「防災心理学」で命は守れるか? 次から次に襲いかかる"想定外"の大規模災害にどう備える?

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2026年09月03日 07:30  週プレNEWS

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冠水した千葉市中央区のアンダーパス。たとえ車の内部でも屋内に比べて危険性は高い


冠水した千葉市中央区のアンダーパス。たとえ車の内部でも屋内に比べて危険性は高い


2026年の夏だけでも複数の大規模な災害が発生。想像を上回る猛威が当たり前になった今、防災設備などの対策だけでは被害は防ぎ切れない。

では、「人間」にできる最善の対策は? 防災心理学の専門家・矢守克也(やもり・かつや)教授が実践的な「命を守る」方法を語る!

【写真】倒壊した熊本県八代市の八代宮

*  *  *

【災害対策の限界と防災"心理学"の役目】

7月28日、熊本県を最大震度7の強い地震が襲った。8月13日から14日にかけては千葉県で記録的な豪雨が発生し、関東地方ではその後も地震やゲリラ豪雨が相次いでいる。

こうした災害への対策といえば、建造物の耐震性や雨水の処理能力を高めることがまず思い浮かぶかもしれない。しかし、避難や防災について心理学の観点から研究する学問があるという。

"想定外"のはずの大規模災害が日常化する今、「防災心理学」が人々の命をどう救えるのか、京都大学防災研究所の矢守克也教授に聞いた。

まず、そもそも防災心理学というのはどのような学問なのか?

「普通、防災の後に続く言葉は『工学』や『理学』です。地震で倒れない建物や橋をどう設計するのか、どれくらいの強さで揺れるのかなどを研究する分野ですね。しかし、阪神・淡路大震災で倒れるはずのなかった高速道路が倒れたり、東日本大震災では来るはずのなかった大きな津波が発生したりして、自然に対する人間の理解が及ばない場面が増えてきたんです。

こうした大規模な災害を経験したことで、防災という分野自体が方向転換し始めました。すなわち、構造物の力で自然の脅威を100%食い止めるのは不可能だという前提の上で、リスクの情報をどうやって人々に浸透させるかなど、ハード面ではなくソフト面の災害対策に力を入れるようになってきたんです」


倒壊した熊本県八代市の八代宮。付近の日奈久断層帯は地震のリスクが高いとされていた


では、ソフト面の災害対策とは具体的にどのようなものがあるのだろうか。

「一例としては、『避難スイッチ』があります。避難スイッチとは、『川の水位があの石を超えたら避難を始めよう』のように、各個人が避難を行動に移すためのシグナルを意味する言葉で、そうしたシグナルを設定しておいたことで早期の避難につながった例もあるんです。

多くの人は『災害を正しく伝える情報があれば、人々はそれに従った行動を取る』と考えていますが、現実にはむしろ、情報は余るほどあるのに、それらの情報が実際の行動につながっていないことが問題だったんです。

このように、防災心理学にできることのひとつは、新しい言葉を発明するなどして、『人は簡単に避難できない』という課題を解決することなんです」

【相次ぐ豪雨や地震。「人間」ができる対策】

8月中旬に発生した千葉県の豪雨の雨量は、一部の地域の雨水処理能力を上回った。"想定外"の事態への向き合い方について矢守教授はこう続ける。

「各地の雨水処理能力は過去のデータに基づいて想定されていますが、それを大きく上回ることが毎年、日本各地で起きています。気候変動の影響もあり、処理できる雨量を超えた『新記録』の雨が降る可能性はもう日本中どこにでもあるのです。

こういった想定外の雨量を"想定内"にするためには、莫大(ばくだい)な税金を下水道設備に投じるしかないわけですが、それは現実的ではありません。

雨水処理施設などのハード面の対策に限界があることを受け入れた上で、自分や周囲の人、財産を守るために防災能力を育んでいくことが重要です。例えば、夕方の家族がバラバラな時間帯に大雨が降った場合はどうするかなど、さまざまなシナリオのシミュレーションをしておくのもひとつの手です」

今回の豪雨では車に乗っていた人々の罹災(りさい)が相次いだ。豪雨に対して個人として知っておいたほうがいいことは?

「土砂災害を含めた風水害でどんな場所で人が亡くなるのかを調べた研究によると、皆さんが思っている以上に屋外で避難中などに亡くなっているんです。つまり、避難のためであれ、帰宅のためであれ、『屋外にいる』という時点で非常に危険なことをしていると自覚する必要がありますし、この事実を知っていること自体が防災能力のひとつなんです。

自宅や会社などを離れて、別の建物に向かうことだけが避難ではありません。1階にいるなら2階に行くだけでも命を救う確率を相当高めることができるんです」

加えて、災害時には災害情報をメディアがどう伝えるかも重要になる。今回の豪雨ではNHKの糸井羊司(いとい・ようじ)アナウンサーが力強く避難を促したことが"糸井の勧進帳"と呼ばれ、話題となった。

防災心理学の観点からは、報道のあり方について次のように言えるという。

「行動を呼びかける報道というのは、基本的には評価できます。従来の災害報道は、台風の気圧や津波の大きさの予想など『状況を描写する』報道が中心でした。しかし、客観的な報道が本当に命を救っているのかという反省を受けて、『直ちに逃げてください』など、『行動を指示する』報道に変化してきたんです。一般的にこうした変化はプラスに働くと思います。

一方で、そういった報道を受け取る人々はそれぞれの場所でさまざまな状況に置かれているので、全員に向けて適切な行動を指示することは難しいという難点もあります。『落ち着いて行動してください』という言葉が、落ち着いている場合ではない人に伝わることもあるわけです。そういう意味では、テレビを含めて報道にも限界があります」

豪雨だけでなく、地震についてもリスクの予測が行なわれている。熊本は2026年1月の時点で、30年以内に大規模な地震が発生するリスクが最も高い「Sランク」とされていた。こうした予測とはどう付き合っていくべきなのだろうか?

「地震の確率についての情報は扱うのが非常に難しいです。地震の確率を伝えられた際に、仮にどこに住むかの選択ができれば有益かもしれません。しかし、実際はそうでないことがほとんどなので、どうしようもないというのが本音かとは思います。

できることがあるとすれば、『南海トラフ地震臨時情報』や大きな地震の後の『後発地震注意情報』などが発表されたタイミングで、自分の中でのスタンバイのレベルを上げるということが挙げられます。家具固定の点検を行なうとか、少しの間でも飲み会を控えるとか、そういったことを『なんでもない日』にやっておくことが大切です」

いつ起きるか予測できない大規模災害。災害のことなんて考えもしない日にこそ、防災のためにできることを学んでみるべきかもしれない。

写真/共同通信社

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