くら寿司はなぜ「ちいかわ」に頼るのか 景品横領で見えた“コラボ依存”の落とし穴

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2026年09月09日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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コナン、鬼滅、ちいかわ……くら寿司のコラボが増えていた

 大人が買い占めてしまうので、本来のターゲットである子どもたちはガッカリ。景品目当てなので、食べ物はそのままポイ捨て。店では早々に品切れなのにフリマサイトには大量に出品され、高値で取引されている――。


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 そんな数々の問題が指摘されていた外食チェーンの人気アニメとのコラボグッズを巡り、ついには社内犯罪まで起きてしまった。大手回転寿司チェーン「くら寿司」で起きた「ちいかわ」グッズの横領事件である。


 同社では、食べ終わった皿を回収口に入れると抽選で景品が当たる「ビッくらポン!」というゲームがあり、この景品などを通じて、これまでさまざまなアニメや人気キャラクターとのコラボを実施してきた。


 そんな中、8月21日から人気アニメ『ちいかわ』とのコラボキャンペーンを実施。景品としてフィギュアや缶バッジ、さらに湯呑みや絵皿のプレゼント企画、コラボメニューなども提供していたが、9月5日付の発表で、9月6日の営業開始時から全て中止すると明らかにした。


 理由は「当社の従業員による不正行為が判明したため」である。8月下旬からSNSでは「景品は当たるが、なぜかフィギュアが当たらない」といった声が上がっていた。そんな中、フリマアプリ「メルカリ」で、今回のコラボフィギュアが同じ人物から大量に出品されていたことが注目を集め、くら寿司が調査に乗り出したところ、横領が発覚したという。


 これを受けて、くら寿司は謝罪文とキャンペーンの中止を公表。ちいかわ目当てに来店を予約していた人々が、大量にキャンセルする事態になったため、同社はお詫びとして「全品10%割引」を実施。大人気コラボ企画の中止による客足の減少を補うのに苦心している。


 では、今回の「景品横領事件」から他の外食企業は何を学ぶべきか。


●コラボ依存型経営


 既にさまざまな専門家が多方面から見解を述べているが、企業危機管理に長く携わってきた立場からは「コラボ集客依存」のリスクをあらためて認識するための「他山の石」とすべきではないかと考えている。これは、今回の「景品横領」にも少なからず関係しているのではないか。


 外食企業にとって、人気アニメやキャラクターとのコラボキャンペーンに大きな集客効果が見込めるというのは、今さら説明の必要がないだろう。ファンが殺到して、開店前から長蛇の列ができるケースも少なくない。


 しかし、「効く薬」になればなるほど重い副作用があるのと同じで、集客効果の高いコラボであればあるほど深刻な事態を招く。それを一言で言えばこうなる。


 「集客力が桁外れの人気作品と一度でもコラボしてしまうと、その劇的な売り上げアップが忘れられず、どんどん同様のコラボにのめり込み、やめられなくなるという、コラボ依存型経営になってしまう」


 どういうことか、順を追って説明しよう。


 スシロー、はま寿司と並ぶ「回転寿司ビッグ3」の一角である、くら寿司の特徴の一つは「大人気アニメやキャラクター」とのコラボに重きを置いている点にある。


 分かりやすいのは、2026年4月に15回目のコラボを実施した『名探偵コナン』。また『鬼滅の刃』も2020年から2025年の間に計7回(2021年は2回)、今回、横領事件が起きたちいかわも4回目となる常連組だ。ほかにも『ONE PIECE(ワンピース)』『呪術廻戦』『SPY×FAMILY』『僕のヒーローアカデミア』『SAKAMOTO DAYS』など、人気作品が並ぶ。


 「こんなのスシローやはま寿司もやってるでしょ」と思うかもしれないが、同じコラボでも、力の入れ方や方向性がやや異なっている。


●大手寿司チェーンの中でもくら寿司が断トツ


 例えば、スシローが2026年に入ってからコラボしたのは、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』『文豪ストレイドッグス』、そしてアクションRPG『ゼンレスゾーンゼロ』、スペースファンタジーRPG『崩壊:スターレイル』など4作品。また、この夏は子ども向けに、ハローキティやトヨタ自動車の『GAZOO Racing』ともコラボし、クリアピックやシール、ミニカーなどのオマケが付いた寿司を提供した。


 「ジョジョとキティちゃんは知っているけど……」という反応の人も多いだろう。スシローのコラボ相手には、ファンの間では熱烈に支持されているものの、名探偵コナン、鬼滅の刃、ワンピースのような誰もが知る大人気作品と比べると、集客力では及ばない作品やブランドも多い。


 はま寿司の場合、コラボ自体にそこまで力を入れていない。2023年に映画『すみっコぐらし』とコラボして以降は、店内の子ども向けカプセルトイで、ウルトラマンシリーズや、リラックマの景品を導入するなどしているが、その後、目立ったコラボはない。


 さて、くら寿司がライバルと比べても「大人気アニメ・キャラクター」にこだわったコラボ戦略を推し進めてきたことが分かっていただけたと思うが、実は、これが皮肉にもくら寿司を苦しめている。


 「ビッくらポン!」の景品に「大人気アニメ・キャラクター」のグッズを仕込めば当然、ファンはグッズ目当てに店に殺到するので大繁盛となる。既存のリピーターに加えて、これまでくら寿司に見向きもしなかった人が上乗せされるからだ。また、そうしたコラボ目的の客は、客単価も大きく上がる。「ビッくらポン!」で当たるかもしれない限定グッズ欲しさに、寿司を食べまくってくれるし、今回のちいかわコラボのように「税込2500円のお会計ごとに」クリアファイルや絵皿などのプレゼントももらえるからだ。


 しかし、これはあくまで「キャンペーン」なので、その効果は長く続かない。ファンが消えれば当然、客数も売り上げも大きく減少する。この反動は、コラボ相手の人気が高ければ高いほど大きい。


 そこで客数や売り上げを安定させるため、くら寿司はコラボという「飛び道具」への依存を強めてきたのではないか。例えるのなら、ドーピングによって好成績を出したアスリートが、その成績を維持するために薬物に頼り続けるようなものだ。


●年々増加していったくら寿司のコラボ


 つまり、近年のくら寿司は、コラボで訪れたファンが離れると、また次のコラボで新たなファンを呼び込むという「コラボ商法」に依存している可能性があるのだ。


 なぜ筆者がそう思うのかというと、くら寿司のコラボ数が年を追うごとに増加傾向にあるからだ。


 2023年にコラボした人気アニメなどは6つ。それが2024年になると9つに増える。2025年は12に増え、ほぼ毎月何らかのコラボを実施するようになった。そして2026年も、ちいかわまでに8つのコラボを実施しており、月1回に近いペースだ。


 なぜこんなにもコラボが右肩上がりで増えたのかというと、コラボで増やした客数をキープしていくには、より強力なコラボを続けるしかないからだ。こうした構造をよく示しているのが、7月22日に公表した「くら寿司6月度月次情報」と、8月19日に公表した「くら寿司7月度月次情報」である。


 2026年に入ってから、くら寿司の客数は5月と8月を除き、前年割れが続いている。特に落ち込んでいるのが6月(前年比87.5%)と7月(同88.6%)だ。では、なぜこの2カ月は落ち込んでしまったのか。その理由の一つを、くら寿司側はこう説明している。


前年には社会現象となるほど人気キャラクター「ちいかわ」とのコラボキャンペーンを実施しており、前年同月比としての比較水準が高い状況にありました


 2025年は6月27日、7月11日、7月25日と3回にわたって、ちいかわとのコラボを実施。ビッくらポン!の景品でフィギュアや缶バッジを提供、さらにクリアファイルやうちわ、寿司皿をプレゼントした。こうしたコラボを実施したことで、7月の客数は前年比105.3%、売り上げに至っては前年比115.9%と、いずれも好調だった。


 しかし、それは裏を返せば、2026年6〜7月に客数を「前年超え」にするには、ちいかわ以上の「強いコラボ」を投入しなくてはいけないということだ。この時期にコラボしていたのは『呪術廻戦』(5月15日〜、5月29日〜、6月12日〜)と、スヌーピーと仲間たちが登場するコミック『PEANUTS』(6月26日〜、7月10日〜、7月24日〜)だった。


●コラボ商法の無限地獄に


 もちろん、どちらも多くのファンがいる人気コンテンツではあるが、現在のちいかわ人気と比べると、爆発力という点ではやや見劣りする。その差が、6〜7月の客数の前年割れという形で表れたのだ。


 一般的な外食店であれば、客数や売り上げは気候や休日の数などの影響も大きく、コラボだけに左右されることはない。しかし、くら寿司のように、毎月のように何らかのコラボキャンペーンを行っている「コラボ依存型経営」の場合、どうしても「コラボの強さ」が客数に影響しやすくなるのではないか。


 2026年に客数が前年を上回った5月と8月を見ると、そう考えざるを得ない。5月は劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』とのコラボ第3弾の時期で、その後は前述した『呪術廻戦』だ。8月は前半が『ミニオンズ』で、下旬からは『ちいかわ』だ。


 いずれも子どもから大人まで幅広く愛される人気作品・キャラクターであり、「客数の前年超え」に大きく貢献したと考えられる。それは裏を返せば、来年の5月と8月には名探偵コナン、ミニオンズ、呪術廻戦、ちいかわと同等、もしくはそれ以上の集客力を持つコラボ先を用意できないと、客数も売り上げも前年割れに転じてしまうということだ。意地の悪い見方をすれば、くら寿司は「コラボ商法の無限地獄」に陥っているともいえる。


 このような「コラボ依存型経営」に多くのリスクが内在するのは言うまでもないが、中でも深刻なのが、現場で働く人々のモラルハザードである。


 外食ビジネスというのは本来、食事のおいしさと、それを家族や仲間で楽しむ空間を提供することで、顧客に満足感を与えるものだ。この業界を志す人は、そうした仕事に価値を見いだしている。


 しかし、毎月のように人気アニメやキャラクターとのコラボを行い、その限定グッズ目当てでやって来る人々への接客を続けるうちに、そうした価値観が変わっていく。


●「飛び道具」的な扱いだったはずが……


 自分が厨房で一生懸命働いて提供する寿司よりも、ちいかわ、名探偵コナン、鬼滅の刃などの限定グッズを目当てに訪れ、そこにお金と時間を使う人々を日常的に目にしているうちに、「なんだよ、こっちのほうが手っ取り早くもうけられるじゃん」と、くら寿司でコツコツ働くことがバカらしくなる。そんな荒廃したムードから、犯罪や不正が生まれることもある。


 本来、外食のコラボキャンペーンというのは、これまでその店に行ったことのない人の来店機会につなげる、言うなれば新規顧客を獲得するための「飛び道具」的な扱いだった。あくまで食事という「主」があって、コラボは「従」という位置付けだ。


 しかし、最近のくら寿司を見ていると、その「飛び道具」が、客数や売り上げを確保するために、なくてはならない存在になっているように感じる。「主」と「従」が逆転している。


 断っておくが、コラボキャンペーンを否定しているわけではない。ファンの皆さんにとっては、他で入手できないものをゲットできる大きな喜びだろうし、外食側にとっても新客拡大の大事な施策だ。


 ただ、「強すぎるコラボ」には、食事そのものの価値を相対的に低下させてしまう側面もある。その構造は、「オマケ商法」と共通している。


 50代以上の読者なら覚えているだろうが、かつて子どもたちに人気のあった「ビックリマンチョコ」では、スーパーゼウスなどの人気キャラクターシールを収集することが目的となり、チョコ菓子が大量に捨てられることが社会問題になった。ビックリマンシールには今もファンがいる一方で、あのウエハースチョコそのものに魅せられた人は少ない。チョコがオマケ扱いとなり、主従が完全に逆転している。


 くら寿司にも、そんなムードが漂ってきてはいないか。SNSやネットを見ていると、人気アニメのコラボキャンペーンのときに、ビッくらポン!で景品が当たる確率を高めるため、作品にもくら寿司にも興味のない友人を強引に食事に誘った人もいる。


 「お目当ての限定グッズがもらえて超うれしいけど、どんなもん食ってきたっけ? 皿をビッくらポン!に入れるのに夢中で忘れちゃったよ」なんていう客が大挙して押し寄せることは、果たして「成長」といえるのか。くら寿司の「コラボ依存」がこれからどうなっていくのか、注目したい。


(窪田順生)



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