売り・サービス業のコンサルティングを35年以上続けてきたムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。


●スタバが進める吉祥寺への集中出店


 スタバは日本全国に店舗展開をしているトップクラスのカフェチェーン店です。


 スタバは2026年3月末時点で、日本国内で2116店舗を展開しており、1都道府県当たり平均45店舗がある計算です。「犬も歩けば“スタバ”に当たる」と言える店舗数でしょう。


 日本の飲食関連企業でスタバ以上に店舗展開しているのはマクドナルドとほっともっとですが、同一エリアにこれだけの店舗展開をするのはまれです。


 コンビニならまだしも、カフェチェーン店を同じ街に9店舗展開する狙いはどこにあるのか。それを探るため、実際に吉祥寺の街に行ってきました。


●9店舗を回ってみた


 まず、京王井の頭線の吉祥寺駅改札を出てすぐのキラリナという商業施設に向かいました。


 ここにはスタバが2店舗あります。9階の「SHARE LOUNGE キラリナ京王吉祥寺9階店」はTSUTAYAを運営するCCCとスタバの新業態である「LOUNGE&CAFE」の1号店です。両店舗で255席(スタバのみで55席)あり、8割ほどの席が埋まっていました。そのまま3階の「ティー&カフェ キラリナ京王吉祥寺3階店」に向かいました。同店は駅直結でティーに特化した店舗だけに、女性客が目立ちました。


 その後「アトレ吉祥寺店(2階)」へ。ここはJRの改札口からすぐということもあり満席で、入店待ちも5〜6組いる混雑ぶりでした。「アトレ吉祥寺店(B1)」は7月末にオープンしたばかりの座席数60席の店舗。全国でも限られた店舗でしか展開されていない「My フルーツフラペチーノ」という、素材を自由に選べるカスタマイズ型のフラペチーノを注文できる吉祥寺エリア初の店舗です。ここもベビーカーを押すママ友などのグループ客で満席でした。


 アトレを離れ「吉祥寺駅前店」へ。ここは最も標準的なスタバの路面店ですが、他の店舗同様、店内は満席。仕事途中のサラリーマンらしき人が多くいる店でした。


 同店の道路を挟んではす向かいに8月3日にオープンしたのは、銀行とカフェが一体となった吉祥寺で最も新しいスタバ「Olive LOUNGE吉祥寺店」です。1階と2階に席があり、金融に関する相談をしながらコーヒーを飲める店舗で、9割ほどの席が埋まっていました。オープン直後の新店で店内環境も良く、席数も多いからか友達同士で来店した女性客でにぎわっていましたが、銀行併設ということもあり一人客も目立ちました。


 アーケードを抜けて徒歩5分ほどの場所にある「吉祥寺東急店」は、夏の暑さのため店外のテラスには2組しかいませんでしたが、店内は満席。東急の買い物帰りらしき夫婦客を多く見かけました。


 そこから「吉祥寺パルコ店」へ移動。2階という立地ながら、店内は20代の若者たちでほぼ満席でした。


 パルコから歩いて7〜8分の「井の頭公園店」はこれまでの店舗と違い、外国人客が目立ちました。パソコンで仕事をしている様子から、インバウンド観光客ではなく、吉祥寺周辺在住の外国人の方という印象を受けました。そしてこの店舗もほぼ満席でした。


 こうして吉祥寺のスタバ9店舗を回ってみると、客を奪い合うどころかどの店も満席に近く、「まだ店舗を増やせるのでは?」と感じるほどでした。


●9店舗の特徴は?


 吉祥寺の9店舗のスタバの状況をまとめると、以下のようになります。


 この表からも分かる通り、吉祥寺のスタバ9店舗は、同じ商圏で同じ客を奪い合っているわけではありません。通勤・通学・買物・散歩・待ち合わせ・談笑などの利用目的に分けて店づくりをしているのです。


 吉祥寺圏内で、SHARE LOUNGEの座席を除くと600席以上あるにもかかわらず、そのほとんどが満席に近い状態であるのも驚きです。テラス席があることも踏まえ、平均稼働率を70%と仮定すると、430席ほどが終日稼働していることになります。


 スタバの客単価は800円前後と想定されるため、吉祥寺の9店舗で1時間当たり約35万円の売り上げとなります。各店の平均営業時間は約14.1時間であることを踏まえ、1日当たりの実質稼働時間を12時間とすると、日販は420万円。9店舗の年間売上高は、360日換算値で推定15億1200万円、吉祥寺のスタバ1店舗当たりの売り上げは約1億6800万円に上ります。


 スターバックスコーヒージャパンの2024年9月度の1店舗当たりの売り上げが1億6200万円であるため、吉祥寺のスタバの1店舗当たりの売り上げは日本の全店平均を上回っているのです。これは筆者の推測値ではありますが、立地の優位性とスタバの店舗すみ分けが成功した結果でしょう。


 スタバがこれだけの店舗を集中的に出店しているのは、この数値的な裏付けがあるからと言えます。


●なぜ9店舗でも成立するのか?


 では、なぜ同じエリアに9店舗も出店しても、1店舗当たりの売上高は平均値を上回り、超ドミナント展開が成立するのでしょうか。ポイントは大きく3つあります。


ポイント1:駅の基礎集客力が圧倒的に大きい


 2024年度のJR吉祥寺駅は1日平均乗車人員が12万8246人で、JR東日本の駅の中で20位に入ります。住宅街を抱えているだけのことはあり、有楽町駅や恵比寿駅よりも多い駅なのです。


 さらに吉祥寺には京王井の頭線があり、2025年度の1日平均乗降人員は13万121人で、2024年度比で102.3%です。JRと京王では統計の定義が異なるため単純合算はできませんが、吉祥寺は東京の中でも巨大な乗換駅の一つであり、同時に住宅や買い物、遊びに行く場所としての目的地でもあるのです。


 このように、吉祥寺は多くの人が乗降する駅であるため、商売をする企業にとっては外せない場所です。


 特に小売り・サービス業にとって吉祥寺は、広い客層に毎日利用してもらうことができ、顧客を固定化できる可能性があります。吉祥寺はスタバにとって最も稼ぎやすい立地の一つと言えるのです。


ポイント2 吉祥寺は「街で過ごす人」も多い


 武蔵野市開発公社が行った「吉祥寺来街動機等調査2024」では、吉祥寺に行く目的は仕事や学校という人が最も多く、買い物、飲食がそれに続いています。また、吉祥寺で過ごすことを目的にする人の約36%が買い物、同じく約36%が飲食というのも、吉祥寺の特徴と言えます。


 吉祥寺は用事を済ませてすぐ帰る駅ではなく、回遊し、滞在し、途中で何度か休憩や飲食需要が発生する街です。飲食目的が買い物目的を上回っているという結果も、カフェ需要の高さを示しています。


ポイント3:スタバ9店舗はきちんとすみ分けしている


 前述の各店特性比較表で示した通り、吉祥寺のスタバは通常のコーヒー店に加え、ティー特化型、改札直結型など、店舗特性を変えてすみ分けを図っています。


 そのため、スタバの吉祥寺9店舗出店は「超ドミナント出店」というより、「顧客の利用目的に応じたポートフォリオ型の出店」とも言えます。各店舗がすみ分けをすることで、互いに競合することなく、共生しているのです。これを自在に変えられる持ち球があるところが、日本のスタバの強さと言えるでしょう。


 同時に、吉祥寺駅周辺に複数店舗を出店することで、カフェのリーダー企業として同業他社の客を取り込めている可能性もあります。これは他店にとっては大きな脅威です。今後別の商圏でも、同様の超ドミナントを展開される可能性もあるからです。


 吉祥寺のスタバ既存店は満席のことが多く、なかなか座れないという課題がありました。これを解消するために複数店舗を出店し、これまで取りこぼしていた客を獲得し、本来得られたはずの売り上げを確保したいという考えもあるのでしょう。


●日本でも類を見ない超ドミナント出店


 本稿では吉祥寺に9店舗集中出店する理由を考察しましたが、一つの駅周辺のスタバの数において、実は吉祥寺は日本一ではありません。


 スタバの代表的な超ドミナント地域を挙げると、東京駅・丸の内・八重洲地区、新宿駅地区、渋谷駅地区にはそれぞれ20店舗以上あります。また、以前ITmedia ビジネスオンラインで筆者が紹介した埼玉県越谷市のイオンレイクタウンには、スタバが7店舗あります。


 大阪駅直結のルクア大阪には6店舗、羽田空港に5店舗と、特定の施設内でドミナント展開をしている例もあります。


 しかし、これらは巨大ターミナル駅、空港、オフィス街、百貨店・駅ビル群を抱えている大都市や大規模商業施設の話です。


 吉祥寺は都心とはいえ、巨大ターミナル駅でもオフィス街でもありません。むしろ住宅街と商店街が一体になったような、人々が暮らす街です。その街に9店舗のスタバが、駅から半径約300メートル圏内に集中しているという超ドミナント地域なのです。ターミナル駅である札幌駅、京都駅、仙台駅などを上回っていること自体が異例であり、日本の中でも類を見ない集中出店地域なのです。


 米国の経済学者であり統計学者でもあったハロルド・ホテリングは、1929年の論文『空間的競争における安定性』の中で「競争する企業は、競争相手との差を広げるのではなく、むしろ顧客を取りこぼさないために、同じような場所・同じような商品へ近づいていくことがある」という考え方を示しました。これがいわゆるホテリングの立地モデルと言われるものです。


 スタバの吉祥寺9店舗出店は、まさにこの理論に近い出店と言うことができます。


 人口が減ると有望商圏が減る。その結果、客数の多い駅前・都心・主要ショッピングセンターへ店舗を集中させるといったように、優良立地は今後さらに競争激化していくことになります。


 スタバがこの理論に従っているかは分かりませんが、競合他店が多数出店してくる前に、優良立地を押さえたのが、今回の吉祥寺の集中出店なのです。


 これからの日本は人口減少により、都心と地方、駅前と郊外、好立地と悪立地の差がより激しくなっていきます。優良な立地をどのような考え方と方法で押さえていくのか。有望立地が少なくなる中で、それぞれの企業なりの新たな出店戦略が必要になるでしょう。


(岩崎 剛幸)



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