巨人・浦田俊輔 (C)Kyodo News 長年、盗塁数ではパ・リーグがセ・リーグを圧倒してきた。セが年間盗塁数でパを上回ったのは1988年が最後。ところが今季は8月30日時点でセ382、パ302と、実に80個もの差がついている。長く続いた構図が、いよいよ崩れようとしているのだ。
しかも今季は、一〜三塁のベースが一辺15インチ(約38.1センチ)から18インチ(約45.7センチ)へ拡大された「拡大ベース元年」でもある。塁間が実質的に短くなるだけに、走者にとっては追い風ともいえる変更だった。それなのに、長年盗塁数で優位だったパのペースが落ちているのだから興味深い。
何が起きているのか。まず目につくのが、昨季パの盗塁上位勢の変化だ。
2025年は周東佑京が35盗塁、小深田大翔が28盗塁、西川愛也と五十幡亮汰が25盗塁を記録するなど、20盗塁以上が8人いた。今季はまだ約1か月を残すものの、小深田7、西川5、五十幡10、辰己涼介6など、昨季の上位勢には明らかなペースダウンが目立つ。
もちろん理由は一様ではない。出場機会が減った選手もいれば、故障やコンディションの影響が考えられる選手、盗塁を仕掛ける頻度そのものが落ちた選手もいる。つまり「パが盗塁を嫌うようになった」と単純化するのは少々乱暴だろう。
対照的にセでは、新しい顔ぶれが数字を押し上げている。巨人の浦田俊輔が33盗塁、ヤクルトの岩田幸宏が31盗塁、広島の辰見鴻之介が24盗塁。昨季の盗塁上位勢がそのまま伸びているのではなく、別の俊足選手が前面に出てきたことが大きい。
特に変化が分かりやすいのが巨人とヤクルトだ。巨人は昨季53盗塁から今季すでに89、ヤクルトも61から78へ増加。岡本和真、村上宗隆という長距離砲がMLBへ移ったことで打線の顔ぶれも変わり、その中で浦田や岩田といった俊足型の存在感が大きくなった。巨人では昨秋から進めてきた走塁改革も、数字として表れている。
ただし、選手の入れ替わりだけですべて説明できるわけでもない。パでは今季の本塁打数が8月30日時点ですでに632本に達し、昨季通年の553本を上回った。一発で走者を返せる場面が増えれば、盗塁で一つ先の塁を奪う必要性が相対的に下がることも考えられる。
長年パの盗塁数が多かった背景には、DH制によって常に9人の野手を打線に並べられるという構造的な違いもあったはずだ。それでも今季は、DHのないセが80個も上回っている。
そして2027年からは、そのセにもDH制が導入される。今季の“セ>パ”は一過性の珍現象で終わるのか。それとも、「盗塁数はパが上」という長年の構図そのものが変わり始めているのか。今季は、その分岐点になるのかもしれない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)