沓名健一監督、“チャンバラ”と“手描きアニメ”に込めた並々ならぬ魂「人が描いた絵は尊いもの」<『SEKIRO: NO DEFEAT』インタビュー>

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2026年09月03日 14:10  クランクイン!

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沓名健一監督
 フロム・ソフトウェアが2019年に手掛けたアクションアドベンチャーゲーム『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE(セキロ:シャドウズ ダイ トゥワイス)』を原作とした劇場アニメ『SEKIRO: NO DEFEAT(セキロ:ノーディフィート)』が4日より3週間限定で公開される。舞台は戦国時代の架空の国「葦名」。熟達の忍びである主人公・狼は、「竜胤」という人を不死に変える特別な血を引く少年・九郎に仕えていた。その血を狙う葦名弦一郎から逃げる旅のさなか、ふたりは「竜胤」によって人々が致死の病「竜咳」に侵されていることを知ってしまう。そして、自らの命を犠牲にして病を治めることを決めた九郎の秘めた覚悟を知った狼は、たったひとりの主の運命を変えるため、苦難に満ちた戦いへと挑んでいく…。今回は、本作で長編初監督を務めた沓名健一監督にインタビューを実施。『SEKIRO』の醍醐味“チャンバラ”や、自身が得意とする手描き2Dアニメーションへの並々ならぬこだわりなどを語ってもらった。

【写真】全編手描き2Dアニメーションで描かれた『SEKIRO: NO DEFEAT』場面写真

■ゲームでは見られない狼と九郎の“絶妙な距離感”&“おはぎ”に注目


──『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』が劇場アニメ化された経緯を教えてください。

沓名:プロデュース会社のARCHさんから食事に誘われたとき、エグゼクティブプロデューサー・平澤直さんから「チャンバラに興味ありますか?」と質問を受けたことがきっかけです。そのときはまだ『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』が劇場アニメになることは知らなかったんですけれど、アニメ監督としてチャンバラで『SEKIRO』のような表現の作品をやってみたいという気持ちがあり「あります!」と返事をしました。

──本作で長編初監督を務めることになったときの心境はいかがでしたか?

沓名:私は普段ゲームをあまり遊ばないので、監督を受けるにあたり、まずは『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』をプレイするところから始めました。このゲームは本当に難しくて、クリアに半年くらいかかったかな? ほぼ毎日、仕事から帰ってきて8時間くらいプレイして2時間くらい寝るみたいな生活を送っていました。でも、本当に楽しく遊ばせていただきました。そして、プレイしていく中でこの作品が表現しているものと、自分が表現したいものに、合致する点があることがわかったので、これは引き受けても大丈夫だなと感じました。また、世界的に有名なタイトルでもあったので、気を引き締めようと覚悟もしましたね。

──本作のタイトルが「SHADOWS DIE TWICE」ではなく「NO DEFEAT」になっている理由と、そこに込められた意味を教えてください。

沓名:原作ゲームには、いくつかのシナリオがありますが、本作のストーリーはそのどれかをトレースしているわけではありません。なので、同じタイトルをつけてしまうと、ファンの方が違和感を覚えてしまうと思い、別タイトルにしました。また、ゲームではみなさん何度もコンティニューしたと思うんですが、アニメにはコンティニューがないので「NO DEFEAT(負けない)」というタイトルになっています。

──『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』の壮大な物語を1本のアニメに収めるにあたり、どんなところで苦労されましたか?

沓名:ゲームの要素を全て詰め込むと、単なる総集編になってしまうリスクがあります。しかし、あまりオミットしてしまうとファンが鑑賞したとき肩透かしになってしまう。そういうところのバランスをどう取るか考えた結果、まずは主人公である狼の視点を大事にしつつ、九郎との関係性にフォーカスして、ふたりのドラマをしっかり描こうと判断しました。

──狼と九郎の関係性を描くときに気を付けたことや、注目してほしいポイントはありますか?

沓名:まず“喋らせすぎない”。それから“慣れあいさせすぎない”ことを気を付けました。ふたりを近づかせすぎてしまうと絶対にファンの方たちが違和感を覚えてしまうので、近すぎないからこそ出せる絆みたいなニュアンスを表現することに重きを置きました。

注目してほしいのはやっぱり「おはぎ」のシーンです。あそこはゲームをプレイした人なら、きっと見たかったくだりではないでしょうか。それから、葦名の地を抜けてふたりが逃避行をしている時間もゲームにはないオリジナル要素なので、存分に楽しんでもらいたいなと思っています。

あと、ちょっと見えづらいかもしれないですが、狼が九郎をおんぶして川を渡るシーンがあるんです。ゲーム中でもおんぶはないのでそこも見どころです。

──脚本を担当された佐藤卓哉さん(代表作:『あさがおと加瀬さん。』(2018))は、いわゆる専業のシナリオライターではなく、どちらかというと沓名監督と同じ演出家の方だと思いますが、なぜ佐藤さんを指名されたのですか?

沓名:佐藤さんはキャラクターの感情の機微を演出するのが上手い方なので、その力が本作には必要不可欠でした。というのも、狼って全然喋らないし、ほかのキャラクターも秘めた思いを行動で示すような人たちが多いので、セリフで表現できない感情をどう演出するかが課題になることは分かりきっていたんです。そこで、自分から直接お声をかけました。

──監督が演出に力を入れたシーンを教えてください。

沓名:葦名一心を倒した後の狼と九郎の旅路は、普通のアニメならもっと語り合ってもいいと思いますが、そこはふたりの関係性を見せるためにあえて掛け合いはほとんどせず、ちょっと笑い合うくらいにしています。それによって彼らの親密さをより上手く表現できたと思います。

■実在の古武術を取材してこだわり抜いた“殺陣”は必見

──3DCGのゲームを全編手描き2Dアニメーションで描く際に大変だった部分はどこでしょうか?

沓名:大変なのは、古い建物を描くところでしょうか。アニメーターが背景の元になる絵を描いてから、背景美術さんがその絵を絵の具で描くんですけれど、現代とは建築の様式が違うので資料を見ながら「梁がこれくらいで…」とか、試行錯誤してもらわないといけなかったんです。現代劇にはあまりない特有の難しさがありましたね。また、着物の重ね方や歩き方、刀の扱いもそうなんですけれど、あらゆるものが現代人の所作とは違っていて、そこを調べてアニメーターたちに説明したり何度もやり直したりしていくのも難しかったです。

──では、背景など含め、相当な数の資料を集められたのでは?

沓名:そうですね。実際のお城へロケハンも行きましたし、建築物の資料もたくさん集めました。ほかにも、時代考証の先生にも協力してもらって意見をいただいて、とにかく色々調査しました。

──殺陣などアクションシーンでのこだわりを教えてください。

沓名:アニメやゲームにおけるチャンバラ劇って、すごく速いテンポで超人的なアクションを繰り広げるものになりがちなんですけれど、『SEKIRO』は刀の扱いや人の体の重さなどが、非常にリアルに表現されていました。そのリアリティを再現するため、実写の剣戟映画を主に参考にして“地に足をつけたアクション”を心がけました。

また、今回は絵コンテ前の段階から浅山一伝流という古武道の流派の方々に直接取材をし、動きを指導してもらってアクションシーンを構成しています。「こういう状況で戦うとしたら、当時はこう動くはずだ」「足下にススキがあったら歩きにくいからこう歩く」など、剣術家さんの意見をアクションに反映させているので、よりリアリティのある戦いを描けたと思います。

──具体的にはどんな作品から影響を受けていますか?

沓名:大島渚監督の『御法度』(1999)。あとは黒澤明監督の『乱』(1985)や木村大作監督の『散り椿』(2018)です。特に『御法度』はチャンバラをリアルに描きたいと思う自分の動機付けになった作品でもあります。観たのは高校生くらいのころだったんですけれど、アクションの見栄えよりも、型を大事にした殺陣をしていて、その形式ばった所作に当時すごくしびれました。あと、本作はアクションというより暴力表現にしたいという思いもあったので、『座頭市』(2003)など北野武監督の映画も参考にさせてもらっています。

──アニメにも時代劇はありますが、参考にされた作品はありますか?

沓名:アニメだと『獣兵衛忍風帖』(1993)と『もののけ姫』(1997)です。『もののけ姫』ってかなり色彩の扱いなどが『乱』に似ていると自分は思っていて、『乱』をアニメに落とし込むお手本として参考にさせてもらっています。『獣兵衛忍風帖』については、作品が持つダークな世界観に影響を受けていまして、特に背景美術やレイアウトといった手法をすごく参考にさせてもらいました。

今回、美術監督は金子雄司さんという方にお願いしています。金子さんは小倉工房という背景美術の会社出身でして、『獣兵衛忍風帖』の美術監督も小倉工房の代表取締役である小倉宏昌さんが当時担当していました。その系譜で今回は表現しようと、当初から計画していたんです。

──監督が一番好きなキャラクターとその魅力について教えてください。

沓名:死なず半兵衛です。本作の半兵衛は、ゲームに比べると少し陽気なキャラクターになっています。そこもアニメ的なチューニングをした部分であって、作品の重い空気をたまに壊すキャラクターがどうしても欲しいなと思っていたところに彼がいて、砕けた雰囲気の演出をするときに活躍してくれました。例えば、最初に狼と九郎が荒れ寺に到着したシーンにひょこっと出てきたりとか。とてもいじりがいのある人物なので、みなさんも面白おかしく半兵衛を見ていただければと思います。

──監督が『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』をプレイされて感じた一番の魅力とは何でしょうか。

沓名:難しさです。近年のゲームはクリアしてもらえるように、ある程度の配慮がされている作品が多いと思います。でも、フロム・ソフトウェアさんのゲームって大半が「頑張ってクリアしてくださいね」っていうスタンスにある。これは、作品に自信がないとできないことなので『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』に触れてしびれました。昔、自分がファミリーコンピュータを遊んでいたころに感じた難しいけど楽しいをまた体験することができて、すごく面白かったです。

──最後に、全編手描き2Dアニメーションにこだわられた理由をお願いします。

沓名:本作は設計段階では3Dの力を使っていますが、映像は全て手で描かれています。自分は2Dのアニメーターなので、門外漢である3Dを頑張って扱ってゲームのルックに寄せるよりは、得意な手描き表現を選択した方がクオリティもコントロールできるし、作品作りにおいても誠意があると考えたからです。

また、昨今のAIの台頭なども考えると、人が手で描いた絵は今後ますます尊いものになっていくような気がするんです。なので、人の手で作る手法を自分は最後まで手放さないと思います。ちょっとスピリチュアルかもしれませんが、人が手で苦労して描いたアニメーションには魂が宿っていると思うんです。自分もアニメーションを見るときは、人が作ったからこその魂を感じ取れるので、自分の作る作品にもそういったものを込めたくて全編手描き2Dアニメーションという選択をしました。

(取材・文:舘はじめ)

 劇場アニメ『SEKIRO: NO DEFEAT』は、9月4日より3週間限定上映。

※『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』『SEKIRO: NO DEFEAT』の「:」は半角が正式表記
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