
ハードユーザーにとっては、ライフラインといってもいいほどの存在となっているフードデリバリーだけに、業界の今後は気になるところ
フードデリバリー業界の勢力図が、急激に塗り替わりつつある。KDDIが出資する『menu』が9月末をもってサービスを終了すると発表した。背景には、昨年に日本上陸した韓国資本の『ロケットナウ』(ロケナウ)が仕掛けた、採算度外視の価格競争があるという。体力のない国内事業者が淘汰され、外資の生き残り組による寡占へとなだれ込んでいくのかー。
【韓国資本の「実店舗と同額」に白旗】
「『menu』は、2026年9月30日(水)をもちましてサービスの提供を終了させていただくこととなりました」
8月19日午後1時。都内南部を根城に専業でフードデリバリーの配達をしている吉永健司さん(45、仮名)のスマホに、非情な通知が入った。収入の4割近くを占める大得意先のmenuの撤退の報に接し、吉永さんは真夏の猛暑の中で体をガタガタと震わせた。
「menuでは、配達員を受注件数やユーザー評価に応じてS・A・B・Cの4段階、さらに各ランクも5段階に細分化して運用しています。上位階層ほど基本料金が高くなる仕組みですね。私は最高ランクのS5ですので、最低報酬は561円。その地位にとどまるために、大雨だったり寒波だったりと天候の悪い日も、時には割の合わないような配達も引き受けてきました。
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でもこれで、menuに捧げてきた苦労がすべて水の泡。Uber EATS(ウーバー)やロケナウ、ソフトバンク系列の出前館にも登録して掛け持ちをしていますが、今後は従来だとスルーしていた安い報酬の配達を引き受けざるを得ない。menuほど稼げるとは思えず、この先の生活設計が立てにくくなりました」(吉永さん)
menuから吉永さんに届いた、9月30日でのサービス終了を告げるメール
吉永さんが驚いた理由には、他の側面もある。
「正直、menuより先に出前館が撤退すると思っていました。出前館は8年間も赤字を計上している。収益改善のためか、最近は報酬を減額したので配達員が受注を避けるようになった。結果的にオーダーしても配達員がなかなか決まらず、商品が届くまでに時間がかかるので、お客さんまで離れていくという負のスパイラルに陥っています」(吉永さん)
menu撤退の引き金として業界内で挙げられるのが、ロケナウの日本市場への参入だ。ユーザーからすれば実店舗の価格と同額で配達してもらえるという格安戦略で攻勢をかけ、競合他社も追従を余儀なくされた。
経済誌記者が話す。
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「業界全体がチキンレースに突入した格好です。実店舗と同額なのですから、配達員への報酬は基本的に各事業者の持ち出しとなる。収益構造が成り立ちにくい構図なのです。
今年の春にまず、Woltが撤退。そして今回、menuが白旗をあげることになった。KDDIはローソンなどを含めたau経済圏を確立するため、赤字を垂れ流しながらも意地を張ってmenuを継続させてきた。しかし、傷口を広げる前に損切りするという選択に至りました。また、出前館の業績にも厳しいものがあり、日本のフーデリ業界は外資2社が寡占することになりそうです」(経済紙記者)
撤退の余波は配達員の懐だけでなく、注文する側の行動にも影響が及ぶと前出の吉永さんはみている。
「自分は限定したエリアで活動しているからヘビーユーザーの動向は把握しやすい。Wolt撤退の際は他社へ乗り換えず、そのままデリバリー自体をやめてしまった人もいました。menuでも同じ現象が起きることでしょう。撤退のたびに、業界全体のパイがじわじわ削られていくのです」(吉永さん)
【2社寡占でサービス低下へ?】
menuに加えて出前館まで撤退となれば、韓国発のロケットナウと米国発のウーバーの外資2社に収斂(しゅうれん)される。業界は事実上、外資に牛耳られる構図に変化する。
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「ロケナウの価格破壊戦略も効果が出ているとは言い難く、相当な赤字が続いていると聞きます。ただ、ウーバーとの2強体制が確立されれば、今度は一挙に回収モードに入ることでしょう。
一番の危惧はロケナウまで市場から去って、先行者利益を握る最大手のウーバーイーツの独占状態に入ること。スキマバイト感覚で、1件当たり320円なんかで受注する自転車の配達員を大量に確保しています。報酬の下げ止まりが続き、配達一本では食っていけなくなりそうです」(吉永さん)
影響はユーザーにも波及しそうだ。
「過当競争から2社寡占へと時代が変われば、値上げやサービス削減に踏み切る可能性もある。これまでは各社、プロモーションのクーポンを乱発してきましたが、その必要もなくなる。
また、事業者の選択肢が減ることで、オーダーできる店が減る可能性も考えられる。現に、人気中華チェーンの日高屋は出前館でしか頼めませんからね。出前館も経営が厳しいでしょうが、頑張ってもらいたいところです」(前出の経済誌記者)
コロナ禍を機に勃発したフーデリ戦国時代。その果てに国内資本が市場から押し出される構図は、日本経済そのものの弱体化が反映された結果とも重なる。配達員も注文する側も"選べる自由"を失いつつあるいま、唯一の日本資本となった出前館の土俵際の粘り腰が試されている。
文/大木健一 写真/ 吉永健司さん提供
