
「私たちは工事代金をほとんど受け取っていません。それでも、協力会社には身銭を切って全額支払いました。騙されながらも自分たちの責任を果たした会社を、今度は行政がさらに追い詰める。それが吉村洋文知事(51)の言う“寄り添った対応”なのでしょうか」
そう憤るのは、「万博工事未払い被害者の会」の代表を務めるAさんだ。
Aさんの会社は、大阪・関西万博のアンゴラ館で電気工事を請け負ったが、約4,300万円が未払いとなっている。それでも「下請けの協力会社へ被害を押しつけるわけにはいかない」と資金をかき集め、協力会社には全額を支払った。ところが最近、そんなAさんの会社に、建設業法違反を理由とする行政処分の可能性が浮上しているという。
「大阪・関西万博は昨年10月に閉幕しましたが、いまでも工事代金の未払いを訴える建設会社は30社を超え、被害額は10億円以上にのぼるとされています」(全国紙記者)
なぜ、未払い問題を起こした工事の大元ではなく、被害を受けた末端の業者が処分されようとしているのか――。
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■4,300万円未払いの被害者が、今度は処分対象に
Aさんは、万博開幕前2カ月前の2025年2月、知り合いの業者から「開幕に間に合わないから、どうしても助けてほしい」と頼まれ、アンゴラ館の電気工事に五次下請けとして入った。
アンゴラ館の工事は複数の業者を経て、建設業許可を持っていなかった「一六八(いろは)建設」から、Aさんの会社へ発注されたという。
「一六八建設からは、『建設業許可は間もなく下りるので大丈夫』と説明されました。ホームページには資本金4,000万円とあり、代表者は一級建築士。しかも国家的事業の万博ですから、参入業者については協会や行政も確認していると思ったんです」
しかし、現場にはまともな図面すらなく、英語や中国語の資料には誤りもあり、工事のやり直しが相次いだ。Aさんは最終的に約20人を投入し、徹夜作業で開幕に間に合わせた。
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ところが、工事代金の多くは未払いに――。そのうえ、最近になって、Aさんの会社に地元自治体から連絡が入ったという。
「『大阪府建築振興課から情報提供を受け、建設業法に違反していた一六八建設から工事を請け負った経緯について確認したい』という内容でした。今後、うちが行政処分を受ける可能性があります」
建設業法では原則、税込み500万円以上の工事を請け負うには建設業許可が必要だ。また、相手が無許可で建設業を営んでいると知りながら、その業者から工事を請け負った場合も処分の対象となり得る。Aさんは、一六八建設が無許可だったことを受注時にどう認識していたのか、説明を求められているという。
「工事の全体像が見えないため、工事一式ではなく、職人一人あたり一日いくらという人工単価(にんくたんか)で見積もりを出していました。契約書も結んでいます。それでも違反だとされ、未払い被害を訴えた自分たちが処分される。僕たちは、何か悪いことをしたのでしょうか」
■大阪府「許可は国交省のホームページで確認できる」
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本誌は、大阪府建築振興課に見解を尋ねた。担当者は個別の調査や処分については回答できないとしたうえで、一般論として、次のように説明した。
「未払いがあるかないかというところはいったん置いて、無許可の業者と契約して工事をされることは、建設業法違反に問われる可能性があります」
あくまで建設業法に基づいて対応しているという。さらに担当者は、取引先が建設業許可を取得しているかどうかについて、「国土交通省のホームページで調べられる」と説明した。
「取引をする業者がきちんと許可を持っているかどうかを確認したうえで、法令を守って契約していただきたい。そこがなされていないのであれば、処分するということには、やはりなるのかなと思います」
しかし、万博工事では開幕直前まで図面や工事内容が変更され、契約時点では工事全体の金額すら確定できない現場が少なくなかった。そんななか、とにかく開幕に間に合わせることを求められていた。
本誌が、「各業者が厳密に許可の有無を確認し、断っていたら万博は開幕に間に合わなかったのではないか」と尋ねると、担当者はこう答えた。
「法を破ってまで協力してくださいと言ったわけではないんですよね」
では、無許可業者が万博工事の重層的な下請け構造に入り込み、高額な工事を受注していたことについて、大阪府や万博協会に監督責任はないのだろうか。重ねて尋ねたが、担当者は「そこはわからない」と答えるにとどまった。
■「元請けには現場全体を監督する責任がある」
万博の未払い問題を国会で繰り返し追及してきた、共産党の辰巳孝太郎衆院議員(50)は、被害を受けている業者だけが処分を受ける可能性について、こう見解を示す。
「Aさんの言い分は無理もありません。自分は代金を受け取っていないのに、自分が使った業者にはきちんと支払っている。言ってみれば、自分だけが被害を引き受けているわけですから」
辰巳議員によれば、建設業法は違反業者を処分するためだけではなく、多重下請けのなかで起きる未払いから、下請けを守るための法律でもあるという。
「元請けは現場の状況を把握し、二次、三次、さらにその下の業者で未払いが起きないように監督する責任を負っています。元請け自身が直接起こした未払いでなくても、監督行政庁は建設業法41条に基づき、特定建設業者に対して立て替え払いを勧告することができます。まして今回の万博では、元請けそのものが未払いを起こしているケースも。その責任は重大にもかかわらず、元請けは処分されていません」
辰巳議員は、建設業法を理由に末端業者だけを処分するのではなく、本来は大元の企業に対してこそ、法律を厳格に適用すべきだと指摘する。
辰巳議員がとりわけ問題視するのが、セルビア館、ドイツ館、ルーマニア館、マルタ館の元請けを務めたフランス系イベント会社のGLイベンツ・ジャパンだ。同社を巡っては、複数の下請け業者が工事代金の支払いを求めて訴訟を起こしている。
「GL社の未払い問題は一つや二つではありません。『建設業法に基づいて対応する』と言うのであれば、なぜ大元には使わないのでしょうか。まず、責任の大きいところに法律を守らせるべきです」
■「2年前から間に合わないとわかっていた」
さらに辰巳議員は、無許可業者が万博工事の下請け構造に入り込み、未払い被害が拡大した責任は、「元請けだけでなく万博協会、大阪府、国にもある」と指摘する。
「開幕の2年前から、このままでは間に合わないとわかっていました。吉村知事自身が建設業界に頭を下げて協力を求めたのですから、その後に契約した現場が、工事を完遂できる体制なのか、協会や大阪府、国が確認すべきでした」
大阪府の「法を破ってまで協力してほしいと言ったわけではない」との回答については、こう反論する。
「現場の人たちも、何度も手を引こうと考えていました。それでも、自分が途中で投げ出せば開幕に間に合わないと、職人としての責任感で完成させた。その人たちに、終わった後で『許可を確認しなかった側が悪い』と言うのは、あまりにもひどい」
辰巳議員は、「まず万博協会が未払い分を立て替え、その後、元請けなどから回収する仕組みをつくるべき」と主張する。
問われるべきなのは、現場全体を監督する立場にあった元請けと、危うい工事体制を知りながら万博を進めた協会、行政の責任ではないだろうか。
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